第12話【正体は】ダンジョン配信者としてデビューしてみた【秘密だよ】
「お前ら落ち着いたか?」
段々と勢いが落ち着いてきたコメント欄を見て、そう問いかける。
『ごめん、取り乱した』
『確かにこれは隠さないとだめだわ』
『もうちょっと見たかった』
『天使ちゃんが、謎のローブの化物になった…』
天使というところは信じてもらえないみたいだが、彼女の顔を隠す理由は理解してもらえたようだ。憶測でルエルが悪く言われるのは俺も気分が悪いしな。
「まぁ、もっとルエルを見たいって人たちはアーカイブ残しておくからそこでじっくりと見てくれ。まあこれで隠す理由は理解してもらえたか?」
『理解した』
『納得だわ』
『天使ってことはまだ信じ難いが、あの翼が本物とほぼ変わらない出来だということは理解できた』
『正直偽物とか本物とかどうでもいい』
『声聞かせてくれぇ〜』
「声も可愛すぎてお前ら止まらなくなるからまた次な」
うん。ルエルはどうやら視聴者の心をガッチリと掴んだらしい。視聴者も7000人を超えた。流石は我が家の看板天使である。
「それじゃあ、ダンジョン探索行くぞ〜!」
『ついにか』
『あれ?この配信ルエルたん鑑賞会じゃないの?』
『というかなんでダンジョン内でこんなゆっくりできるの?モンスターは?』
目についた視聴者の疑問に答えながら移動する。
「ここ、試練のダンジョンに入ってすぐ右は行き止まりなんだよ。だから人も来ないしモンスターも来ない。ダンジョンの中でルエルのお披露目をしようと思ってたからちょうどよかった。多分協会の中でローブ脱いだら騒ぎになりそうだったし…」
『それは確かに』
『下心ありそうなチームがわんさか話しかけてきそう…』
『ルエルたんをちゃんとやり〇んから守ってくれよ』
『なんでルエルちゃんに荷物持たせてんの?自分で持てよ』
「ルエルに荷物を持たせてる理由は、今日は俺が前衛で戦い続けるからだよ。流石に荷物持って戦えるなんていうほど強くないし」
『違う違う、そうじゃない』
『女の子にあんなに荷物持たせて恥ずかしくないのってことじゃね?』
『ノスターってもしかして天然?それともシンプルクズ?』
そう理由を説明するが、どうやらそういうことではないらしい。
「あぁ…そういうことね?いや、俺も普通にか弱い女の子とかだったら荷物持たせたりしないよ?でもルエル、俺より何倍も力が強いんだよねぇ…正直効率的にも彼女が持ったほうが移動も何もかもが早い」
『か弱い女の子にしか見えないんだが?』
『言い訳とは見苦しいぞ』
『見損なったぞ』
『謝罪しろ』
「ルエル、持ち上げてー」
手を上げながらそうお願いすると、ルエルは両手を俺の横腹に入れて、軽々と担ぎ上げた。
「どうよ?」
『え?』
『嘘だろ?』
『もしかしてルエルたん、等級上級以上?』
『ギャップ萌えきたー』
『よく考えてみろ。設定は器械の天使なんだから力は強いに決まってる』
『可愛い大きい荷物を持ってるルエルたん可愛い』
『これ上から釣り上げたりはしてないよな…すごい』
「よっこいしょっ…とまぁこんな感じで正直ルエルたんはこの辺の階層じゃ強すぎるから後衛で荷物持ちってわけ」
『理解した』
『グチグチ言ってごめんな』
『味噌食べたい』
『謝罪する』
どうやら納得してもらえたようだ。
ちなみにいまコメント欄ででた等級とは、探索者のランクである。
全員初級からのスタートで、下級、中級、上級、特級、王級、帝級となっている。
ちなみに俺は下級探索者である。中級とか上級から始めても良かったのだが、流石に上級まで行って誰も知らないというのは怪しまれそうなのでやめた。
「ぐっぎゃっ、ぐっぎゃっ」
と、頭の中でどこかの誰かに解説をしていると、変な声を上げながら徘徊している土色の小人が現れた。
『ゴブリンじゃん』
『クソザコじゃん』
『やつは八大ダンジョンのうちの一つである大地の試練、一階層に現れる最弱のモンスターの【土ゴブリン】じゃ!投石が得意なモンスターじゃぞ!』
『なんか博士いる?』
『属性ゴブリンってマジで弱いよな…』
『いないほうがマシなレベル』
『あいつら勝手に罠に引っ掛かってタヒぬもんな』
散々な言われようだが、俺も同意である。よくダンジョンにいるゴブリンだが、大体が猿以下の知能で、自分たちで喧嘩して殺し合うくらいだ。無視して先に進む探索者もいるくらいの雑魚。
だが、モンスターはモンスター。とりあえず試し斬りと行こうじゃないか。
右手のバールをしっかりと握る。
このバールの強さは不明だが、値段通りなら…
「ふっ…」
一瞬でゴブリンとの距離を詰め、思いっきりバールを振り下ろす。
すると、ゴブリンの頭はまるで豆腐のように砕け散った。うぉっ!!力加減ミスったか?
『うわぁ…』
『足はっや』
『流石にオーバーキルすぎるだろ』
『ぐっろ』
頭部が粉砕されたゴブリンは、その場に倒れ…光となって消滅した。
ドロップは…無しか。
試練のダンジョンのモンスターは、他のダンジョンとは違い死体が残らず消滅するという特徴がある。
普通のダンジョンであれば解体をして、そのモンスターの素材を入手できるのだが、試練のダンジョンのモンスターは、光となって消滅したあとアイテムをたまに落とすのだ。
ポーションや魔法のアイテム、スキルオーブなどドロップ品は多数あるが、確率はとても低いので、試練のダンジョンでは宝箱で稼ぐのがメインである。
血などの汚れも共に消滅してくれるのは助かるがな。
よし、それじゃあ次行くか。
『あんなグロい殺し方しておいて無言って…もしかしてサイコパス?』
そこでドローンの横の液晶のコメント欄が目に入る。そうだ、そういえば配信してたんだった。忘れてたな。
「あ、ごめんごめん。今まで配信とかしたことなかったから全然忘れてたわ」
『まあ戦場だし集中するのはいいことだな』
『こっちは気にしなくてもいいよ。たまに映るルエルたん見てるだけだから』
『殺し方グロいよ』
『もう少し抑えてぇ…』
『ルエルたんという癒やしを求めて見に来たらとんでもないグロ映像見せられた』
どうやら頭部粉砕は不評のようだ。まあそれもそうだろう。俺だってグロいなって思ったしな。
次はもう少し弱めてみよう。
ちなみにこのバールの値段は7,000DPだ。結構値段は高かったが…これなら結構耐えられそうだ。
『というか、あの振る速度と移動速度、もしかしてノスターも上級?』
「ん?俺は下級だぞ?」
『こっわ』
『最近の探索者はここまでインフレが進んでいたのか…』
『結構早いよな?もしかして瞬足履いてた?』
ふふふ…皆が俺の実力を勘違いしているようだな。
「ネタばらしすると、俺の強さの理由はこれだ」
そういい、カメラに3つの宝石を映す。そう、この身体能力はこのドーピング宝石の力なのである。
『おぉぉぉ!?』
『最強石じゃん!』
『もしかしてノスター金持ち…?』
『ステータス教えて』
「えーっと、宝石の力が+1でステータスは上から、4、3、3、2だ。」
『結構高いやん』
『元々は中級くらいなのか』
『紫以外の宝石全部持ってるのはズルすぎるだろ!』
『不公平だー!』
探索者タグで見れるステータスは、上から筋力値、耐久値、俊敏値、精神値だ。
1〜7までの数値があり、初級は大体オール1で、そこから下級から中級、中級から上級へと、一つ等級を上げるにはステータスを1上げなけれならない。つまり今の俺は上級と遜色ないステータスを持っているわけだ。
とはいえ上級まで行くと技術やスキルなど、ステータスだけじゃない世界なので、技もへったくれもない俺にはそこまでの実力はないだろうがな。
『でも、ドーピングで強くなっても油断したら死ぬからな。気をつけろよ?』
「ああ、その通りだな。油断せずに慎重に進むよ」
忠告コメントにそう返事をし、俺はダンジョンの奥に奥にと足を進めるのであった。
▼
「ん〜今日はここまでだな…」
視聴者のコメントと会話をしながら、ダンジョンをある程度進んだところで立ち止まる。現在の場所は大地の試練上層の五階層だ。体力にはまだ余裕はあるが、ここはやめておこう。
元々今日はルエルのお披露目と視聴者への自己紹介がメインだったしな。無理する必要もない。
『意外と面白かったぞ』
『ルエルたん目当てだったけど意外とお前もやるんやな…』
『これは高評価』
『フォローしといた』
『安価スレはもうやんないの?』
『ノスター強い』
「おぉ……」
思った以上に高評価が多くて感動だ。
uwitchのフォロワー数は……4500人!これ、結構すごいのでは?
「お前らが思った以上に評価してくれててびっくりだ…これからも頑張っていくからたまに見に来てくれると助かる。安価スレの方は大地の試練の中盤ら辺で新しい天使迎えようと思うからその時かな?まだ未定だけど安価スレの方もよろしく!じゃ、またなー乙ー!」
『乙ー』
『おつ』
『おつかれー』
『楽しみにしとくー!』
視聴者と別れを告げ、配信を閉じる。
「ふぅ…上手く行った…のかな?」
比較対象がいないため、これがいい結果なのかは不明だが、コメントの反応はそこまで悪いわけでもなかった。これからはDPを貯めたいし、配信活動でFWを貯めるのもいいかもしれないな。
たまに安価スレをすることで安価スレの価値を上げることもできるし…
「それに、次の目標は高いからなぁ…」
俺は、ルエルに渡してもらったカバンに手を入れダンジョンメニューを確認する。
──────────────
DP︰300 DP
FW︰18,000 DP
『召喚』『調整』『交換』
──────────────
おぉ…増えてる増えてる。配信前が、確か13,000くらいだったので5,000人は増えたか?
安価は見たけど配信は見ていないという人もいそうだな。他にはアーカイブ勢とか…これは明日起きたらまだ増えてそうな雰囲気がある。
とはいえ、配信活動はここからが本番だ。同じ視聴者しか見なくなればFWはなかなか増えなくなるだろう。だからといって新規を集める方法なんて全く知らないので対処のしようがないが。
「ルエル、帰ろうか」
「はい。マスター」
「…なんか今日、ルエルそれしか言ってない気がするね」
「そうでしょうか?」
「うーん…多分?」
ルエルと会話をしながら帰り道を進む。
俺の久しぶりのダンジョン探索はそこそこ満足の行く結果で、幕を閉じたのだった。
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