第11話【正体は】ダンジョン配信者としてデビューしてみた【秘密だよ】


「それじゃあ、ちゃんと守ってくれよ?」

「はい。マスター」


 ルエルにそう言い部屋を出る。


 ルエルの手のカバンの中には、俺の心臓である宝玉が入っていた。


 彼女にはぜひとも頑張ってもらいたい。彼女があれを落として割れでもしたらその瞬間俺の人生終了だ。


 持っていくのはものすごいハイリスクとなるが、外でもDPが使えるというメリットもあるので悪くはなかった。


 彼女の装備は白い露出多めのボディスーツとニーソックス…を隠すように怪しげなローブを纏っている。外見が良すぎるからな。女や金を持った探索者を狙う探索者狩りと呼ばれるクズもいるらしいし、狙われないための自衛は必要だ。


 それと翼を隠す為でもある。そのせいでシルエットがとんでもないことになっているが…まあ我慢してもらおう。


 武装をしまう為の収納袋というダンジョンアイテムを交換したかったのだが、10,000DP前後と結構高く購入を断念。彼女の武装収納機能なんて100,000DPもかかるというね。一応即座に両手に展開できるというメリットなどもあるらしいが…今はまだ買えないので折りたたんで彼女に背負ってもらっている。


 俺はというと、安価で選ばれた神登場という文字が書かれたTシャツと、小さな皮袋をくくりつけた黒いズボン、右手には1mはある長めの鉄梃を握っている。


 ちなみに同じくローブを身に纏っている。ダンジョン内では脱ぐが、あまり姿をダンジョン以外で人の前に晒したくないからである。


 背中には配信器具の入ったリュックサック。


 正直ダンジョンに行く装備ではないが問題はない。


 現場でDPを使えるということもあるがら俺の秘策は別にある。


 それが、このズボンにくくられた皮袋だ。


 この中には強化の宝石と呼ばれる、ダンジョンの宝の一つである人間の能力を強化する宝石が入っている。


 なかなか入手できず、装備に一つはめてバフをつけたりするような宝石である。


 赤は筋力、緑は俊敏、青は耐性、紫はスキル威力強化と、結構種類がある。


 DPを貯めてスキルを得たほうが強いかなと思ったが、今俺に必要なのは身体能力だ。


 ダンジョンで戦っていれば、ステータスは上昇する。ならば最初にステータスを伸ばして、あとからスキルを覚えた方が戦いに慣れることができると思ったからだ。


 確かに雷操作のスキルとかは、チートレベルだが、あんなもん手に入れたら楽を覚えた俺は遠距離で一生撃ち続けるだけの固定砲台になってしまう。それでは邪神には勝てない。なのでとりあえず攻撃を避けたりするために、体を鍛えなければならないのだ。

 

 と、そんな理由があり、小さな皮袋に宝石を入れているというわけだ。排出率自体が少なく、世に出回っている情報が少ないので、皮袋に入れるだけで装備判定になり能力が上がるのは初知りであったかとても助かった。ダンジョンアイテムの加工なんてやったこともないしな。

 

「ちょっと高かったけど…」


 DPは10,000と程々にしたが、とりあえず紫以外を全部購入した。ちなみに効果は…どれくらい強くなったかは、またあとで説明しよう。


 そんなこんなで俺達は、今日ついにダンジョンを出るというわけだ。


 約一時間。無言で真っ直ぐ道なりに進む。


 先の見えない美しい通路は少しばかり雰囲気があるが、まあルエルもいるので問題はない。


 っと、どうやらついたようだ。


 ダンジョンを抜ける階段が目の前に現れる。この階段を上がれば、外ということだろう。


「ふぅ………よし」


 深呼吸をして、落ち着いて…階段を上がる。そして…上がった先にはコンクリートの壁が広がっていた。


「………お?」


 まさかの行き止まり…どうすればっ!?


 何かないかと壁に触れようとすると、壁を腕がすり抜ける。これは…


「とうっ!」


 勢い良く外に飛び出す。


 そこは、薄暗い路地裏であった。


 周りには、ビルのような建物が並んでいる。


 人が来ないので、どこかの山奥といった辺境だと思っていたのだが…まさか入り口が隠されているとは。


 とりあえず、路地裏から出てみよう。


「じゃ、ルエルは後ろをついてきてね」

「はい。マスター」


 慎重にあたりを確認しながら、外に出る。そこには、たくさんの人が歩いていた。


「おぉ…!人だ!」


 街を歩く人々を見て、そう声を漏らす。すごい久しぶりに人を見た。


 あたりを見渡す限り、都会のようだが…うーん…一体どこだここ?


 とりあえず歩いてみよう。駅でも見つければ大体の位置がわかるはずだ。


 人…人…人…どこを見ても、どこを歩いても人が目に入り、人の横をすれ違う。そうやって道路を進んでいると…


「……探索者だ」


 二人の男女が俺の横を通り過ぎる。男は茶色いレザーアーマーに片手剣を腰に差していて左手にはそこそこ何かが入った袋が握られていて、女は肌面積の多い盗賊風の衣装に小さな短剣を持っている。


 そんな彼らは、いいことでもあったのか楽しそうに会話をしている。


 聞き耳を立ててみると…


「今日も結構稼げたなぁ〜」

「そろそろ、下層に挑戦してみてもいいかもね。大地の試練は深層一層まで行ってるらしいし情報も出てるしね」

「そうだな、今日から準備していくか?」

「それもそうね。今日から打ち上げは控えめで行きましょ」

「今日は?」

「行くに決まってるでしょ!」


 そうして彼らは人混みの中に消えていく。


 大地の試練…八大ダンジョンか!


 八大ダンジョン。北海道、東北、関東、東海、近畿、中国、四国、九州にある、最難関ダンジョンだ。なぜか日本に密集しているダンジョンの中でも高いレベルと、下層よりも下の深層と呼ばれる階層があるダンジョンの総称だ。


 うろ覚えだが、確か大地の試練は四国の愛媛の松山市にあるダンジョンである。


 一層一層がThe普通のダンジョンで、どの層も実力があれば突破することができる。自分の強さを、ここのダンジョンの何層まで行ったかで表せたりもするらしい。


 つまりここは愛媛県松山市ということか。


 そして、ここからは推測だが、アイテムなどを手に入れた彼らがいま帰宅中ということなら、向こう側に探索者協会があるはずだ。


「ふっ…完璧な推理だ」


 自画自賛しながら歩みを進める。


 数十分ほどで、辺りは探索者が多くなってきた。これは当たりのようだ…お!


 探索者が出入りする建物を見つける。


 少し早足で出入り口の前に立つ。


 そこには探索者協会と書かれていたのであった。

 

 

          ▼



「身分証明書をこちらに」

「はい」

「えーっと…はい。ノスター様に、ルエル様ですか?」

「そうです」

「珍しいお名前ですね?」

「日本生まれ日本育ちなんですけど、祖父がヨーロッパ人で…」


 受付の人に促され、準備しておいたを渡すと、機械で身元を確認される…が。


「なるほど…はい。問題ありませんね」


 第一の難所、身分証明書は簡単に突破する。


 理由は、DPで用意しておいた偽造探索免許を使ったからである。


 ダンジョンさん様々である。本当にバレないなんて…一応言い訳を考えてはいたが、どうやら必要なさそうだ。

 

「ノスター様、ルエル様、どちらも探索者タグを紛失してしまったため再発行ということでよろしいですか?」

「はい。よろしくお願いします」


 一応新規登録もできそうだったが、とりあえずさっさとダンジョンに行きたいので再発行にした。


 前はただバイト感覚でやっていた探索者だったが、今はとある理由もあり、少し楽しみなのである。


 そわそわと、再発行を待っていると受付の人が帰ってくる。


「えー、それではこちらをどうぞ」

 

 そう言い、ドッグタグのようなものを手渡される。


「ご説明は必要でしょうか?」

「ん〜いや、大丈夫です。一応ここのダンジョン来たことあるので、でも一応ダンジョンの地図貰っても?」

「はい。ダンジョンの地図ですね?上層の地図は3000円になります。それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 少し高いがここは我慢だ。ちなみに100DPで1000円だ。地図は必要だと探索者時代に学んだから、お金を準備しておいてよかった。一体DPで交換した通貨はどのような扱いになるのかは不明だが…もしバレたら犯罪者だが、使えるのなら問題はないのだ。


 2,000DPで高級装備だと100DPで1000円は割には合わないDPではあるが、必要経費だ。


 ちなみに上位の探索者が使用するような数千DPの装備は日本円だと1,000万円以上だ。いつかは転売でもして稼ぐことにしよう。


 そうして受付嬢に見送られながら、ダンジョンに向かう。


 探索者協会は、原則としてダンジョンの前か上に建てられる。


 そのため、この探索者協会の地下に…ここか。


 地下に続く階段と周辺で準備をする探索者たち。彼らを見習い俺も近くでリュックから配信機材を取り出す。


 カメラをスマホと接続し、配信準備をする。


 機械をいじっているのは俺だけのようで他の探索者達は皆装備や回復アイテム等の確認をしている


 他のダンジョン配信者は…お、一人いるな?


「それでは、本日からこの試練の塔に挑戦して行きたいと思います」


 艷やかな黒い髪に大きな瞳とスラッとした顔立ち、どこかのアイドルだろうか?とても綺麗な人だ。胸当ての上からでもわかる大きな胸が周りの探索者の目を引きつけている。あれは相当なものだな…


 カメラに向かって何か話をしている。どうやらもう配信をしているようだ。

 

 うーん…俺は後ででいいか。


 別にここで始める必要もない。少しダンジョンの雰囲気を把握してからつけることにしよう。


 俺は、ローブを脱ぎ、ローブをコインロッカーにしまう。流石にかさばるからな…リュックはルエルに持ってもらうか。


 女の子に荷物を持たせるのは少し気が引けなくもないが、筋力も体力も彼女のほうが圧倒的に上だし、今日戦うのは俺だけだ。彼女に持ってもらったほうが合理的だろう。

 

「…よし。行くか!」


 そうして俺は、久しぶりにダンジョンに足を踏み入れたのだった。



           ▼



「………あー、あーどうだろ?聞こえてるかな?」


『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『マジか!ほんとに配信やるんか!』

『釣りじゃなかったー!』

『意外と顔よくてムカつくなおい』

『ルエルたん、ルエルたんはどこですか!?』


 俺がカメラに向かって話しかけると、コメント欄が爆速で動き出す。


 閲覧数は…


「5600人!?ちょっと多くない!?」


『そりゃそうやろ。ノスターの初陣だしな』

『ちゃんと有言実行してくれて俺は嬉しいよ』

『ルエルたんを見るために!』

『初見です』

『全員初見だろ』

『ノスター結構顔いいじゃん。服装で台無しだけど』

『え?もうダンジョン内なの?そんな装備で大丈夫か?』


 なんか感動である。FWが今日の朝見たら30000人を超えていたので結構俺有名人?なんて思っていたが、同時視聴5000超えは結構いいスタートではないだろうか?


 初配信ボーナスということでこれから減っては行くだろうが、100人でも残ってくれれば十分すぎるだろう。


「ぁ〜ど、どうも。ダンジョンマスターのノスターです…よろ…しくお願いします?」


『なんか堅苦しいな』

『多分掲示板からの人多数だからいつもの感じで大丈夫だぞ』

『落ち着いて餅付いて』

『ルエルたんはよ』

『緊張しててワロた』


 コメント欄にそう言われ、少しだけ肩の力を抜く。


「…そうか、そうだよな。ふぅ…」


 深呼吸をして心を落ち着かせる。流石に5000人の前だと思うと緊張するが…


「よし、お前らおはよう!世界の救世主兼ダンジョンマスターのノスターだ。俺はこれからこのダンジョンを攻略していくぜ。応援よろしく!」


『攻略ってwwww』

『どこのダンジョンなの?』

『背景石レンガじゃどこか全くわからんな』

『情報くれ』

『ルエルたんは?』


「ん〜、みんなどこのダンジョンか気になってる感じ?別に教えてもいいが…リアルで見に来ないでくれよ?」


 俺がそう言うと、彼らはオッケーとコメントする。……不安ではあるが、まあいいか。


「俺が来ているのは、八大ダンジョンのうちの一つ、大地の試練だ!」


『おぉ?実力試しってこと?』

『嘘でしょ?早速そんなダンジョン行って大丈夫か?』

『やめとけ、普通に死ぬぞ』

『大地の試練攻略ってことは深層もクリアする…ってコト!?』

『不可能でワロた』

「まあ、初日で攻略しようとは思ってないよ。今日はとりあえず確認って感じかな。本格的に攻略はもうちょい先の話」

『何年後?』

「1週間後」

『1日も1週間も変わらねぇだろwwwwww』


 コメントとそう掛け合っていると、一つのコメントが目についた。


『それでその後ろの方はルエルたん?』

『なんで顔隠してるの?』

『加工じゃないって言うなら可愛い顔見せてほしい』

『なんでそんなパニエみたいになってるの?』


 ふむ、やはり疑われているようだな。正直疑われたままでも問題ないのだが、これからも聞かれるかもだし、ささっと話しておこうか。


「うん。彼女はルエルだよ。実は訳あってこの服装になってるけど…」

『訳って?』

『勿体ぶるな』

『早よ言え』

「理由はね………ルエル、可愛すぎるから」

『草』

『草』

『草』


 俺がそうやってコメント欄と戯れていると、強気なコメントが流れてくる。


『加工だから見せられないんだろ?いい加減全部嘘って認めろよ』

「お〜喧嘩腰だな。これだからネットは怖い」

『煽るな煽るなwww』

『でも、俺らも本人か気になるし一瞬だけ顔見せてほしい』

「お前らそんなこと言って、ルエルの顔が見たいだけだろ」

『バレたか』

「まあ、5000人も見に来てくれてるし、今日はサービスしてやろう」

『マジ?!』

「ルエル。1回上のローブを脱いでくれる?」


 俺がそう言うと、彼女は丁寧にローブを脱ぎ、配信に初めて姿を晒した。その瞬間、コメント欄が停止する。


「あれ?もしかして配信止まった?」


 心配になってコメ欄にそう聞くと次の瞬間、信じられない速度でコメントが加速しだした。


『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!???』

『ガチもんやんけ!!?』

『uwitchって加工あったっけ?』

『は?』

『あり…えない…!』

『眩しぃ!!!』

『これは天使』

『マジもんかよ!?』

『ちゃんとパイルバンカーとバスターランチャーも腰についてる…』

『格好H過ぎね?』

『重たそう』

『スレに載せた写真加工無しって真実やったんか…!?』

『はい、優勝』

『これまじで翼も本物じゃね…?』


 いつも安価してくれる人たちにお礼の意味を込めて、ドローンカメラを手で動かし、彼女を横から後ろからと位置を変えながら全身を視聴者に見せる。顔や胸、臀部や太もも辺りでコメント欄が早くなったのは…まあ正直でいいことだと思いますね。俺だってそうなるもん。


 そんな感じでコメント欄が落ち着くまで待つ。


 結局彼らが落ち着くまでに1時間もかかることになることを、このときの俺はまだ知らなかった。


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