激突七冠

プリンスナイトと喋る猫

 ツカサとの戦いを終えてシロウはアストラルをログアウトした。

 相変わらずシロウは半透明の人や小さいおっさんなんかも見える。最初は見えることに困っていたがだんだんと慣れていき、今では気にしなくなった。

 なにやら白い玉が騒がしく、白い玉が玄関から出て行くのが見えた。他の玉もそれに続いている。


「なんだろう?」

「真白様、どうされました?」


 真白にしか見えてないため、セレナには白い玉などが見えていない。

 疑問に思いつつ扉を開けると、1匹の白猫が庭に倒れていた。怪我を負っているようだ。

 その白猫の周辺を、光の玉が忙しなく飛び回っている。


「放っては、おけないよね」


 家の中へ入れ、軽く体を拭いてやり、傷口の汚れも水で洗い流して包帯を巻いておいた。正しい処置なのかはわからないが、しないよりはマシだろう。

 そこまで深い傷でもないようだし、ひとまず大丈夫なはずだ。


 都内に建つとある寺院。そこの地下に存在する会議室では、1人の青年が声を荒げていた。


「白虎を捕らえられなかっただと!?お前ら、一体何をしているんだ!」


 怒りをぶつける男の名は、火山暁ひやまあきら

 日本を守護する五大陰陽一族。その一角を司る、火野山家の現当主である。


「誠に申し訳ありません。総勢100名の陰陽術師を向かわせたのですが、白虎様は予想以上の力を有しておりました。殆どが重傷、残りの者達にも無傷の者はおりません」


 怒声を浴びせられながらも、火山の部下である女性、剣城燐つるぎりんは現状を淡々と伝える。


「しかしながら、報告では白虎様にも深手を負わせたとの事でした。ですので、周辺の神社仏閣に人員を配置し、傷を癒しに来るであろう白虎様を待ち伏せさせています」

「ちっ、まぁ良い。土地神であるあの猫が居なくなれば、あの土地は悪霊の巣窟となるはずだ。そうなれば、水瀬みずせ一族の権威は失墜する。ふはははは!そして、舞花まいかは俺に頼らざるをえなくなる!」


 青年の言葉を不快に思いながらも、部下である燐は表情を変えずに傾聴する。


「だが、あの猫は従魔として是非とも欲しい。何としても探し出せ!」

「…かしこまりました」


 燐は眉を顰めながらも、白虎捕獲に向けた新たな策を練るのであった。


「お、目が覚めたみたいだね」

「目が覚めた様でなによりです」


 保護してから数時間、白猫が目を覚ました。あたりをキョロキョロと見回し、真白とセレナに視線を向けている。


「怖がらなくてもいいよ、ここは安全だから。はい、ミルクだよー」


 人用のではない。急いで近所のスーパーで買ってきた猫用のミルクだ。


「ふむ、ちょうど喉が渇いていたところだ、助かる」


 そう言い、白猫は平皿に入れられたミルクを舐めはじめた。

 二人は白猫が喋ったことに驚いた。


「キミ喋れるの!?」

「貴方様は一体……」

「む、つい普通に話してしまった。驚かせてすまないな」


 幽霊とか神様とかいるなら、話せる動物がいてもおかしくないかと真白は思う。


「話せる動物もいるんだね」

「あまり驚かないのだな」

「うん、もっと不思議な体験をした事があるからねー」


 真白は神様に蘇生させてもらったことがあったため、喋る猫がいてもあまり驚かなかった。

セレナもあまり驚いた様子はない。


「なるほど。若いのに苦労をしているのだな」

「あ、うん」


 なんか、貫禄を感じて。この白猫は普通の猫とは違い、何千年と生きてる様な猫の様だった。


「ひとまず、助けてくれた事には感謝する。この恩に報いたいところだが、ここに居ては其方にも迷惑がかかる故、お暇させてもらう。すまない」


 そう言って白猫は外へ出て行こうとした。まだ体力が回復しきってないのか、フラフラしている。


「待って待って待って、そんな体で外とか危ないよ。まだここに居て良いよ」

「しかし…….」

「せっかく助けたのに、外でてすぐに死なれたりするほうが困るよ。せめて傷が治るまでゆっくりしてってよ。セレナもいいよね?」

「真白様が決めたことなら構いません」

「む……そうだな。其方の善意を無下にするところだった。其方が構わないのであれば、もう少し邪魔させて貰いたい」

「うん、二人暮らしには広すぎると思ってたんだ。気に入れば、いつまででも居て良いからね」


 ここにいる事に決めた白猫は、先程まで寝かせていた座布団の上に戻った。そして安心したのか、倒れるようにしてまた眠りについた。

 もうだいぶ遅い時間だ。バスタオルを毛布がわりに掛けてやり、真白とセレナも自分の部屋で寝るとする。

 次の日、いつもより早めに真白が起きてくるとセレナが白猫を膝の上に乗せて撫でていた。


「おはようございます。真白様お早いですね」

「おはよう、セレナ。白猫のことが気になってね、体調は大丈夫?」

「うむ、おはよう。お主達のおかげで体力はほぼ回復した。ありがとう」

「それなら良かったよ」


 白猫は昨日よりすっかり元気になっており安心した。


「お邪魔するよー!」

「お邪魔しまーす!」


 玄関から元気よく紗希と琉璃が入ってくる。


「白猫、紗希姉さんと瑠璃ちゃんがいる時は普通の猫でお願い」

「うむ、わかった」

「おはよー! セレナちゃん、真白くん起きるの早いねー」

「おはようございます! お兄ちゃん、セレナさん」

「おはよー、姉さん、琉璃ちゃん」

「おはようございます。紗希様、琉璃様」

「あれ? 猫がいるけど、どうしたの?」

「昨日、庭で倒れているのを発見して保護したんだ」


 膝の上に乗っている猫の存在に気づいた紗希が聞いてくる。


「猫ちゃん、飼うつもりですか?」

「いや、飼い主を探すつもりだよ。怪我が治るまでは保護するけど」


 この喋る白猫の怪我が治るまでは保護するつもりでいる。きっと白猫には帰る家があるはずだ。

 朝食を終えて真白はセレナに白猫を任せる。


「それじゃあ、セレナ悪いけど白猫の面倒をお願いね」

「はい、お任せください」

「別にそう心配せんでも、おとなしくしているつもりじゃよ。気をつけて行って参れよ」

「うん、ありがとう。行ってきます」

「お気をつけていってらっしゃいませ」


 早く起きたこともあり、真白は登校時間にも余裕で間に合った。


「おはよう」

「おはよう、真白!」

「おはよう、真白くん」

「おはよー! 真白」

「おはよう、神原君」

「おっす、神原」


 由紀達に挨拶をする。光瑠との件があってから隆太とは少し仲良くなって挨拶をする程度にはよくなった。

 光瑠はというと、学校には来ているがあれ以来元気がなく、光瑠に好意を寄せている女の子達は話しかけづらそうにしている。

 あの後、光瑠になにがあったのか真白は知らないが潤がしばらく一人になる時間が必要と言って、ほっといていいとのことだ。

 いつもキラキラとした光瑠は覇気がなく、なにがあったのか真白は気になったが聞かないことにし、今日も勉強に励むのだった。


「ん? なんだろ、あれ?」


 ふと空を見上げると、奇妙な鳥?が飛んでいる。水色で、どこか人工的だ。そして、目を凝らさないと見えないが、細い糸が繋がっている。


「媒介にしているのは紙か、式神だね。術式からして、ただの偵察用か、戦闘能力は無さそうだね。あの糸で術者と視覚、聴覚を共有して……え?」


 (あれ?なんでわかるんだろ? 初めて見たはずなのに、仕組みや作り方がそれとなくわかる)


「もしかして……」


 真白は神様の言葉を思い出す。

『技能の習得能力も上げておこう。そうすれば、どんな魔術でも武術でも一目見るだけで習得出来るはずじゃ』


(嘘でしょ? 基礎知識も何もないどころか、存在すら知ったばかりの技能も習得できるんだ)


「だとしたら、あの式神の術みたいなやつ、僕にもできるのかな?」


 あとで試してみようと思いつつ、真白は式神をもう少し観察する。

 一瞬目が合った気がしたが、気のせいかと思った。


「式神が見えてるわけ……ないよね。ただ空を見上げていただけかな?」


 術者である水瀬舞花(みずせまいか)は、式神を通して見た光景を思いながら、そう呟く。

 行方不明となった白虎様を捜索するため偵察用の式神を操作していた際に、式神を通して目があった気がしたためだ。

 しかし、そんなことはあり得ない。多少霊感があっても見えないように、式神には特殊な術式を施しているためだ。


「それにしても、ここには居ないみたい。何か事件に巻き込まれて居なければいいけど……」


 未だ行方の知れない白虎様の事を思いながら、舞花は別の地区へと式神を飛ばすのだった。


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