第3話 魔道具
さて効率の悪い狩りを続けて、何か月か。
「魔道具とか使ったらいいんじゃないかな」
武器は木槍で碌な攻撃力がない。
そこで前世の知識を生かして、戦闘用の魔道具を作ろうと考えたのだ。
野生のゴブリンに本来できることではないが、俺は転生者だし。
隣でリーリアがグレアの世話をしている。
それを横目で見つつ、木の棒に魔石を嵌める穴をナイフで削っていく。
そして俺の血を使って木のペンで、魔石に魔法陣を描いていく。
といっても初級の火魔法なので簡単な紋様だ。
これくらいなら暗記していたし、ゴブリンでもできる。
幸い、ゴブリンの手は小さく、こういう手作業に向いている。
そのため雑用の奴隷に適しているというのもある。
「えいしょ、えいしょ」
「ぱぱ、ぱぱ」
「ああ、ほら、できたぞ」
「きゃっきゃ」
俺の手には「火魔法の棒」が完成していた。
魔力を流すと、先端から火を噴く。
基本的にゴブリンはほとんど火を熾さない。
すでにある種火をずっと燃やしていて、そこから分けて使う。
うっかり夜番が寝てしまったりすると、消えかかっていることがある。
そうすると長が火魔法でもう一度、火をつけてくれる。
ここのゴブリンの半数は火種の魔法は使える。
その中のさらに半分は火魔法がちょっとだけ使える。
俺とかな。
ボワワアアア。
俺が火魔法の棒を使って見せると、目の前に火炎放射のようなものが出て、みんなびっくりしている。
「なんだべ、それ」
「火魔法の棒」
「なんだ、なんだべ」
「魔道具だよ」
「へぇ、すごいな、ドル」
使ったのは角ウサギの魔石だった。
普段使わないので、隅の方にゴミみたいに山になっていたのを失敬したのだ。
俺はこれを量産した。
ここのメンバーは約二十人。
そのうち七人がメスだ。オスのほうが生まれやすい。
しかし多産なので、人口は維持できるのだ。妊娠期間も短いし。
外回りの戦士チームは五人パーティーが三つとなっている。
ということでチームあたり三つを装備するべく十個ばかり作成した。
ひとつはグレア用のおもちゃである。
ヒーラーの適性があり村の教会で働いていたリーリア。
その娘なので魔法適性があるのだ。
「バゲは、もう大丈夫でしょう。治ってますね」
「すまない、ゴブ」
バゲは戦士の一人で、この前、角ウサギの角に当たって、足に怪我を負っていた。
リーリアの治癒魔法ヒールで治してあげたのだが、そのあとも様子を見ていた。
この村ではここ三か月、死者がいない。
その理由の一つに、リーリアの治癒魔法で回復できるからでもあった。
軽い火傷を治したこともある。
ということでリーリアは相変わらず檻に捕まっているが、前よりは他のゴブリンからも一目置かれる存在になっていた。
やはり魔法や魔道具は使えるなら、どんどん活用したほうがいいのだ。
ゴブリンだ、脳筋だとか言ってられない。
そして俺たちは実践するべく狩りに出かけた。
今日はウサギの数が少ない。
少し焦っていたところ、森の中から陰が飛び出てきた。
「グルルルル」
「オオカミめ」
「くらえ、ファイア」
「おりゃああ、ファイア」
オオカミに俺たちの火魔法の棒が火を噴く。
オオカミが燃え上がり、ダメージを与えたのか、なんとか倒すことができた。
「ふぅ、火魔法の棒がなければヤバかったな」
「ドル、これすごい、ドル、やった」
「ああ」
みんなで大よろこびだ。
オオカミを解体していく。
毛皮が手に入った。これはいい。ひさしぶりの大物だ。
肉もたっぷりある。
ウサギの肉は脂肪分も少なくササミみたいにタンパクな味だった。
オオカミ肉はもっと肉肉しく、旨味が強い。
ご馳走である。
頭の弱いゴブリンたちは踊りながら帰っていった。
それを俺があとからのんびりと追う。
ルフガルに着くと、さっそく夕ご飯の支度だ。
いつもより少し早い。
オオカミ肉を焼いていく。
そしてオオカミをさらに解体していく。
牙を取る。そのうちの一番大きいのを俺は貰った。
これは後で紐を通す穴を開けて、アクセサリーに通す。
ジュワアア。
いつもより美味しそうな匂いが洞窟に充満している。
大型のオオカミ一頭分の肉だ。かなりの量があった。
全員が満足に食べられるだけはある。
ちなみにゴブリンは狩りが下手でもともと貪食だったので、飢餓に強い。
そのため奴隷のゴブリンは碌にご飯を与えられない場合もある。
まったくケチなご主人様もいるものだ。
それから毛皮。
これは服がボロボロになってしまったリーリアに与えられることになった。
人間はゴブリンほど丈夫じゃないし、服の代わりはいるだろう。
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