第40話 求めていた職業

「さあ、見えてきたぞ! あれが俺の街、サンブリーだ!」


 大勢おおぜいの冒険者を乗せた馬車を引き連れ、俺は声を上げた。

 約一週間ぶりの帰宅に少々心躍こころおどりつつも、初めてこの地をおとずれる者たちのために、積極的せっきょくてき解説かいせつをする。


みなさん、正面左手をご覧ください。あれが我が地元の特産品であるワイン――の原材料になるぶどう畑です。今年からはワイン以外にもビネガーソースやぶどうジュースなども作る予定なので、お酒が飲めない人も安心。街の修復が終わったら飲食店などにおろすつもりですので、よかったらお土産みやげ購入こうにゅうしてください」


 ――すげえ、アレ全部ぶどう畑かよ。

 ――山肌やまはだ一面全部畑とか規模きぼがすごいわねえ。

 ――でもところどころ禿げてるように見えるけどれちゃったのかな?


「いいえ、あれは木を植ええているからです。領主の私が領内の土魔法が得意な住人にお願いしてやってもらっています。完了すると『歓迎かんげい! ようこそサンブリーの街へ!』という文字が浮き上がる予定です」


 ――バカだ! この領主バカだ(笑)!

 ――だが、そのバカがいい。

 ――面白そうね。完成するまでここで仕事しようかしら。


 冒険者たちの反応は様々だけど、ウケはいいようだ。

 こういう土地を使ったメッセージなんかはこちら側には存在しないようだったからな。


 将来的しょうらいてきに考えている観光業かんこうぎょうのためにも、こういういい意味でバカっぽいものを作ろうと思って始めたのだけど、どうやら当たりっぽい。


 住民たちの中に土魔法が使える人がいてよかった。

 魔法の訓練にもなるし、きっと職業選択とかに役立つだろう。


「続いて、正面をごらんください。街をかこ城壁じょうへきに何が書かれているかわかりますか?」

「んー? なんかニョロニョロしたものが書かれているのう。あ、わかったウォータースネークじゃ!」


「正解ですアミカさん。かしこい子にはこのうなぎパイをプレゼント!」

「わーい♪ ぉ“っ♥ このパイ美味っ! 舌の上で甘さがとろけるぅ~♪ 生地もサクサクで実に美味びみじゃぁ~♥ 魔力の回復もすっごぉ♥ 食べるだけで美味いし気持ちいぃ♪ 幸せじゃぁ~♪」


「よかったら皆さんもどうぞ。ここの名物になる予定ですので」


 馬車に乗る合格者27名+αにも1枚ずつパイをくばった。


 ――美味ぁぁぁぁぁぁっ!

 ――ナニコレ甘アアアアアァァァァァ!? けど甘すぎなくて美味あああぁぁぁぁっ!?

 ――魔力もだけどつかれも回復する気がするぅ♪ すっごぉい♥ 不思議ぃ♥


 やはり美味いと好評こうひょう

 この世界の菓子かしは基本砂糖ぶち込みまくりで甘すぎる傾向けいこうにあるから、舌に合うか心配だったがこれなら大丈夫そうだ。


「ところでカイト、何故ウォータースネークが城壁にえがかれとるんじゃ? ウォータースネークといえば、川魚を食い荒らす弱いけど厄介やっかいな魔物じゃろ? そんな厄介者をどうして壁画へきがになどに?」


「それはですね、その厄介者は今や街では幸福の象徴しょうちょうだからです。ウォータースネークのおかげでみんな健康! お肌ツヤツヤ! ともなれば、感謝のあかしに城壁に絵だって描くでしょう」


「厄介者が幸福の象徴? ヤツらのおかげで健康でお肌ツヤツヤ? 何言っとるんじゃお主? 頭大丈夫か?」

「大きなお世話せわだロリババア。あんたこそ若いのは見た目だけか? 頭固いなあ。もっと柔軟じゅうなんに理由を考えてみなよ」

「柔軟…………………………ま、まさか!?」


 ほう、気づいたようだな。

 そろそろここで恒例こうれいのネタばらしに行こうか。

 どうせ街に入ればすぐにわかるんだし。


「皆さんが美味い美味いと食べたそのパイ、および俺が作った弁当……原材料ウォータースネークです」


 ――オエエエエェェェェエッ!?

 ――な、なんだとおおおおぉぉぉぉぉっ!?


 ――あ、あんな気持ち悪いもんを俺たちは美味い美味いと……。

 ――で、でも天国に上るかってくらい美味しかったのは事実よね……。


 ――俺は美味けりゃ何でもいいや。

 ――私も。ちょっとびっくりしたけど。


 皆さんお決まりのいい反応リアクションをしていらっしゃる。

 この反応を見るのも、魔物料理の楽しみだよな。


「な、ななななななな、何てものを食わせてくれたんじゃお主はーっ!? わし冒険者ギルドの長じゃぞ!? 一番えらい人なんじゃぞ!? それなのにそんなゲテモノを……」


「嫌なら食べなくていいですよ? もう二度と作らないんで」

「すいません、謝りますから作ってくりゃれ。今のは突然の告白にちょっとおどろいて言っちゃっただけで、わしの本心じゃないのじゃよ。わし、ちゃんとあやまれる偉い子なのでまたアレ作って」


「はいはい。皆さんも食うのが嫌だったら言ってくれれば普通の料理作りますよ。仕事してもらうんだからそれくらいはやります」


 そう俺は言ったが、誰も普通の料理は希望しないようだ。

 まあこの世界の普通の料理って、そこまで美味いわけじゃないからな。

 冒険者用の携帯食けいたいしょくなんて、俺からしたら「シェフを呼べ!」とブチ切れたくなるレベルだし。


「そろそろ街に入るし、今後の話をさせてもらおうか。皆は今日は俺の家で一泊してもらう。各自開いている客間きゃくまを好きなように使ってくれていい。飯は今日の晩飯と明日の朝食の2回。風呂もかしておくから入りたい奴は入ってくれ。ただし、男女で時間分けしているからその時間内に入ること。当然だけど、何か問題を起こしたやつは即刻そっこくクビだ。問答無用もんどうむようで領内から叩き出すからそのつもりで」


 わざわざ獣爪術じゅうそうじゅつを使って首をっ切るポーズで言うと、冒険者たちは全員息を飲んだ。

 先日の俺とこの偽ロリとの模擬戦もぎせんを見ているので、そうなった時の自分を想像したのかもしれない。

 問題さえ起こさなければいいだけなんだし、そこまでビビらなくてもいいと思うんだけどな。


「仕事内容はここから半日ほど、ヴォルナット方面に進んだ方向にある廃墟はいきょの街近く。ローソニア帝国との国境線沿いのダンジョンが現場だ。そこのダンジョンへおもむき、出現する魔物の実態調査とダンジョンの地図作成を行って欲しい」


 前領主が残した情報がなかったため、完全に1からのスタートだ。

 どんな魔物が出るか、どんな場所なのか、どんな危険があるかまるでわからない。

 冒険者諸君には細心さいしんの注意を心掛こころがけて欲しい。


「給料は月金貨2枚。ダンジョンで得た魔物の素材そざいふく拾得物しゅうとくぶつの税金は従来じゅうらい通り2割。ただし、素材だけじゃなく魔物の肉もウチでは買い取るから。できれば持ってきてほしい。何が出るかわからないし、肉の市場価値は今のところほぼないから、買取り価格は一律いちりつ銀貨1枚だけど、もし食える肉だったらそれを使った新作料理を優先して食わせてやる。なので、食いたければ肉持ってこい! いいな!?」


 ――オオオオオォォォォッ!


 うむ、いい盛り上がりだ。

 これなら調査結果の方も期待できそうだ。

 美味いものが関わると人は気合いが入る。


「ダンジョン探索する前に言ってくれれば1回分の弁当も出せるから、必要な人は言って欲しい。まあ、出せるのはウォータースネーク系料理だけだが」


 ――ッシャアアアアアァァァァッ!

 ――またアレ食えるとか最高の職場じゃねえかあああぁぁぁぁっ!

 ――給料も悪くないし大当たりの仕事だったわね!


 ここまでよろこんでくれると作り甲斐がいがあるなあ。

 明日の弁当は卵を使ってウォータースネークの『う巻き』に挑戦ちょうせんしてみようか。


「あの……ちょっといいですか?」


 そんな風に盛り上がる中、約1名がおずおずと手をげた。

 気弱そうな彼の名前は――確かピートだったか?


「その仕事、僕も行くんでしょうか? 恥ずかしながら僕、まだダンジョン未経験で……」


 ダンジョン未経験と言ったとたん、何名かの冒険者たちから笑いが上がった。


 ――何? お前まだダンジョン経験ねえの?

 ――未経験ってマジ? ヤバくない?

 ――ダンジョン童貞が許されるのはFランクまでだよねー♪


 などとはやし立てるやからが出たので、ピシャリとこれを一喝いっかつする。


だまれ。俺だってAランクだけどダンジョン未経験だ。経験がないってことは、それだけ依頼クエストを頑張って、人々を助けてきたってことだろう。全然恥ずかしいことじゃない」


 ――は、はい……。

 ――俺たちが間違っていました。すいません……。

 ――わ、私も実はダンジョン初めて行ったのDランクからでした。


「あ。あのう……僕まだFランクだから依頼とか全然――もがっ!?」

「いいから! 余計よけいなことは言わず黙っておるのじゃ!」


 ナイスロリババア。

 良い感じに説得できたのに水を差してほしくない。

 あの偽ロリには後でうなぎパイをもう1枚あげよう。


「それで、その、僕の仕事は?」

「ピートには他の人とは違う特別な仕事を用意してある。給料はみんなと同じだからそこは心配しなくていい」


「は、はあ……そうですか」

「あ、カイト。おかえりー」


 馬車が屋敷やしきに入ると、ちょうど冒険から帰ってきたミーナやクレア、フレンたちと遭遇そうぐうした。


 ギルマスもいたけど、ギョっとした顔をしていたな。

 まあ、そりゃあ一番偉い人がいきなり来たら……ねえ?

 本人偉さの欠片もないけど。


「この人たちがあたしらの後輩?」

「そういうこと。ヒマな時に色々教えてやってくれよ」


「で、例の職業ジョブ持ちは見つかったの?」

「ああ、運よく1人だけ」

「良かったぁ……アレ美味しかったからさあ。好きな時に食べられないとか拷問ごうもんだよぉ」


 ああ、本当に良かったよ。

 アレが量産できる可能性があるのは、あの職業だけだもんなあ。


「で、誰がその人なわけ?」

「彼だよ。あの気弱そうな男」

「彼が――」


 ああ、彼が俺たちが探していた――


死霊術師ネクロマンサーだ」





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 《あとがき》

 ネクロマンサーって料理とか得意そうなイメージ。

 インドアで一人暮らしって感じなので料理とかやりそう。


 《旧Twitter》

 https://twitter.com/USouhei


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