プリンセスナイトと転移系スキル

イベントが終わったその日の夜。

星が流れる。

一筋の流れ星が夜空を駆け抜けて消える。

流れ星は地上の人々からは願い事などがかけられるロマンチックなものではあるが、たまに、流れ星ではないものも流れたりする夜もある……。


「地球にとうちゃーく♪」


夜中に、はしゃぎまくる影が一つ。どうみても不審者だ。先程から河原の土手の上を横に行ったり来たりと繰り返している。

体全体は宇宙飛行士が着る、宇宙服に似ている。


「選ばれるために頑張った甲斐があったねぇ。今頃みんな悔しがってるだろうなぁー。役得役得!」


宇宙服を着た不審者は、土手の上から見える街の明かりにしばらく見入っていた。


「さてさて、兎にも角にもお仕事お仕事。まずは住むところを探さなきゃねー! どこにしよっかなぁー」


宇宙服姿の不審者が腕に付いてる小さなパネルをタッチすると眩い閃光が走り、一瞬にして服が変わり白いワンピースを着た一人の少女の姿となった。

先程までの胡散臭さを払拭した少女は足取り軽く、河原の土手を登っていった。


ガチャを引いてレメとユカ、ユキが当ててくれた【幻影】【分身】【星門スターゲート】のスキルを内容を確認してみた。


【幻影】


発動時、相手視覚情報での座標と本当の座標とにズレを生じさせることができる。

対象は使用者以外全員。

使用可能回数は一日十回。

効果時間は五秒。

また【幻影】で作り出したズレた映像になんらかの攻撃が加えられた際に【幻影】は効果を失う。


【分身】


分身は二人、三人、四人、と増やすことができる。最大八人まで増やすことができる。

分身体は本体が命じなければ行動しない。細かく命じればきちんとその通りに行動する。本体の持つスキルも【分身】スキル以外は使用できる。

分身は本体と同じHPを持ち、0になると分身は消えてしまう。

分身が全滅すると再使用可能時間は一時間後。


【星門】


セット中にすると一日に七回のみランダム転移が可能。

及びパーティを連れてランダム転移が可能。

ビーコンを設置した場所に自由にパーティ転移が可能で七箇所まで設置できる。


【幻影】と【分身】は使い方によってはなかなか使い勝手の良いスキルになりそうだと思う。


「【幻影】と【分身】をうまく利用すれば、相手の意表を突くことができそうですね」

「僕もそう思うよ。それに転移系のスキルが手に入るのもよかったよ。三人には感謝だよ」

「へへへっ、役に立つスキルを当てられてよかったぜ」

「役に立つスキルが当たってよかった」

「ふふん、もっと感謝してもいいんだよ」


真白ら【スターライト】の本拠地のギルドホーム。【PvP】に付き合ってくれたセレナにそう答える。

【分身】した状態での攻撃方法を模索していたのだ。ほとんどセレナに負けていた。

全ての攻撃を躱されて、当たらずにいたのだ。セレナの反射神経、反応速度、素早い動きと良い、改めてPSプレイヤースキルがすごいと思った。

紙装甲なので範囲魔法を使えば、倒せそうだがその前に自分がやられそうだと思った

一番敵に回したくないタイプで、味方でいてくれてよかったとホッとしている。

何とか勝てたのは最大八人プラス全員【加速アクセル】からの同時攻撃の【ファントムラッシュ】である。

さすがのセレナでも八方からの【加速】に【ファントムラッシュ】による攻撃は避けられなかった。

それプラス、最大八人の分身に『変幻自在』を利用しての大盾、大剣、両手斧、双剣、拳、槍、弓、魔法、の武器に【形態変化】させてからの連携攻撃によることで勝てた。

さすがのセレナでも数による一斉攻撃は全て避けきるのは難しいみたいだった。


「シロちゃんとセレナちゃんもちょっといいかしら?」

「リサさん、どうかしたんですか?」

「素材が少なくなってきたから、シロちゃん達に素材を集めてきてほしいのだけどいいかしら?」

「もちろん、いいですよ」

「了解しました。お任せください」


リサは生産能力に全てを注ぎ込んでいるため戦闘はからっきしだ。

元々運動は苦手らしく、まともに戦闘ができないとのことだ。

魔法系統のスキルは取ってるが熟練度は低く、その代わりに生産スキルの熟練度は高い。

武器、布製品、アクセサリー、家具。

何だってできるのだ。

真白としてもちょうどよかった。【星門】のスキルを試すにはもってこいだ。

ランダム転移だが、様々な場所に行けるのなら、素材の収集にはいいかもしれないと思った。

パーティを連れてランダム転移できる。

【星門スターゲート】のスキルについて話す。みんな、転移系のスキルに興味津々みたいだ。


「あまりおおっぴらにそのスキルを使わない方が良さそうだね。根掘り葉掘り聞いてくる人達がいると思う。まあ、遅かれ早かれ同じスキルを誰かが手に入れたら存在はバレると思うけど」

「ですよね。僕もそう思います」

「転移系のスキルは珍しいものですからね」

「それじゃあみんな、お願いねー」


ギルドホームにリサは留守番し、セレナ達はドロップアイテムを集めに狩りに行き、シロウは鉱石を取りに向かう。

戻ってこれるようにビーコンという物を設置してみる。

とりあえず念じてみると、手の中に大きな白い羽が現れた。先端がダーツのように尖っていて、これがビーコンらしい。

地面に突き刺してみると、【登録されました】とのメッセージが流れてビーコンの説明表示が(7/7)から(6/7)になった。

これは転移回数じゃなくて、設置場所の数みたいだ。

スキルウィンドウを開き、【星門】をセットする。

すると目の前に星型のポータルエリアが出現する。足を踏み入れた瞬間、転移が始まった。

一瞬にして背景が切り替わる。

周りは鬱蒼とした森の中、というよりジャングルといった雰囲気の場所だ。どこからか奇妙な鳴き声が木霊し響く。


「ここはどこだ?」

「【フォルン大森林】だってさ」


マップを見て位置確認をしたシロウが答える。転移できたことに興奮はするが、場所はハズレだ。


「失敗だねー」

「失敗? どういうことだよ?」

「ここは森の中だから鉱石はないと思う。鉱石を狙うなら岩場か洞窟の近くにないと……。もう一度跳ぼう」

「おいおい、もう行くのか? もっとこう喜んだりしないのか?」

「そうしたいのは山々だけど、何だかこのエリアはヤバい感じがするんだ」


このエリアに来てから肌がピリピリと感じて、強力なモンスター達が跋扈しているような気配がするのだ。

レメはわからないのか、興味深そうに飛び回っている。


「そうか? 普通の大森林に見えるけどな」


ぼうっとしている暇はないので、ささっと次のエリアに行きたかった。

次の瞬間、シロウは前から近づいてくる存在に気づく。


『ゴガアアアッ!』


突然、森全体に響き渡るような咆哮が聞こえた。

辺りを警戒しつつ、すぐに転移できる準備をする。

前の方からぬっと現れた。

熊だ。しかもただの熊ではない。紫色の体毛に口からは毒を吐いていた。

熊の頭の上に【毒熊】と表情された。まんまだなと思った。マークは赤黒く表情されていて、レベルの差があるほど色が濃く表示されるのだ。逆に差がなければ色は薄く表情される。

レメを連れ戻して、ゆっくりとポータルエリアに近づいて行く。


「動かないでねー……。そうそう、そのまま、そのまま……」

『ゴガアアアッ!』


咆哮と同時に襲いかかってきた熊。シロウは急いでポータルエリアに飛び込んだ。

転移が終わり、ビーコンを設置して置いたギルドホームに戻ってきた。


「「し、死ぬかと思ったー」」


ギルドハウスに戻ってくるとシロウとレメはへなへなと地面に座り込んだ。


「お前の言った通り、危険なエリアだったぞ」

「ランダム転移だから、高レベルのエリアに転移することもあるから用心した方がよさそうだね」


落ち着いてから再度、シロウとレメは転移した。

周りの風景が変わった。今度は赤い岩がゴロゴロと転がる中腹のあたり。眼下には森と湖が見え、こちら側の上の方では煙が立ち上らせている火山が見えた。

岩場がある以上、ハズレではない。


「【ヴォルケーノ火山:中腹】……。今度は当たりだね」


マップを開いて確認した。間違いなく鉱石が手に入る。

モンスターが現れる前に、ささっと採るもの採って帰る。


「採るもの採って、ささっと帰ろうぜ」

「うん、そうだね」


シロウは【採掘Ⅴ】を持っている。


「今回は【神 神秘書庫アルカナが役に立つね」


シロウはこのスキルの説明をギルドメンバー全員にしている。


【神秘書庫】

生産系スキル、戦闘系スキル、その他スキルからそれぞれ三つずつランダムで、合計九個のスキルを取得する。

スキルレベルは中またはⅤ固定。

使用後一日経過で取得スキルは消える。

既に取得済みのスキルは選ばれない。


それと合わせて【魔道書庫】のおかげで、MPを使用する魔法とスキルを保管できるようになった。


【魔道書庫】

MPを使用する魔法とスキルを【魔道書】として専用の【本棚】に保管できる。

保管された魔法やスキルは【魔道書】を使用するまで使用できない。

【魔道書】の作成には消費MPの二倍を必要とする。

【魔道書】作成には三十分かかる。


今回は運良く【採掘】スキル当てることができた。

三体の【分身】を出してピッケルを岩に突き立てる。

Cランク、Bランク、Cランク、Aランク、Bランク、【鑑定】をしていく。

しばらく採掘していると次の瞬間、シロウはその存在に気づく。


「レメ、岩陰の方に隠れて!」

「おう!」


分身を解除して、レメはシロウの言葉に即座に従い、すぐに体勢を低くして岩場の陰に隠れた。

【隠密】を使いレメごと気配を消す。

しばらくシロウらの頭上を悠々と大きな影が横切っていく。


「………っ………!」


思わず声が出そうになるのをこらえる。【気配察知】で気づいたその存在が大きな翼をはためかせながら、湖の方へと飛んでいく。

ドラゴンだ。しかもレッドドラゴン。ちらっと見えたその頭、その額に剣が刺さっていた。光が反射して輝いていた。

シロウらはその赤いドラゴンが湖の彼方へと消えていくのをただ見ていることしかできなかった。


「「ーーーーぷはっ!」」


息を吐いてシロウとレメはその場に座り込み、大きく息を吐いた。


「とんでもないものに遭遇しちゃったね……」

「あのドラゴン、こっちに気がつかなかったのか?」

「【隠密】を発動してたけど、たぶん気がついてたと思う。その上で『取るに足らない存在』と判断されたから見逃されたんだよ。きっと」


レベル差がありすぎて、相手にするのも馬鹿らしいと思われていたのかもしれない。

とりあえず、見逃されたことにホッとする。


「それよりも見た? あのドラゴンの額」

「ああ、見たぜ。剣が突き刺さっていたな」

「あのドラゴン倒したらその剣がもしかして手に入ったりするかな?」

「ありえなくはないけど、あのドラゴンを倒して手に入れるつもりか?」

「今は無理だけど、いつか倒してあの剣を手に入るなら欲しいね。それに竜を退治して聖剣魔剣を得るなんてのはゲームじゃよくある話だし」


あのドラゴンとシロウがやりあえるになるまでの先は遠いだろう。

充分な鉱石を手に入ったので、ドラゴンが帰ってくる前に戻ることにした。その際にいつかあのドラゴンを倒すために、シロウはビーコンを設置してギルドホームに戻るのだった。


「はー……。疲れたー……」

「おかえりなさい、シロちゃん」


シロウとレメはぐったりと身体をテーブルに預けて脱力すると、リサが出迎えてくれた。


「色々面白かったけど、大変だったなぁ」

「そうなの? 何があったのかしら」

「実はかなりやばいドラゴンに遭遇したんです」

「そうそう、そのドラゴンの額には剣が突き刺さっていたんだ」

「大丈夫だったの?」

「あはは、大丈夫でした。なんだかスルーされました」


【フォルン大森林】や【ヴォルケーノ火山】での出来事をリサに話す。


「それにしても【星門】って、まだ行ったことのないエリアにも行けるのね」

「そうですね。ただ、高レベルモンスターもいるエリアに転移する可能性もあるので大変ですね」

「そうだ。シロちゃんは『シークレットエリア』って知ってるかしら?」

「『シークレットエリア』ってなんですか?」

「私も噂程度でしか知らないんだけど、ある一定の条件を満たしていると入れるようになる場所があるそうなのよ。しっかりとした確認はされてないんだけどね」


このゲームには色んな種族たちがいる。プレイヤーが選べることのできる種族の他に、【蜥蜴族リザードマン】、【妖鳥ハービィ】、【人馬族ケンタロス】、【単眼族サイクロプス】、【牛頭族ミノタウロス】【蛇妖族ラミア】、【妖花族アルラウネ】、【小妖族コボルト】、【猫精族ケット・シー】など。

それぞれ彼ら固有の村や集落が存在するらしい。そしてそここそが『シークレットエリア』と言われる場所のひとつだと。

シロウとレメは興味が湧いてくる。


「誰か行ったことのあるやつはいるのか?」

「それがねえ。行ったことはあるけど追い出されたとか、二度と行けなかったとか、誰かに話したら二度と行けなくなるとか、隠れ里の存在を知られるのは嫌みたいなのよ。実際にあったみたいでね。【妖花族】の集落にたまたま迷い込んだプレイヤーが吹聴したみたいで、しばらくするとその集落への道が閉ざされて、二度と開くことはなかったと。『シークレットエリア』はこことは違う次元にあって、その入り口を自由に繋げられるんじゃないかってね」

「『シークレットエリア』っていうのは、隠れ里だけなんですか?」

「いいえ、特定の鉱石が沢山取れる場所とか、通り抜けられる隠された近道なんかも当たるみたいよ。なんでも密林の中に古代遺跡のようなダンジョンが見つかったとか。きちんとした手順を踏まないとそこへは行けないそうよ」

「へぇー。ずいぶんと詳しいんだな、リサ」

「店に武器のメンテナンスに来るプレイヤーからもいろいろ聞くからね。それに『シークレットエリア』でしか取れない素材や鉱石があるみたいでね、もしシロちゃんが見つけたら分けて欲しいなって」

「ふふ、わかりました。僕も『シークレットエリア』に興味が湧いたので、もし見つけることができたら素材や鉱石はリサさんに渡しますね」


『シークレットエリア』を探してみるのも面白そうだと思った。しかし静かに暮らしている種族に迷惑をかけるのもと思うのだった。


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