第13話【配信者は】順調な活動は油断を招く【厄介ファンも多い】


「買い取りですね?それでは、番号が呼ばれるまで協会内でお待ちください」

「ありがとうございます」


 いつものように受付嬢の女性に持ち帰ってきたポーション類を渡し、ルエルが座っていた席の前に座ってスマホをいじりながら時間を潰す。


 結構増えてきたな。


 思った以上に配信活動の反響がいい。


 現在配信アカウントのフォロワー数は3.3万人、一週間でこの人数は相当いい数字な気がする。


 ルエル目当ての男たちも多いが、ダンジョンマスターというものに興味が湧いた人たちや、俺の戦いを面白いと思ってくれる人たちなどもいて…少し恥ずかしくもあり嬉しくもある。


 まあ、配信を始めてから一週間一度もルエルの顔を出していないのだが、よくもまあルエル目当てで見に来れるものだ…


 俺もフォロワー数も増やしたいし、FWも増やしたいのでルエルにも頑張ってもらいたいのだが…流石に目立つからなぁ…


 調べると、外装迷彩という翼や光輪といった天使の部分を隠す機能もあるが、他と同じく100,000DPで他のものを買ったほうがいいかも?と思いながら結局一週間が経過してしまった。


 とはいえ、この一週間で、結構溜まってきたので、そろそろ何か新しいことに挑戦してみてもいいかもしれないな…


──────────────

DP︰230,000 DP

FW︰66,000

『召喚』『調整』『交換』

──────────────


 うむ…この画面を見るとニヤニヤしてしまうな…


 FW66,000。これが日給って、こんなに貰ってもいいんですか!?って感じである。日に日に増えていくFWに笑みが隠しきれない。


 適当にスマホをいじるふりをしながらダンジョンメニューの召喚の項目を眺める。


「次は高いやつ買いたいんだよなぁ…」


 俺は量より質派だ。天使はどれも高いが、安い天使なら全然召喚できる。それに、次召喚する天使はとりあえず防衛用としてダンジョンに配置しておきたい。宝玉も今は便利だが、あまり持ち出すものでもないだろうしな。外でルエルが守るよりはダンジョン内で守ったほうがいい。


 だが、せっかく召喚するなら700,000DPの熾天使、500,000DPの智天使、400,000DPの座天使辺りを購入したい。


 昨日今日はFWがあまり伸びていないが、それでも1日60,000なので約2週間あれば熾天使も購入できる。


 ここは貯めるべきか…?でも最近FW増えてないし、適当に天使を増やして安価で刺激を与えてブーストをかけても…


「なんでそんな冷たいこと言うんだよぉ!!?!君の彼氏であるこの僕が守ってやるって言ってんだろぉ!!?」


 なんだろうか?揉め事か?


 探索者は、その職業柄喧嘩が多い。とはいえこの大地の試練は稼ぎとしてはあまり美味しくはないし、実力を試すためにくる探索者ばかりだ。そのためそこそこ民度がいいのでこういう喧嘩は珍しいな?


「少し見てくかぁ…」


 野次馬でもするか、そう思い俺は席を立ち、人混みの方に向かう。ルエルは…騒ぎの方に目を向けることもなく、席で買取査定の前に注文したパフェを眺めながらじっと待機している。先日気づいたことだが、彼女は食事や車など、過去になかった物に非常に興味を示しているようなのだ。


 家のルンバを眺めて1時間位ぼーっと突っ立っていることもあるくらいだ。


 彼女は俺が命令しない限り外では勝手に動かないので放置でも大丈夫だろう…っと。


 人混みをぶつからないように人混みの端を進むと、そこには最近良く見る黒髪美少女配信者がいた。


 確か名前は神々美月だったか?よく入り口で準備しているところに遭遇していたので調べてみたことがある。


 uwitchフォロワー数130万人、同接平均10万人以上、アイドル活動用SNSフォロワー数240万人超えの超有名女子高生ダンジョン配信者だ。


 黒い髪に黒い瞳、女子高生とは思えないスタイルに、清楚で可憐な性格と声の彼女はまるで天使の生まれ変わり!とネットでは大人気だった。


 ルエルちゃんと同じくらいの美少女なので、本物の天使であるルエルもあれくらい人気になってもいいんじゃないかとは思うがね。


 探索者等級は脅威の王級。今までソロで探索者を続けているが実力は確かで、一週間で下層第四層まで進んだようだ。


 同じタイミングで潜りだした俺が今上層五階層のボスモンスターに挑戦するというところなので、ものすごいスピードであるということがよくわかる。


 チームには所属していないようだが、帝級探索者のチームからもオファーが来ているらしく、いま引っ張りだこの時の人って感じのようだ。


「だからぁっ…どうして拒絶するんだ!僕は天田財閥の御曹司、天田新人だぞぉ!」

「申し訳ありませんが、迎えが来ていますので…」

「どうしてだ!?君はストーカーに狙われてるんだぞ!いつも君の配信に怪しいローブ二人組が写り込んでいるんだ!きっとストーカーで君のことを襲おうと!!!」

「…私を襲う、ですか?王級探索者である私を?」


 ふむ。どうやら茶髪の男に絡まれているようだな。天田…御曹司…どこかで聞いたことがある気が…


「おや、あの男のことを知らないのですか?」


 ぼーっと様子を眺めていると、突然後ろから声をかけられる。


「え?あ、はい、なんでしょう…」

「振り返ると、そこにはオークがいた…そう思ったでござるね?」


 振り返ると、そこにはオークがいた…はっ!


「え、えーっと…あなたは?」

「ふっ。拙者の名前が知りたいのですか?拙者の名前は榊田太…天使を求めてここまでやってきたのでござる!」

「……はぁ?」

「実は拙者、いつものように掲示板を巡回していた、拙者、運命の人と出会ったのです!」

「運命の人?」

「はいっ!本当に天使のような少女でした…ですが、最近は掲示板ではなく配信活動をしているようで…話しかける気はありませんが、遠くからでもいいので一目見たくて東京からここまで夜行バスでここまで来たのでござる…アーカイブ勢でしたので生であの天使を見逃したことが悔やまれるでござる…ですが!今は配信や掲示板の通知をつけていつでも参加できるように待機しているでござるよ!次のスレッドではぜひとも拙者の安価を採用してもらいたいでござる!」

「へぇ〜」


 安価スレッドから配信者か。随分と俺と同じような人間がいるようだな。


「…と、拙者の経歴より君が知りたいのは前の男の方でしたか?」

「え?まあ、そうですけどよくわかりましたね?俺、ローブを着てるのに後ろから気になってることを当てれるなんて…」

「ふふっ…気配ですぞ、け、は、い。さて、そんなことはどうでもよくて、男の話ですね。あの男の名前は天田新人、21歳。天田財閥の次男坊で美月の厄介ファンです。強調コメで彼女のチャットに怪文書を送るタイプで…他のファンからはさっさと消えろニート野郎って言われてたでござるね」

「へ、へぇ…」


 まあ、あれだけ可愛いのなら厄介ファンは当然いるだろうが…結構キモいな?


 自分の理想を押し付けてきて、良かれと思って迷惑行為を堂々と行う面倒な存在。


 半年ROMれと言いたいね。実際言ったら喧嘩になるだろうから言わないが。


「はっ、これだから勘違いキッズは嫌いでござる…半年ROMれって言いたいですぞ!」


 言いやがった!しかも結構大声で!


「はぁっ!?今、誰が何って言ったぁ!?僕は美月の彼氏だぞ!!今言ったやつ出てこい!天田財閥の力で探索者が二度とできないようにしてやる!!」


 うん。ブチ切れてる。もの凄い切れてるよあれ。一体どうするんだという目で彼を見ると…


 滝のような汗を流しながら硬直していた。


「そこから聞こえたな…!おい、どこのどいつだ!」

 

 指を指したのか、こちら側の人混みがまるでモーゼの海割りのように別れる。そして、そこには俺と榊田氏が残されていた。


「お前らのどちらかだなぁ?もういい、父上に掛け合ってどちらも探索者をできなくしてやろう!」

「なぁ、これやばいんじゃないの?」


 俺がそう言うと、彼は小声で物凄く焦ったように言う。


「まずいどころの話ではないでござるよ…!天田財閥はダンジョン産業の最先端を走る巨大グループ…一人や二人探索者をやめさせるくらい簡単でござる…!拙者、探索者で5年間働いているでござるし、もし探索者としての仕事ができなくなれば…む、無職に…」

「えぇ…?」


 悲壮の表情の太くん。


 じゃあなぜ喧嘩を売ったんだと言いたいが…仕方ない…


「はぁ…言ったのは俺だよ、俺」


 観念したように両手を上げ、周囲の視線をこちらに向けるように動く。


 仕方ないが、別に俺は金が必要なわけではない。


 探索者じゃなくても勝手に侵入してダンジョン攻略できるし…ここは俺が罪を被ってやろう。


「いやいや…悪いね。実は俺、思ったことが口に出るタイプなんだよねぇ…抑えよう抑えようって思ってたんだけど…まあ出ちゃった?って感じだから許してほしいなぁって」

「許すわけが…お、お前!!」

「ん?」


 何かを言おうとした天田は、何かを思い出したかのようにこちらに向けて指を指し、とんでもないことを言い出した。


「お前、美月のストーカーだろ!!」

「……はい?」

「その安物のローブ、毎日毎日美月の配信の後ろの方にいた二人組とおんなじローブだぁ!ほら、真実だったじゃないか!!」

「写り込んで…いや、ダンジョン探索する時間が同じタイミングなのはよくあることだろう?それに、彼女はダンジョンの前で雑談してるし写り込むくらいよくあることじゃ…」

「はっ!これだからストーカーは困るんだ。ジロジロ美月のことを見ているのも全て配信に写ってるんだぞ!しかもその姿、自分は犯罪者ですと言っているようなものじゃないか!!」


 こいつをどうすればいいんだという目で神々美月の方を見るが、彼女は俺と天田の会話をただ呆然と眺めている。何我感せずみたいな態度取ってんだ…あんたがどうにかしろよ!


 こいつら…ほんとにどうしてやろうか?


 なぜ俺がこんな面倒事に巻き込まれないといけないのだろうか?元はといえば俺は全く関係のない赤の他人、ただの野次馬だ。


 厄介な視聴者は配信者がどうにかするとかそういうのを言うつもりはないが、自分の視聴者が暴走しているのに静観は流石におかしいだろう。


 だが、天田の標的は完全に俺に定まったようで、先程から無いことを無いことを叫び続けている。


「…面倒だなぁ…………」


 誰にも聞こえないように、小さく呟く。

 

 まぁ、有名人と言うのは色々とあるのだろう。ファンと極力接触したら駄目とか、そういうのが。


 彼女に怒りをぶつけるのはお門違いだ。俺が今怒りをぶつけるべきはこのニートくんなんだろうが…流石に暴力はまずいだろうなぁ…


「まあいいか」

「は?何がいいんだっギョペッっぇっっっ!!!?!!!」


 3割くらいの力で天田の顔面を殴りつける。


 ゴリっという何かが砕ける音と感触。うーん…これはやっちまったか?


 そう思うが、もう手遅れだろう。手出しちゃったしね。


 一応生きているかを確認してみる。うん、呼吸もしてるし大丈夫だな。伸びているだけだ。


 さて…


「じゃあ、後始末よろしく!」


 こんなところにいられるか!俺は自室に帰らせてもらう!

 

 俺は、未だにパフェに手を付けていないルエルの手を引き、協会から足早に去るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る