第2話 リーリア

 家の洞窟に戻り夕ご飯とする。


 焚火をしてウサギ三匹を焼いていく。

 味付けは山の上の方で採れる岩塩を砕いた物が使わている。

 野生のゴブリンという割にはグルメなほうなのだろう。


 ククルの実を総勢二十名ほどいる家族に分け与える。

 焼けたウサギも配っていった。

 水は粗末な木のコップを各自で用意する決まりだ。

 洞窟の一番奥の部屋が下へと続いていて地下水が湧き出ているのだ。

 ご飯を分け与えるのは長であるベダの指示で、メスゴブリンのリーダーであるベリアの担当だった。

 ベリアはベダの奥さんで、家族の中で怒らせると一番怖い。

 肝っ玉かあちゃんである。


 いただきますもなければ、挨拶すらない。

 ウサギ肉を受け取ったゴブリンからすぐに食べだす。

 ちなみにもちろん手掴みだし。

 手を洗う習慣もない。


「うま、うむ」

「むぐむぐ」

「ぐふふふ」


 ゴブリンはあまり社交性がないので、風邪とかも移らないらしい。

 あまり病気になることがない。

 頑丈である。

 だから、人間に奴隷として重宝されてきたという歴史もある。

 無理をさせても死なない、病気にならないと便利だったのだ。


「ほら、ドル、食え」

「あ、どうも」


 俺は二人分の食事を受け取ると、焚火の囲いから離れて目的地へと移動する。

 奥から二番目の小部屋には、木の棒で入口がふさがれていて、扉がある。

 つまり牢屋だ。


「リーリア、ご飯だ」

「ありがとう、ドル」

「いいんだ」


 中に入る。そこには金髪碧眼の十六歳の少女、リーリアがいた。

 もちろん人間だ。

 髪はだいぶ痛んでしまっているがそれでもまだ美少女に見える。

 一か月前くらいだろうか。

 彼女はこの森で薬草採取をしていたのだが、俺たちゴブリンに捕まってしまったのだ。


「食べるぞ」

「はい。食事をありがとうございます。エスティーシア神に感謝して」

「神ねぇ」

「ゴブリンに言われる筋合いはないわ」

「そうですかい」


 俺とリーリアだけの食事が始まる。

 彼女は最初、手掴みだったのに少し難色を示したが、今では慣れたのだろう。

 それでも彼女は綺麗好きで、俺に水を持って来させて、食前、食後には手を洗う。

 濡れた布ともいえないような布で、体を毎日拭くことも欠かさない。


 ちなみに彼女の格好は非常にボロい布のような物だ。

 最初は綺麗なワンピースだったのだが、今ではぼろぼろになってしまっている。

 逃げ出そうと檻の間に体をねじ込んだりと、お転婆だったのだ。

 長がその度に、鞭のような枝で叩いて躾けたせいで、こうなっている。


「ごちそうさま」

「ごちそうさま」


 ご飯を食べ終わる挨拶は、俺たち二人とも一緒だった。

 元々は人間が祈る食後の挨拶なのだが、俺は隠しているが元人間だしな。

 他のゴブリンでこういう挨拶をしている奴はいない。


 食事の皿を返して片づけをすると、再び牢に戻る。


「んじゃ、寝るか」

「んっ」


 リーリアが頬を少し赤くして、場所を開けてくる。

 俺は長からリリーアの世話係を任命されている。

 そしてリーリアとは夫婦だと決められていた。

 二歳にもなれば大人なのだ。


「んっ、んん」


 リーリアと抱き合って夜は眠る。

 ゴブリンにはまったく反応しない俺だが、リーリアは美少女である。

 俺だってオスのゴブリンだった。

 リーリアはたまらないいい匂いがする。


 最初こそゴブリンである俺を拒んでいたが、今では抵抗も弱くなった。

 それでもやはり羞恥心はあるようで、嫌がりはする。

 しかし俺はただのゴブリンではなく非常に紳士的なので、優しく、優しく接してやるとリーリアも大人しくなる。



 リーリアが捕まり俺と夫婦になって二か月。


「なんか、気持ちが悪いの」

「そうか」


 リーリアが妊娠した。

 人間とゴブリンのハーフはこの世界ではホブゴブリンと呼ばれている。

 妊娠期間は三か月前後らしい。

 ホブゴブリンは普通のゴブリンより気持ち背が高い。

 またゴブリンよりは平均して賢い。

 肌の色もなんとなく違い、普通のゴブリンが濃い緑系なのに対して少し薄めだ。


 あれよあれよとお腹は大きくなり、子供が生まれた。

 胎児の大きさは人間より小さいので、生みやすいといえば生みやすいのだろう。

 もちろん危険ではあるが、オークとのハーフに比べれたら雲泥の差だ。オークは大きいからな。

 女の子であった。


「グレア」

「グレアね」


 長の命名にみんなで応える。

 グレアがリーリアのおっぱいを一所懸命に吸う。

 小さい子はみんなサルみたいだが、どっちかというとやっぱりゴブリンだった。


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