プリンセスナイトと嫉妬
家に帰ると紗希と瑠璃がエプロンを身に付け、髪をお団子にまとめあげた姿で出迎えてくれた。
料理をする時は髪を結っているのだが、流石女の子というか編み込みを入れたりこうしてお団子にしたりと、実用性の中にも可愛らしさを追求している。
「おかえりなさい、弟くん、セレナちゃん、レメちゃん」
「おかえりなさい! お兄ちゃん、セレナさん、レメちゃん!」
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
『ただいまだぞ!』
二人が出迎えてくれると真白は安心する。
「オフ会どうだったの?」
「楽しかったよー」
「楽しかったですよ」
「楽しかったぜ!」
オフ会は楽しい思い出ができた。
「先に手を洗ってきてね、うがいもだよ。その間にご飯よそってるから」
「りょーかい」
「了解しました」
『オイラはアストラルに戻るな』
「うん、またねー」
言われなくてもいつもやっている事だが、こうして心配から気遣ってくれるのは嬉しかった。
おかんみたいだなあとはおもったものの口には出さず、言われた通りに洗面所に向かった。
レメは姿を消してアストラル内に戻っていった。
夕食後、真白とセレナは一息ついた。
「そうだ、聞いてよ。オフ会で会った人達、ひなたと由紀だったんだよ」
「そうなの? 凄い偶然だねー」
「オフ会なのにオフ会って感じがしなくていつも通りだったよ」
「ひなたさん達とは知り合いだったんですか?」
「うん、そうなんだよ。ひなたは高校の友人で由紀は中学の時に会ったのは覚えてる?」
「ああ、はい。優しくて可愛い方だったので覚えていますよ!」
中学で由紀とは何度か会っていたので瑠璃は覚えていた。
「それから、偶然天草くんのお姉さんと梨沙さんに裕香さんとも会ったんだ」
ショッピングモールであったことを二人に話す。
「怪我はないのはよかったよ。お姉さんの方はどうだったの?」
「お姉さん良い人だったよ」
光瑠のことは気にしてないが謝られた時は焦ったものだった。
「お姉さんも光瑠くんに手を焼いているみたいで苦労してるみたいだったよ」
「まあ、天草くんはなんでもできちゃうから、挫折らしい挫折を味わった事が皆無みたいだし、苦労や厳しさを経験できればいいんだけど……いっそのこと由紀ちゃんか潤ちゃんにささっと告白して、振られて失恋でも経験した方が手っ取り早いんだけどね」
「由紀はわかるけど、なんでそこで柊さんが出てくるの?」
「由紀ちゃんほどじゃないけど潤ちゃんにも少なからず好意と独占欲はあると思うよ」
「由紀はまだわかるけど、そんなわかるもんなの?」
「女の勘ってやつかな、それに光瑠くんはわかりやすい方だからね」
由紀に好意を抱いていることは知っているが、潤にも好意抱いていることは知らなかった。
わかりやすいのは事実だが、そこまでわかるもんなのかと思う。
「そ・れ・よ・り・も・いつの間に由紀ちゃん達を名前で呼ぶようになったのかな?」
「ああ! 私も気になってました!」
紗希と瑠璃は真白に詰め寄ってくる。
「べ、別に大したことじゃ……」
「ふふふ、聞かせてもらおうかなー?」
「聞かせてくださいねお兄ちゃん♪」
「セ、セレナ……た、助けてー……」
「真白様、頑張ってください」
助けを求めるもセレナは助けてくれず、真白は二人に根掘り葉掘り聞かれるのだった。
真白達が帰ったあと光瑠は潤にこってり怒られていた。
由紀と隆太は先に家に帰らせた。
「まったく、神原くんにあんな態度は酷いんじゃないかい?」
「お、俺は神原と由紀がなんでいたのか気になっただけで……」
「だからといって、掴み掛かろうとするのはダメだよ」
由紀が光瑠には見せない可憐な笑顔を真白に見せて、光瑠の胸中に言い知れぬ感情が湧き上がってくる。それは暗く重い、酷くドロドロした感情だ。無条件に、何の根拠もなく、されど当たり前のように信じていたこと。由紀という幼馴染は、いつだって自分の傍にいて、それはこれからも変わらないという想い。もっと言えば、由紀は自分のものだったのにという想い。つまりは、嫉妬だ。
その嫉妬が、恋情から来ているのか、それともただの独占欲から来ているのか、光瑠自身にもよく分かっていなかった。
「由紀、邪魔するよ」
「どうぞー、潤ちゃんどうしたの?」
「まあ、聞きたいことがあるんだ」
由紀の家に寄り部屋へと案内される。
「潤ちゃん、話ってなにかな?」
「……というか、気になってたんだけど、 由紀は神原君のどこが好きなんだい?」
「……え?」
「由紀が神原君のことを好きなのは知ってるけど、詳しく聞いてなかったと思ってね」
「……お人好しなところというか、他人が困っている場合は首を突っ込まずにはいられないところかな……あとマイペースなところとか。なかなか…… 言葉じゃうまく言えないね……」
あの日のことを思い出していた。由紀は可憐で人目を引く少女で、ナンパに遭いやすいかった。
過去にはストーカーに誘拐されかけたりと危ないことがあった。
その日は買い物を頼まれた由紀が帰る道中で不良連中にナンパされたのだ。
他の人達は関わりたくないと思い、スルーしていく。誰かが助けるだろうと。不良連中は由紀に手を出そうとした時に、偶然通りかかった真白は恐怖はあったものの迷わず由紀を助けたのだ。
といっても真白は喧嘩など無縁の生活で不良連中に囲まれると、真白の顔や体を殴る蹴るなどの暴行を受けた。
誰かが警察に通報すると不良連中は警察が来ると焦り出し、そのあとは不良連中は警察に連行されていったのだ。
「……中二の時にそういうことがあったの。……強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光瑠くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために動く人はそんなにいないと思う。助けに来てくれた真白くんは恐怖で震えていたけど、勇気を出して守ってくれたの。それからは真白くんのことが気になっちゃって、目で追っているうちにその……いつの間にか好きになってたの」
「……なるほどね。教えてくれてありがとう。私は由紀を応援するよ」
「うん、ありがとう。私頑張るね」
(応援すると言ったけど光瑠のことはどうしたものか、さっさと告白して、どうせ振られるなら失恋を経験でもした方がよさそうだな)
潤もまた紗希と同じことを考えていたのだった。
翌日の月曜日。
昨日のこともあり、憂鬱な気分だった。
単に面倒というだけでなく、居心地が悪いが故の憂鬱さが多分に含まれていた。
今日は始業チャイムがなるギリギリに登校し、教室の扉を開けた。
教室の扉開けると光瑠は真白が教室に入ると敵意を露わにする。
(うへえー、昨日のこと根に持ってる)
「こら、光瑠。神原君を睨むんじゃない。もういい加減にしなよ」
「お、俺は別に昨日のことが気になってるだけで……」
「神原君に迷惑をかけるんじゃないよ」
「わ……わかった」
敵意をむき出しにする光瑠に潤はチョップを叩き込む。光瑠は渋々引き下がる。
「真白くん、おはよう! 朝から光瑠くんがごめんね」
「大丈夫だよ。いつもより不機嫌なのは僕のせい?」
「真白くんは悪くないからね。気にしないで」
光瑠が不機嫌なせいか教室の空気が悪かった。
由紀が気にしないでと言うがそれは無理がある。原因は自分にあるのはわかっている。
真白と潤はどうしたものかとため息が増えるばかりだ。
そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、いつものように授業が開始されたのだった。
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