第10話 オオカミ犬

 ガルドの村までの往復には二日掛かる。

 おそらく更にデデム町まで行ってくれているはずだ。

 ということで更に数日は掛かるのだろう。

 村では買い取りとかしてくれる店もない。

 小さな雑貨屋はあるみたいだけど、値段の分からないものの買い取りはしてないと言っていた。


 一週間ほど経過した。


「おーい」


 ガルドが帰ってきた。

 笑顔なので商談は上手くいったようだ。

 今回も残りのジャカイモを背負ってきている。


「スパイダーシルクどうだった?」

「かなりの高値をつけてもらった。王都まで運べば更に高いそうだが、構わないだろ?」

「ああ、自力で運ぶほど暇じゃないな」

「ほら、金貨」

「確かに」


 俺は金貨を受け取ってにんまりと笑う。

 金貨がかなりの枚数だ。

 これなら相当な儲けになる。


「何を買うかなぁ」

「そうですね」

「そうだ、オオカミ犬が欲しい」

「オオカミ犬ですか」


 ゴブリンは人間と同じで鼻が利かない。

 犬がいれば狩猟犬にできる。


「シカ狩りがしたい」

「なるほど」


 ウサギはその辺にいる。

 オオカミは襲ってくるのを返り討ちにしている。

 オークは逃げるに限る。

 あとはイノシシはそうだな。火魔法の棒があればなんとか倒せそうだろうか。犠牲が出るかもしれないが。

 サルもいるが頭上の木の上を移動するので手が出ない。しかも群れる。


 それでシカだ。こちらの音を聞いてさっさと逃げていくので狩るのが難しいのだ。

 だから普段、糞が落ちてることはあっても姿を見せることはない。

 そこで犬で追い立てて、目の前まで連れてくることを考えた。


 結構な数のオオカミを狩ったので、こちらは数が減ってきている。森の奥から移動してくるのでそこまでの影響はまだない。

 それでもリスクの分散はしたい。

 それにオオカミが減ってシカが増えるとなるとシカによる食害も心配だ。


「ワンコか、分かった」


 ガルドが請け負ってくれる。


 それから更に一週間後。


「ワンコだぞ」

「ワンワン!」

「ワウウ、ワオオウン」


 まだ若いちょっと大きい子犬だった。

 全部で六匹。

 オスメス、それから複数の親の子で全員が兄弟ではないそうだ。

 繁殖させるならそのほうがいいな、助かる。

 授乳期は終えており、もう肉を食べる。


「パパ、ワンコ?」

「うん。犬だよ、犬」

「分かった! ワンコ、ワンコ」


 グレアが犬に突撃していき、みんなで揉みくちゃになっている。

 仲良くできそうでよかった。


 それから、数日。


「シカ、捕れた」

「でかした!」


 犬を三匹連れた違うパーティーが念願のシカを仕留めた。

 この森には今までゴブリンに捕まることもないため、かなりの数のシカが生息している。

 資源は有効活用したい。


 シカ肉を早速、夕ご飯に食べる。

 ただ焼いただけだが、かなり美味い。

 スープにもいくらか入れてあり、旨味が出ている。


「おいち!」

「うまうま」

「ああ、うまいな」


 グレアもにっこりだ。

 ちなみにグレアはドングリのころにおっぱい以外も食べるようになり、最近、グルメに凝っている。

 これには料理をしてくれるママ、リーリアを見ているのも関係あるのだろう。


 料理関連も、フライパン、オリーブオイル、専用のナイフ、お玉、などなどを仕入れている。

 葉っぱはその辺で採ってくるのがあるのでそれ以外として食材も、トマト、ナス、トウモロコシ、ダイコン、ニンジン、タマネギなどを少量ではあるが買い付けた。

 スープに入れたりして味のアクセントに使っている。


「おいち!」

「グレアもすっかりグルメちゃんだ」

「パパ。ママ、料理上手」

「だなぁ、いいママでよかったな」

「よかったぁ!」


 ニコニコしてご飯を食べる。



 そんなある日。


 俺たちのパーティーが非番で洞窟で休んでいた。三パーティーあるのだが、今はいちパーティーは休みにしている。


「大変だ、イノシシだ、イノシシ」


 ゴブリンが森の中から飛び出して、洞窟に逃げ帰ってきた。


「グググルルウ」


 どこからかイノシシの声が聞こえる。

 ドシドシと地面をイノシシが駆ける音がここまで聞こえてくる。

 洞窟の監視をしている若いゴブリンたちが一斉に弓を構えた。

 城壁の上からイノシシが出てくるのを待つ。


「はぁはぁはぁ、イノシシ……」


 先に飛び出してきたのは逃げてくるゴブリンだった。

 急いで城壁の中へと入ってくる。

 そのすぐあとに森からイノシシが姿を現した。


「グルグルグルルル」

「かなりデカい」

「大物だ、みんな掛かれ」


 弓が一斉に引かれる。

 人間製の弓矢は精巧にできていて、命中率も高い。

 先端には鉄の鏃もついており攻撃力も高かった。


「ブヒイイイイ」


 何本か矢が命中したイノシシは怒りの咆哮を上げる。

 俺たちはそれを見つつ、短槍を装備して応援に駆けつける。

 短槍も人間製で購入したものだ。

 以前に使っていた木槍は先端を尖らせたただの枝だった。

 この短槍は柄こそ木製だが丈夫な木が使われている。そして先端は矢同様鉄製なので、かなり丈夫でやはり攻撃力も高い。


「槍部隊! 突撃!」

「おおおお」

「いけえええ」

「うわあああ」


 俺が掛け声を上げて、みんながついてくる。

 矢により興奮しきったイノシシを一方方向から一斉に攻撃する。

 次々と槍が刺さり、イノシシが再び咆哮を上げるが、致命傷だったようで、ドスンと倒れてピクピクしていた。


「倒したぞおおおお!」


 残りの左右の槍兵もイノシシに攻撃を加えたが、もう動かなくなっていた。


「イノシシを仕留めた!」

「俺たち、ゴブリンがやったんだ!」

「うおおおおお」

「勝った! 勝った!」


 恒例の意味不明なゴブリンダンスがはじまる。

 次々と洞窟からゴブリンが出てきてこれに加わった。

 最後尾にはグレアまで見様見真似で一緒に踊っている。かわいらしい。


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