第1話 発病の夜2023/10/6 以後10/13

 あまりこれで筆を執るのは我が身によろしくないのは承知なのだが、自らに置かれた状況と、あるいはなんらかの事態の好転、そしてこれからの自分がそんなこともあったなあ、と笑えるためにも、今、俺を襲っている精神的な病状について幾らか書いておこうと思い立った。

 これは諸兄にも何かの拍子でこの病が訪れた時に、少しでも気分や体調を良くする手がかりであって欲しい。

 精神的に病むことは、正直、自分はいつかやられるのかもなあと他人事のように考えていたのはつい先週のことだったが、学期明けの前日の夜にひどい不安と焦りが襲ってきて、心と身体がバラバラになる感覚(ほんとになんらの修飾があるわけでない、ただこれとしか表現し得ないもの)に襲われだして、たまらずに小説やアニメを見始めても、頭にからっきしも入ってこない。

汗がだらだら溢れて、心臓の異様なバクバクのせいで脳は覚醒状態に陥り、親と話し合って、なんとか家族で寝ることで少しばかりの睡眠を取ることが出来た。当日の日記には「心の底蓋が取り外されて、満ちていたものがずんずん抜けていく感覚」を覚えた。

 これはもはや、インフルの発症によって夜更けがとたんに辛くなるようなものだと考えていたが、翌朝には世界の見方が若干、いつも通りではなくなっていた。

常に緊張状態になっている。

あの新学期初めてのクラスに突入する瞬間やら、東京の人混みを歩く感覚が、寝ても覚めてもへばりついているようになって、ようやく己が何かに病んだのだと理解した。ずっと何かに追われ、急かされている。自分ではそれが何かが分からない。

 小説、漫画、アニメ、ゲームがまともに心に入ってこない。うちの子に触れることが出来るのも、ほんの僅かな間で。おそらく原因と知れるのが、例のゼミ選考だったので、必死になって終わらせた。書いているときは、心が元通りに収まっている気がして、感情の振れ幅が上がり目になる。

 そう、振れ幅。

振れ幅のそれが、あの発病の夜よりおかしかった。気分がさがり続ければ際限なく下がる一方で、上がりだすとどこまでも突き抜けるぐらいに上がりっぱなしになる。心のブレーキが効かない状態で、上下揺り戻しのジェットコースターの気分は最悪だった。

文章を無理やり読む、書くとしていると上がるが、下がると希死念慮を抱くまで下がり続ける。それも死にたい、ではなく死ぬしか無いと断定付けるほどで、自分はそう考える己が恐ろしく、そしてこれが永久に続くことを今でも恐れている。

 ゼミは終わらせて、この精神の不調は振れ幅こそ落ち着いてきているが、今はまだ崖っぷちにある所で、自分の見も知らない新たな緊張状態や、日常にないものに触れるのは少し厳しい。何かの拍子で、これが元通りになってしまったら、辛く苦しい毎日がまた訪れるのが恐ろしいのである。

 日課のウマの育成五回分も出来なくなった。

飯がまともに食えなくなって、三日間絶食してしまったりして、体重は10kgほど痩せた(これが一番驚いた。毎食おかわりを欠かさないこの俺が、飯が怖くて食えないなどあるとは)

夜は不安に襲われて眠れないままで、ネットをまともに見ることも心に応える。

 肝心なのは考えないことと、大人しく周囲に助けを求めることだ。

 怖いときには怖いと言いたい。

本当に、なに一つの詐病のものではなく、苦しくて自分ではどうしようもならない時には、助けてくださいと声を大にしたい。

これは、ヘラでもなんでもなく病だ。何かの病気で、いつかきっと治るものだ。先週の、平常心でへらへらと生きていたあの頃に戻るためにも、ここは足場を固めながら家族と過ごしたり、のんびりと静かに過ごしていたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る