錬金術師の眼鏡

けーぷ

第1話

ヴィクター・アルケミスはしがない錬金術師である。


王立学園を卒業後はそのままアカデミーへ就職。可もなく不可もなくやっていたのだが、ある時そりの合わない上司と巡り合い喧嘩をしてあれよあれよという間に退職。


その後は各地をぷらぷらと放浪した上で現在は地方都市アルカナディアでちょっとした魔道具を売る小さな店をやっていた。


この店の商品の一部は自分でも作っているのだが自作の品は中々売れない。なぜだ。


友人に言わせるとヴィクターは今日も今日とてガラクタばかり作っている事になるらしい。流石に仲の良い友人でもそれは酷くない?とヴィクターが愚痴るも相手にされない。


そんなある日、目が覚めると。


「……なんだこれ?眼鏡?」


昨晩は久々に会った友人と痛飲。途中から記憶が無くなるほど飲んだのだがなんとか家まで辿り着いていたらしい。服装などは飲んでた時のままだが、そこまでは良い。


……いや、二日酔いが酷いから良くはないのだがそれよりも。


全く記憶にない眼鏡が作業台の上にぽつんと置かれていた。ただの眼鏡ならばまだ良いのだが


「……なんだこの魔力。え?ヤバくね?」


机の上に何気なく置かれている一見するとなんでもない眼鏡。その眼鏡からとんでもない雰囲気の魔力が放出されている。


その造形は本当に普通の眼鏡なのだ。


しかしとんでも無いというかもはや恐怖心というか、畏怖心というかそう言ったものを想起させるレベルの代物だった。ヴィクターは冷や汗をかきながら昔見た伝説級のアーティファクトを思い出す。


恐る恐る観察を続けるとその周囲には様々な素材が散らかっている事に気づく。その状態から判断するにどうやら自分が酔った勢いで作ったものらしいのだが。


繰り返しになるが全く記憶にないがその眼鏡はどうやら自分が作ったものらしい。手元が汚れているからほぼ間違い無いだろう。


それにしてもなぜ眼鏡?別に俺は眼鏡をかけてないし、そもそも視力も悪く無い。全く眼鏡を必要としていない人間である。


そこに在るだけでヤバい魔力を放出している眼鏡を恐る恐る観察しながら二日酔いの頭でうんうん唸りながら記憶を探るヴィクター。


こんなヤバいもん、流石になにも無しで作らないだろうと思いながら記憶を掘り起こしていると


「あ」


思い出した。そういえば昨晩飲んでる時にあのクソヤローが


「はぁ?もっと錬金術師らしい扱いをして欲しい?あんた自分の普段の行いを振り返ってから言いなさいよ。え?そこをなんとか?……うーん、眼鏡でもかけてみれば?ちょっとは賢く見えるかもよ?」


と有難いアドバイスをくれていた事を思い出す。この友人、ミリアム・ストーンウェルは学生時代の同級生であり元同僚でも在る。


ぷらぷらしているヴィクターと異なりアカデミーで順調に出世しているらしい。毎度悪態をついてくるがもはや腐れ縁のような状態でなんだかんだでヴィクターの事を気にかけてくれている。


今回も王都からの出張でアルカナディアまで来ており、ついでに晩飯に誘ってくれていた。なお晩飯はミリアムの奢りである。全く有難い話だ。


思考が脱線気味になっていたヴィクターは魔力の波動に当てられハッと眼鏡に思考を戻す。何度見てもただの眼鏡だ。ただし魔力の波動がやばいのは相変わらずだが。


しかしいつまでも見てるだけという訳にもいかないだろう。恐る恐るその眼鏡を手に取るヴィクター。……重さは普通だな。触っただけでは特になにも起きない。


しばらく手元で様々な角度から眼鏡を確認するが見た目は本当に普通の眼鏡だった。明らかに異常な魔力にも関わらずあまりにも普通過ぎて逆に怖い。


だがいつまでもこうしている訳にもいかないだろう。眼鏡は手元で見てても仕方がない。なぜなら眼鏡はかけるものだから。


一つため息を吐いた彼は腹を括ると、その眼鏡をかけた。その瞬間。


世界の真実が彼には視えた。


この物語はダメ錬金術師が酔った勢いで創り出してしまった謎に伝説級の眼鏡が世界を救ったり救わなかったりする物語である。


・ ・ ・


【作者後書き】

こんにちは。けーぷです。


たまたま見かけた「KAC20248」のイベントお題が「めがね」だったので気分転換がてら気ままに書いてみました。こういうテーマ縛りで書くのも楽しいですね。


自分で書いてて眼鏡が意味不明過ぎて笑えました笑


ウケが良かったら続きを書くかもなので関心ある方は適宜コメントやハート、評価をお願いします。


文官の方をメインで更新してるので仮に書くとしても低頻度になると思いますが、よろしくお願いします。


2024年3月25日 けーぷ

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