序章 特別な夜に出会い①

ようへいエルランド・キーフェル。こたびの南国境での、そなたの働き見事」

 居並ぶ重臣、将官たちを前に、ミッドラーン国王ヴェセルの声がひびく。

 美男のほまれ高い王だが、声はかん高くてみみざわりだ、とエルランドは思った。

 優美で広大な王宮の中央広間。

 そこで今、南方せんえき功労者へのほうしよう式が行われている。

 エルランドはひざをついて顔をせ、王の言葉を待った。

「その戦功により、そなたをに序列し、王領イストラーダ州をあたえる。それにより、これからはエルランド・ヴァン・キーフェルと名乗るがよい。つつしんで拝受せよ」

「……ありがたき幸せにございます」

 エルランドはへいたんに答えた。

 玉座を前に、深くひざまずいているので、表情は王からは見えないが、エルランドはその光の強い緑の目をたぎらせ、くちびるみしめておこっているのだ。

 ──これで俺に恩を売ったつもりか! しぶちんのくそ王が! 先祖の領地を返すどころか、どうでもいい土地を、お情けではらい下げられるなんてな!

 ミッドラーン国の最東の地、イストラーダは深い森や山が多く、土地はせて基幹産業もない。貧しい人々が暮らす、いわば捨て地だったのである。

 父の代からの傭兵暮らしで、エルランドは貧しさも危険も、仲間を失う悲しみもいやというほど味わった。だから彼は、自分に従ってくれた者たちに、安定した生活を与えてやりたかった。

 それには領地を持つしかない。そのために戦ってきた結果が、捨て地のじゆである。

 周囲には、おもだった貴族や役人がずらりと並んでいる。嫌だと言える立場ではない。

 エルランドは、苦々しくなっていく顔をかくすため、深く体を折った。

「その上に……、これは格別の計らいなのだが……」

 ヴェセルは、もつたいをつけて言葉を切った。

「キーフェル家の長年の功績にむくいるため、王家からの特別の感謝のあかしとして、そなたに我が末の妹、リザを与える」

「……は?」

 エルランドは金緑の目を見はった。

「言ったとおりだ。王家のひめを妻にむかえられることを、身に余るめいと心得よ」

 王は美しい金色の目で、ぼうぜんとするエルランドを見下ろした。

「騎士キーフェル。けつこんは、すぐにでもとり行う。準備をしておくように」

「……おおせのとおりに。我が……陛下」

 冷え切った男の声に気づく様子もなく、王は次にひかえる者の名を呼び、その騎士が進み出る。

 エルランドのいかりに気がついた者はだれもいなかった。

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