第37話 業務報告と新事業の立ち上げ

「そうか、なるほど。前領主りょうしゅサンブリー伯爵はくしゃくはそんなことを――」


 俺の話を聞いた王様は提出ていしゅつされた書類を見比べ、口ごもった。

 今、俺は王都に来ている。

 領主として業務報告ぎょうむほうこくを行い、手が足りていない部分の支援しえんをしてもらうためだ。


直轄地ちょっかつち街道かいどう封鎖ふうさ、住民への重税じゅうぜいに強制労働、徹底てっていした身分差別に理不尽な暴力、か。クーデターの他にもこれだけのことをしていたとは……」


「その影響えいきょうで領内の他の街はともかく、サンブリーの街は酷いものです。就任しゅうにん後、即強制労働と重税の撤廃てっぱいを行いました。住民たちにはしっかりと休みを取ってもらいつつ、街の復興ふっこう事業に当たってもらっていますが、何分なにぶんやることが多いわりに人手が足りず……」


 住民たちの住居じゅうきょ修復しゅうふく

 とりでから街までの道路の舗装ほそう


 継続けいぞく的な国境付近への警戒けいかい

 領内ダンジョンの管理。


 食糧問題による栄養不足に人口問題。

 他多数――、


 街系シミュレーションゲームで起こる問題ほぼ網羅もうらしてるじゃねーか。

 前伯爵、欲望のままに突っ走りすぎだろ。

 まともな人間ならゲーム実況の企画でもない限り、こんな経営絶対しねーぞ。


私財しざいを使って、何とか食糧問題と栄養不足は解消できましたが、他はまだまだ……正直ほぼ手付かずです。なので、王都から少しでいいので人員を派遣はけんしていただきたく……」


「わかった。そのような問題が起こっているのも、元をたどれば伯爵のたくらみに気づけなかった余の不徳ふとくいたすところ。すぐに騎士団を派遣しよう。住居のほうもまかせるがいい。建設ギルドに国王からの依頼として仕事を回そう」

「ありがとうございます!」


 よかった……これで停滞中の面倒ことが一気に片付くぞ。

 自分たちの食い扶持ぶちを作ってもらいながらやってもらっているから、さすがに時間がかかってしょうがなかったしな。


 国の公共事業としてやってもらえるからふところも痛まない。

 本当にいろいろ助かった。助かったんだけど……


「ところで王様」

「む? 何だカイトよ?」

「カレー食いながらの仕事は止めませんか? 服や書類がよごれますよ?」


 この王様、今までの真剣な一連のやり取り、全てカレーを食いながら行っている。

 好きなのはわかるしちょっと嬉しいけど、一国の指導者としてそれはどうなんだろうか?


「ははっ、すまん。久しぶりにカレーが食せると思ったら我慢がまんができなくてな」

「気に入ってもらえて嬉しいですけど、そんなに好きなんですか……」


「うむ。できることなら1日3食、毎回食したいと思っておる」

「止めてください。栄養かたよります」


 肉と野菜がふんだんに使われているため、カレーは栄養豊富な上にバランスはいいけど、さすがに毎日3食同じものを食うのは身体に悪い。

 カレーのレシピでも渡そうかと思っていたけどハマり具合がすごいし、今回は見送ろう。


「ところでカイトよ、私財を投じた食糧問題はともかく、栄養問題はどうやって解決したのだ? 報告書にある通りならばろくに食料がもらえず、住民たちはやせ細っていたのではないか?」


「ああ、その問題を一気に解決してくれる丁度いい魔物がいましてね。その魔物のおかげで今や街の住人は元気いっぱいでおはだつやつやですよ」


「おお、そんな魔物が! 実に興味きょうみ深い。して、その魔物は?」

「ウォータースネークです。街近くを流れる川で大繁殖だいはんしょくしています」


「ウォータースネークだと!? あの気持ち悪い魔物が……相変わらずお主の料理は余の常識のはる彼方かなたを行くな」

「恐れ入ります」


 まあ、ただ知っているだけなんだけどな。

 異世界の食文化はまだまだ発展途上。

 飽食ほうしょくの時代をむかえて発展し続けてきた、地球における先進国の料理は未知の物にうつって当然だ。


「余も食してみたいのだが……どうだろう?」

「そう言うと思って弁当を作ってきました。料理番に渡しておきますので、夕食時にでもお召し上がりください」


 ……

 …………

 ………………


「さて、とりあえずやることの片方は終わったな」


 王城を出た俺は、次の目的地を目指し大通りを歩く。

 目的地はこの国の冒険者ギルド本部だ。


 ここのところのドタバタで忙しかった中、思いついたアイデアを実行するための人員が欲しい。

 ギルマスに頼んですでに話を通してもらっているので、すんなり事は運ぶだろう。

 何せ、人は美味いものには逆らえないのだから。


「ふむ、お前さんがカイトかね? シュトルテハイムのやつの話にあった」

「シュトルテ――ああ、はい、そうです。俺がカイトです」


 ギルド本部到着後、通された部屋にいたのは眼光がんこうするどい幼女だった。

 この幼女が冒険者ギルドの頂点か……。


 見た目は幼女だけど絶対にただ者ではない。

 身にまとう雰囲気、そして何より、ギルマスの本名をちゃんと覚えているっぽいところ……油断していい相手ではなさそうだ。


「ふむ? 初対面なのにわしの姿を見ても態度たいどくずさんとはのう」

「見た目はどうあれ、冒険者ギルドのトップに失礼な態度なんて取れませんよ。それに、どうせ見た目通りの年齢ではないでしょうから」


「お主、魔法のない異世界の人間のくせになかなかやるのう。たしかにこの姿はわし本来の姿ではない。本来のわしは背なんかスラリと高くて、チチもケツもバイーンとなってて、腰なんかもキュッとくびれた美の化身けしんじゃ」


「嘘つくなよロリババア。初対面だからってハッタリかましまくるとか、いいとしした大人がみっともないと思わねえのかよ?」

「いきなり無礼ぶれいになりおったな!」


 いや、だって明らかに見栄みえ張った嘘にイラっときちゃって。

 多くの人のトップに立つ人間がそんなくだらない嘘をつくのがよって思っちゃったら、つい。


「失礼しました合法ロリ。あまりに小さな見栄と小物ムーブで思わず本音が。お許しください」

「許すと思う? ねえ、そんな風にあやまられて許すと思う?」


「許していただけるようなうつわの大きな女性だと思います。何せ、冒険者ギルドのトップに立つ御方おかたですから。きっと器だけじゃなくて、おっぱいもケツもデカいんだろうなあ」

「ん? そう? そう思ってくれるかや? なら許す」


「ありがとうございます。ではこのクッキーをあげましょう」

「わーい♪」


 本部のギルドマスター、ちょろい。


「ってこのクッキー美味ええええええぇぇぇっ!? 何!? 何なのこのクッキー!? 味も濃厚のうこうじゃけど魔力も濃厚、一気に魔力が回復したんじゃが!?」


「用事はすでに聞いていると思いますので手短にいきます。うちの領内で仕事をしてくれる人員が欲しいので、ここの1階と訓練場使って募集ぼしゅうさせてください。あと、お金かせぎたいんで弁当販売させてください」


「え? スルー? わしの質問完全になかったことにされてる?」

「いいよって言ってくれたらクッキーもう1個あげます」


「いいよ」

「ありがとうございます。クッキーだけじゃなく、おまけの骨煎餅ほねせんべいもあげましょう」


「やったぁ♥ ってこっちも美味ああああぁぁぁっ!? カリカリ食感の中に染みる甘じょっぱいタレと独特どくとくの何とも言えん味が舌の上でドッカンバトルじゃ! ねえこれ何!? 何なの!? どうやって作っているの――ってもういないんじゃけど!?」


 本部のギルマス直々じきじきに許可ももらったし、早速さっそく始めようか。

 俺は1階にある大広間、酒場けん受付の横で弁当屋を始めた。


 メニューはウォータースネークのうなどん肝吸きもすいだ。

 この日のために領内の人たちに、使い捨ての木の器を作ってもらい、万全ばんぜんの体制でいどむ。


「お、弁当屋か。兄ちゃん、いくらだ?」

「はい、こちらの丼とお吸い物のセットで銀貨1枚となっております」


「銀貨1枚だぁ!? 昼飯にそれは高すぎねぇか? 払えねえ金額じゃねえが……」

「もしお口に合わなければ全額ぜんがくお返ししますよ」


「ふうん、そこまで言うならちょっと食ってみるか。ほい、銀貨1枚」

「ありがとうございます!」


 代金を受け取り弁当を渡した。

 物珍ものめずらしい弁当屋とのやり取りを周囲しゅういが見守る中、その冒険者は食べた。


「ぐっはああああああぁぁぁぁっ!?」

「お、何だ何だ!?」

「弁当食ってぶっ倒れたぞ?」

「ははっ、そんなに不味かったのかこの弁当?」


「ち、違う……逆だ。吹っ飛ぶくらい美味かったんだ……何だこれは!? こんな美味い物生まれてこの方、今の今まで食ったことねえぞ!?」


 予想通りの反応だ。

 この場の冒険者全員が見守る中、実に良い反応リアクションを見せてくれる。


「そんなに美味いのか?」

「ちょっと高いけど興味あるな」

「な、なあ兄ちゃん、これマジで銀貨1枚でいいのか?」


「ええ、もちろん。ちょっとお高いですが」

「っしゃああ! じゃあ追加であと10個くれ! 腹いっぱい食ってやるぜぇ!」


「お、俺も!」

「俺にもくれ!」

「あたしにも! お腹減ってるから3個!」

「こっちは5個だ!」


 フハハハハ! 人! 人! 人! 人の山だ!

 やり取りを見ていた冒険者たちがイナゴの大群たいぐんのようにむらががってきおるわ!

 全員捕まえて食らってくれる!


 ……

 …………

 ………………


「えー、とう弁当屋ですが大変ご好評につき販売を終了させていただきます。ありがとうございました」


 最初の客から30分もしないうちに弁当は売り切れた。


 冒険者って結構食うだろうからかなりの量を用意してきたのに、まさかこんな短時間で売り切れるとは……。

 値段高めに設定したのに、正直ちょっと予想外だったな。


「え? もう売り切れ!?」

「チクショウ! まだ食いたかったのに!」


「俺なんて食いそこねたんだぞ! 我慢しろよ!」

「誰かキープしてるやつ売ってくれ! 銀貨2枚で買うぞ!」


 はいはーい、転売はご遠慮えんりょください。

 それされると市場経済がボロボロになっちゃうからね。


 食いたかったらまたの機会にどうぞ。

 そのまたの機会はすぐに用意させていただきますので。


「えー、当弁当屋では現在社員を募集しております。給料はそこそこですが、まかないは3食出ます。興味のある方はこの後、外の訓練場にお越しください。皆さんのご応募、お待ちしています」





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 《あとがき》

 転売、ダメゼッタイ。


 《旧Twitter》

 https://twitter.com/USouhei


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