プリンセスナイトと素材集め

翌日、土曜日。休みなので午前中からログインしていた。

 

「ええっと。ギルドホームを建てる資材って、『トレントの材木』百本だっけ?」

「他に『ワックス』、『染料』各種、『クロスシート』、『鉄の釘』、『ガラス板』、『レンガブロック』など細かい物が数点だねー」

「ここは手分けして集めた方がいいですね」

 

 セレナの言う通り、手分けした方が効率的で早い。

 

「トレント狩りかー……。場所はどこだっけ?」

「んーと、エトワールから南東にある【パラノーマル森林】が一番近いね。ちょっと遠いけど、あとはエリア中央にある【迷いの森】かな」

 

 ヒナタの質問にシロウが答える。

 

「チーム分けはどうする?」

「火属性の攻撃を使えるヒナタはトレント狩りで、セレナは【調合】を持っているから素材集め、リサさんとユカさんはクロスシートを作ってもらうから素材集め、ユキと僕がトレント狩りなんてどうかな」

 

 みんながいいとのことでシロウとユキ、ヒナタはトレント狩り、セレナとリサ、ユカは素材集めと分かれた。どっちかが、先に片付いたら手伝うということに。

 

「材木を集めるのにどれくらいかかるの?」

「たぶん三日くらいじゃないかな」

「ええっー。三日もトレント狩ってたら飽きるよー」

「ヒナタちゃん、がまんがまん。ほったて小屋じゃなくて、立派なギルドホームで過ごしたいでしょう?」

 

 ぼやくヒナタに宥めるユキ。

【パラノーマル森林】は王都から南東にある。シロウ、ヒナタ、ユキの三人はセレナ達、素材集め班と分かれて、【パラノーマル森林】に移動した。

 

「トレントは擬態してるから特に奇襲には気をつけてね」

「うん、わかった。気をつけるね」

「了解!」

 

 シロウは【索敵】スキルを発動して辺りを警戒する。背後にユキの足元から鋭い木の根が伸びてくる。

 それに気づいたシロウは振り返り、木の根を叩き斬る。すると背後に三体のトレントが現れる。

 再び鋭い木の根が伸びてくる。シロウとユキは横にかわす。

 

「【クロススラッシュ】

「【バーニングラッシュ】!」

「【ホーリーレイ】

 

 シロウとヒナタはスキルを放つ。それに続くようにユキの聖属性の魔法が放たれた。

 三体のトレントは真正面からシロウ達の攻撃をまともにくらい、どちらも光の粒となった。

 トレントからはお目当ての『トレントの材木』が落ちた。

 

【トレントの材木】 Dランク

 

 ◼️木材。ギルドホームの元になる。

 ⬜︎調合アイテム/素材

 

「この調子でどんどん倒していこう」

「「おー!」」

 

 トレントに遭遇しては次々と倒していく。あれから数時間が経ち、現実での時間はお昼になっていた。

 

「現実だとお昼みたいだし、一旦街に戻ろうか」

「もうお昼になったんだ」

「もうへとへと、疲れたー」

「オイラ、お腹空いたぞ!」

 

 シロウがトレントを倒すと、ユキが呼びかけてくる。ヒナタは集中力が途切れて疲れているようで、レメはお腹を空かせているようだ。

 休憩を挟んでいるとはいえ、ずっとトレント狩りをするのは疲れてくるようだ。

 三人はトレント狩りをやめて、街に戻ることにした。街に戻り、お腹を空かせたレメに、屋台が出てる店で数本の串焼きを買ってあげた。

 

「騎士くん、ユキ、レメまたね!」

「うん、バイバイ。ヒナタちゃん、レメちゃん、騎士くん」

「またなー!」

「またねー」

 

 二人に続きシロウもログアウトした。目を覚ますと部屋に戻ってきた。

 一階に降りてくると、真白より先にログアウトしていたセレナが昼食を作っていた。

 

「お戻りになられたようですね。真白様」

「うん。セレナは先に戻ってたんだね」

 

 テーブルを拭いて、真白は棚から食器などを取り出す。セレナが来てから五日経った。昴の代わりでメイドではないが、家の掃除から料理まで、その仕事には万事抜かりがない。

 

「素材集めの方はどう?」

「順調ですね。予定より早く終わりそうです。 真白様の方は?」

「うん、順調でこっちも、予定より早く終わりそうだね」

 

 素材集めの方も順調なようで、これならギルドホームを早く作れそうだ。

 昼食を食べ終えて、真白は食器洗いや片付けをやり、部屋に戻ってVRデバイス『シグマ』を起動させて再び『アストラル』の世界へとログインした。

 目を覚ますとログアウトした噴水広場に戻ってきた。

 

「おかえりだぞ、シロウ」

「ただいまー、レメ」

 

 再びログインして戻ってくるとレメが現れた。フレンド登録を確認してみる。

 ヒナタとユキはまだログインしていないことが確認できた。とりあえずシロウは二人が少しでも負担を減らせるように、先に【パラノーマル森林】へ行くことにした。

 

「また、トレント狩りかよ」

「まあまあ、そう言わずに。あともう少し頑張れば終わるから」

 

 ぼやくレメにシロウは宥める。

【パラノーマル森林】に行く途中、四人の男女が覆面とフードを被った怪しげな連中に襲われている。

 

「おい、あの連中って【カレイドブラッド】じゃないか!?」

「うん、そうみたいだね」

 

【カレイドブラッド】

 プレイヤーキラー。その名の通り、プレイヤーを襲い、殺す、悪質なプレイヤーのことである。

 覆面とフードを被り、初心者から上位プレイヤーを襲う。

 噂では【カレイドブラッド】の武器で倒されたプレイヤーは二度と、『アストラル』にログインできなくなるという噂があった。

 

 四人は懸命に戦っているが相手は十人で、囲まれているため旗色が悪い。シロウは見過ごせず、助けに入る。

 

「【加速アクセル】【ファントムラッシュ】」

 

 加速してからの攻撃を叩き込む。シロウは的確に【カレイドブラッド】の首と胴に一撃必殺を狙った。プレイヤーの首や胴を狙えば、ほぼ即死だ。

 とはいえ半分は残ってしまった。

 

「誰だ貴様は!?」

「ただの通りすがりのプレイヤーだよ」

「我らの邪魔をすれば、どうなるかわかっているのか?」

「さあねー」

「ふん! 何度来ようがシロウがコテンパンにしてやるぞ!」

 

【カレイドブラッド】の邪魔をすれば後々、狙われることになるかもしれないがシロウは他のプレイヤーがPKされているのを見過ごせる様な人ではないのだ。

 困っていれば誰であっても助けようとするのだ。

 残りの五人が襲ってくるがシロウは相手の動きを読んで、最小限の動きで避けて首と胴体を狙ってサクッと倒した。

 四人の男女はあんなに苦戦していた相手にシロウが簡単に倒してしまったことに驚いていた。

 

「お前たち大丈夫か?」

「あっ、うん、大丈夫だよ。助けてくれてありがと。私はハルカ」

「ええっと……助けてくれてありがと。私、カオリ」

「助かった、ありがと。俺はコウキ」

「助けてくれてありがと。僕はイオリ」

 

 レメが声をかけると、四人はハッとしてお礼を言う。

 四人の男女はシロウと同い年か少し年下、くらいのプレイヤーだ。

 HPバーを見て見ると、全員赤ゲージでギリギリのところだった。

『変幻自在』を『神秘書庫アルカナ』に【形態変化】させる。

 

「【ファストヒール】、間に合ってよかったよ。僕はシロウ。それじゃあ気をつけてね」

 

【形態変化】させると四人に回復魔法をかけて、立ち去ろうとした。

 

「待って待って! 助けてくれたお礼をさせて!」

「ふゎぁっ!?」

 

 立ち去ろうとしたシロウに、ハルカは引き止めようとして尻尾を掴む。

 敏感な尻尾を掴まれたシロウは思わず、悲鳴を上げてしまう。

獣人族ビーストぞく】と【魔族】のツノや耳、尻尾などは敏感で感覚もある。

 

「あっ、ごめんなさい」

「だ、大丈夫だよ。たまたま、通りかかっただけだからお礼は気にしないで」

「遠慮しないで、私達にできることならお礼するから」

「そうそう。今頃助けが来なきゃ、俺たち二度と『アストラル』にログインできなくなってたからな」

「という訳だから、僕達にできることはないかい?」

 

 お礼がされたくて助けたわけではないが、断れそうな雰囲気じゃないためシロウは今集めている素材があれば譲ってもらうことにした。

 

「そうだ。じゃあ『トレントの材木』って持ってるかな? できたらそれを譲ってほしいな」

「『トレントの材木』……って、この先にある【パラノーマル森林】に出るトレントの落とすやつ? それなら私たちいっぱいあるけど」

「そんなのでいいのか?」

「うん、ギルドホームを作るのに必要な素材だから、売ってもらえると嬉しいな」

「ああ、ギルドホームを作るんだね。いいよ! 露店で売ろうかと思ってたけど、タダであげるよ!」

 

 助けたとはいえ、タダで貰うのは気が引けたのでシロウは相場の半額で売ってもらった。

 ハルカ達から『トレントの材木』をたくさん売ってもらい、目的の物が予定より早く集まってしまった。

 ハルカ、カオリ、コウキ、イオリの四人とフレンド登録を交わした。四人は狩りを切り上げる途中でPK集団【カレイドブラッド】に襲われたみたいだ。

 四人とも現実では幼馴染らしく、ハルカとコウキに誘われてカオリとイオリも『アストラル』を始めたらしい。

『トレントの材木』が全部揃ったのでシロウはハルカ達と一緒に王都に戻った。

 王都に戻ると、ヒナタからメッセージが送られてきた。ヒナタとユキが再びログインしてきたみたいだ。

 ハルカ達と別れて、シロウは噴水広場に戻ってきた。

 

「おーい、騎士君!」

「あっ、騎士くん」

 

 シロウを見つけるとヒナタが大きく手を振り、ユキは控えめに手を振る。

 

「騎士くん、レメちゃん待たせてごめんね」

「ん、大丈夫だよ」

「全然大丈夫だぜ!」

「騎士君、ユキ、またトレント狩りに行こう!」

「ああ、実はそのことでなんだけど……」

 

 シロウは二人がログインして来る前の話をした。

 

「騎士くんとレメちゃん大丈夫だったの?」

「ああ、コイツが余裕で倒したから大丈夫だ!」

「うん、平気平気」

「私達が来る前にそんなことがあったんだ。騎士君とレメが無事で良かったよ」

 

 シロウが強いとはいえ、ユキとヒナタは心配になる。

 

「『トレントの材木』が集まったことだし、リサさん達の店に戻ろうか」

「ああ、うん。そうだね」

「はーい」

「おう!」

 

 ハルカ達から売ってもらった『トレントの材木』のおかげで本数が全てが揃った。

 全て揃ったのでシロウ達は一旦、リサとユカの店に戻ってきた。

 

「おーい。セレナ、リサ、ユカいるかー?」

「あら? レメちゃん達じゃない。もう戻ってきたの?」

「ああ、予定より早く終わったぜ!」

「あらあら、早いわねー」

「はやく終わったので、リサさん達のお手伝いに来ましたー!」

「そうね。それじゃあ、セレナちゃんとユカは今、素材集めに行ってるからそっちの方手伝いに行ってもらっていいかしら? 私は素材の【調合】の方をやってるから」

「了解です」

 

 素材集めをしているセレナの方を手伝いにシロウ達は向かうことにしたのだった。

 

 To be comtinued

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る