カオス•ミニマリズム

砂糖鹿目

第1話

「こんな新人初めてだよ」


「ん?」


私はいつも通り人が混雑する都会の中を縫うように歩いていた。

特段変な事があったわけでもない。

だがしかし気づけば四方八方コンクリートの部屋の真ん中で、私は椅子に固定されていた。


「おっ?気づいたか新人!」


そして目の前にはイラストレーターが書いたような美少女が、ノートを持ってこちらを見つめている。


「えーっと、、真矢葵しんやあおい、、さん!ようこそ!、貴方は一体なんの罪を犯したのかな?」


美少女は言葉を発する度に、コンクリートのジメジメした空気を圧倒した。

あまりにテンションと状況が噛み合っていない。


「かっ、、」


(あれ?声が出ない?どうなってんだこれ?)


調子の狂う人物が目の前にいるので最初は勢いについていくしかなかったが、よくよく状況を整理してみると明らかに異常であることに気がついた。

ここはどこなのか?

私が何をしたのか?

なんで固定されているのか?

一体なんの経路があって気を失ったのか?

貴方は誰なのか?

疑問を考えてみればキリがない。

整理しようとしても頭がまず追いつかない。


「あーっ、そいえば接続がまだだったね」


彼女はそういうとノートを見ながら俺の頭を指で突いた、感覚はない。


キュィーン


すると突然頭の中で耳鳴りに近い音が響いた。


「あっ!、、え?喋れる!」


「あーっ!葵さんはじめまして!私、高橋裕也たかはしゆうやと申します!どうぞよろしくお願いします!」


彼女はそういうと一方的に握手をしてきた。


「えーっと、色々聞きたいことがあるだろうからとりあえず何でも聞いて」


「あ、あのぉ」


「おい!」


「え?」


質問しようとしたら突然どこからともなく声が聞こえて来た。


「説明している時間はないぞ!大まかな内容は本人も知っているはずだ。後は順を追って説明すればいい」


「そんなこといったって、なんか動揺しているようですよ?明らかに、、ねえ?」


話していいのかよくわからなかったので、私は動揺気味に首を縦に振った。


「ほら、説明しないとかわいそうだよ。多少いいじゃないですか」


「いや、ダメだ。早速出動してもらう」


「え!?今回やることもなんも説明しないつもりですか?!」


「問題ない、葵は裕也についていけ。以上だ。わかったら裕也は葵をボックスの前へ連れていけ」


「ごめんねぇ、頑固な上司で。葵さん立てる?」


「えっ、あっはい」


ビックリしたが裕也さんが上司と話している間に私の身体は想像以上に軽く動かせるようになっていた。


「じゃあ、早速だけど私についてきて!ほら!」


彼女が私の手を握ると突然高速で移動しているような感覚に襲われた。

気づけば私は長方形の箱の前に立っていた。


「これがボックス。まあ、詳細は後で直接ダウンロードするからとりあえず細かいことは考えないで。ふふっ、やっぱりその姿似合ってる」


「えー?、、は、はい」


情報を整理しようと考えたが、多分不可能だということを心の奥底で悟った。

世間というのは理不尽だ。


「じゃあー!行きますよー!」


裕也はそういうとボックスを開いて私と一緒に中へ入っていった。



気がつくと目の前は私の暮らしていた都会だった。


「なんだ、、夢か」


そう考えるしかない、、いや、そう考えた方がいいのだろう。

もう今となってはどうでもいいだろう、やけにリアルだったあの夢は、、


「葵さーん!起動した?」


予想を裏切られたわけではない、なんとなく察していた。

やっぱり夢ではない。

ただ自分を騙したかっただけだ。


「えーっと、どこにいるのかな?人がいっぱいで、、あーっ!いたいた!」


そういうと後ろから片腕が引っ張られる感覚に襲われたのでそっちの方を振り向くと、案の定裕也さんがいた。


「ほら、こっち」


私は彼女に引っ張られるまま人を避けて歩いていた。


「ここはどうやら、2023年ごろの東京らしいね。現実記憶だとこの空間私大好き」


「げ、現実記憶?」


「えっ、まって。それも知らないの?」


「は、はい。気づいたらこんなことになっていたので」


「ちょっと、操作員!」


「はいはい、なんでしょう?」


またどこからともなく声が聞こえてきた。


「「なんでしょう?」じゃなくて、さっきと話違いますけど?まだ彼女は現実記憶に関しても何も知らないみたいですけど?」


「あーっ、すまん。予想外だ、随分浄化されたみたいだ」


「そこ管理するのもあんたの専門でしょ?しっかりしてよ」


「すまん、すまん。えーっと葵」


「は、はい!」


「とりあえず、今の状況はどのくらいわかっている?」


「何もわかりません」


「即答か、まあ記憶空間もわからないんじゃ当然か」


「どうすんの?やっぱり戻って説明しようよ!」


「いや、それはできない。葵、誤解があったようで申し訳ない。とりあえず裕也から離れるな。わかったか?」


「は、はい。わかりました」


そういうと裕也は私の手をさっきよりも強く握った。


「あ、あの。裕也さん、、自分でも歩けるますよ?」


「ごめんね。状況がわかったない限り、どんなことに巻き込まれるかわからないから私の手は離さないようにしてて」


「はい、わかりました」


「そろそろ、バグのところに到着する。気を引き締めて、絶対手は離さないで」


「は、はい?」


すると突然さっきまで都会だった場所が消え、目の前には暗黒が広がっていた。


「ここからがバグ、混沌カオスといわれている空間。これからは安定した形が私と葵さんしか存在しなくなるから気をつけて。状況に流されてはダメ、それだけは覚えといて」


「えっ?えっ?」


訳がわからず動揺していると、暇もなく突然空間が色を生み始めた。


「お前とはいい付き合いだったんじゃないかと思う、でも、それじゃダメなの!、、あれ?」


気づけば周りは海辺でワンピース姿の裕也さんに何か変なことを喋っていた。


「これが混沌、何が起きるかわからないどこでもない異次元空間のバグ。私達はこのバグの修理担当なの」


「何を言ってるの!今は!、、あれ?私は何を言っているんだ?」


「どうやらなんかのドラマみたいね、私も苦しいし悲しい。これは混沌空間における、役割が割り込んでいるの。徐々に自我を保つのに慣れてくると思うけど。状況に流されて役割を演じてしまうと、それに支配されて二度と戻れなくなる!」


「貴方の言いたいことは、、えっ?死ぬってこと」


時計台の前で貴方のシンボルに指輪を捧げよう。

遂にこの時が来たんだ。


「ジェアンカ、貴方ほど美しいお方は他におりません。考え抜いた末にわたしが辿り着いた答えです」


私はジェアンカに指輪を渡す。


「葵さん!大丈夫ですか?」


「ジェアン、、えっ?裕也さん!?すみません、私変なことして、、」


「いいの、皆んな最初はそうだから。更に私自身も嬉しいし、、だけどそれは役割の感情だからなんとも言えないけど」


二人の相棒は逃げ出した、排水溝をやっとのことで抜け出したが。

既に周りはクソ野郎達に包囲されていた。


「クソッ、本当に小賢しいやつらだ!エイリアンに囲まれてこれからどうするんだよ!、、クソッ、こうなったらっ、、うわっ、なんじゃこりゃ!」


周りには虫に似た気色悪い二足歩行のエイリアンが、裕也さんと私を囲っている。


「襲われそうになったら、今持っている銃で対抗して」


「う、うわーっ!!」


人を何故信じるのか?

そんな必要はまずない、証拠に今俺はヘンテコなセラピストが俺の治療をしている。


「どうなったっていいよ、、もうどうでもいい。俺なんて存在したって価値はないんだよ。家族もいないし息子も失った、一体俺に何が残っているんだよ!」


「しっかりして!葵さん!」


「どうかしているのは、お前らだ!散々こきつかった挙句。俺をこんな地獄にぶち込みやがって!!」


「葵さん!!」


「あっ、、すみません」


「感情に負けず冷静に、最初の修正作業でこんな目にあっているのはキツイだろうけど我慢して。そろそろバグも特定できそうだから、、落ち着いてください」


「裕也さん?」


「貴方は今、とても辛い精神状態に陥っているのはわかりますがそれを治すためにいるのがセラピストです」


「裕也さん!しっかり!」


「、、おっと、すみません。助けられちゃいました。だけど、お陰でバグも大体特定できました。後は任せて下さい」


裕也がそういうと突然、清潔で綺麗なセラピストの病室がビリビリに破けて黒い空間に光の点々が付いている空間に移った。


「な、なんですか?ここ?」


「システムの深層部に近い所です。ここではさっきみたいに整理された情報は流れません。なので、下手すればあらゆる感情と情報が頭の中に流れて廃人になっちゃいます」


「えっ、ええ?」


「でも、安心して。最近だと対策もされているから、ちょっと待っててね」


気がつくと私は都会のど真ん中で裕也さんの手を握っていた。


「よし!おわった!」


「よくやった、お手柄だ」


「ちょっと、大変だったんですけど」


「すまんな、新人を連れて大変だったろう。さっさとボックスに戻って報告してゆっくり話してろ」


「なんで、ちょっとキレ気味なのよ」


「さっさとしろ」


「いやな、上司だね」


「えっ、あ、あーえーっと」


「おい、聞こえてるぞ」


「わかって言ってるんですー、じゃあ、戻ろうか。お疲れ様」


「は、はい!」

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