おどり様

@jokac

第1話 おどり様

「咲太、おどり様って知ってるか?」

久しぶりに高校からの友人の大和と会い、ファミレスで昼食を取っていたとき、大和がスマホの画面を見せながら聞いてきた。

「おどり様?何そのサイト」

「いま俺の大学で流行ってるんだ。このサイトに願いを書き込むと絶対に叶うって」

「何だそれ」

俺はたまに聞くスピリチュアル的な話だと思い鼻で笑ったが、とりあえず話に乗ってみることにした。


「どんな願いが叶うって?」

大和も本気では思っていないという表情だったが俺が話に乗ってきて面白くなってきたのか声に力を込めて話し出した。


「大学の先輩の話なんだけど、おどり様で宝くじで1億円が当たりますようにってお願いしたんだって」

「わかりやすくていいな。それで、当たったのか?」

「いや、当たらなかった」

「当たらないのかよ」

大和があまりに真剣に話すから少し期待してしまった。やっぱり所詮どっかの誰かが面白おかしく作ったサイトにすぎない。

俺はさっさと呆れてしまったのだが、それを察しただろう大和の次の言葉に驚いた。

「1億円は当たらなかったみたいだけど、当たったらしいんだよ100万円」

「本当に?たまたまだとしてもすごいじゃん」

「面白いだろ?」


店員が食べ物を運んできたので話は一旦中断した。冗談でもこんな話を真剣にしているところを他人に聞かれたくはない。


お願いしたのは1億円だが、おどり様とやらがそれはやりすぎだとでも思ったのか、それよりスケールが小さい100万円にしたのだろうか。


店員が離れるのを確認すると大和は頼んた唐揚げを食らいながら続きを話し始めた。

話を聞けば、大和も流行りにのっておどり様にお願いをしてみたという。


「それで、なんてお願いしたの?」

「今田美優と付き合いたいって」

「何だそれ」

今田美優といえば今一番人気なアイドルだ。声が可愛ければ演技もうまい圧倒的美少女、アイドルの象徴的存在だ。そういう界隈に疎い俺でもさすがに今田美優は知っている。


今田美優と付き合いたいなんて同じくらいの歳の男は皆思ってるかもしれない。そのくらい人気だ。

だからこそ、その妄想じみた願いの雑さがわかった。


「どうせお願いするならもっとまともなやつにしろよ」

「1億円とかお願いするよりはこっちのほうが面白いだろ。それに案外現実的な願いじゃないか?運に委ねているわけじゃない、出会いさえあれば叶うかもしれない願いだろ」

なぜ国民的アイドルと一般人が出会える機会があると思ってんだ。そこら辺ほっつき歩いているとでも思っているのか。


「出会えたところでお前なんか相手にされないよ。向こうは恋人なんて選び放題なんだから。あ、でももし叶ったら教えてくれよ。俺も願い事したいから」

「言ってくれるね~あ、そういえばサイトでお願いをしたとき、返信がきたんだよね」

そう言うと大和は目を上に向けて思い出すように話し始めた。

「たしか〜、2日間おどり様から逃げろ。おどり様と目があってはいけない。達成すれば願いが叶う。みたいな感じだったかな」


逃げろ、目があってはいけない。やっぱりホラー系だったか。こういう話はホラーがテンプレだし、おどり様って単語からなんとなく予想はしていた。

「それで、捕まった人は狂ってもう二度ともとには戻れないとか?実は大和も気づかないうちに捕まってたり」

大和を怖がらせようとしてみたが軽く流された。

嘘だとはわかっているが、こういう非現実的なことが本当だったら面白いのにと考えてしまう。


「それじゃあ、願いを書き込むと2日間おどり様とやらに追いかけられるってことか。見事逃げ切った暁には願いが叶う。でも1億円が100万円に変わったように願いのスケールには上限があると。それでお前、おどり様には追いかけられたのか?」

「冷静な分析おつかれ、でも残念。おどり様には追いかけられてないし、願いを書き込んでから3日経ったけど今田美優とは付き合える気配がない」


大和は持っているフォークをくるくると回し、手いじりをいている。

すでにこの話題に飽きはじめているようだ。


それから俺達は話題を変え、他愛もない会話を続けた。久しぶりに会ったのでこれまでに起こった出来事などを話していたら話題は尽きそうにない。


そんな感じで昼食を終え、そろそろ店を出ようとしていたときだった。

おどり様のことなど気にも留めていなく、なんなら忘れかけていたとき。


俺らが座っていた席の横を歩いていた女性がスマホを落とした。それは偶然か必然か俺の足元まで転がり、滑り込んできた。仕方ないと思い腕を伸ばし拾ってあげ女性に渡そうとした。

女性は室内なのに深く帽子を被っていて、マスクにメガネ…まるで変装みたいだ。


変装…さっきした会話がなければ気づかなかったかもしれない。


帽子のツバで見えなかった顔が下から覗いた事によって見ることができた。

多分化粧をしていない、それでも目立つくらいの美少女。

そういう界隈に疎い俺でも知ってる。

圧倒的美少女でアイドルの象徴的存在、今田美優だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おどり様 @jokac

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ