第28話 王都ミキチファ

「何で俺たちこんなとこにいるんだろうな?」

「……何でだろうね? あたし緊張きんちょうしてトイレ行きたくなってきたんだけど……」

「ボクも……まさかこうなるとは思いませんでした」


 あの脱出劇だっしゅつげきから1週間後――

 全てが終わり、無事日常を取り戻した俺たちは王様に呼び出しを食らっていた。


 店で常連たちと談笑だんしょうしつつ、今回の冒険で手に入れた様々な食材を使って新メニューの開発をしていた矢先やさきに大量の兵士が流れ込んできてこのありさまである。


 一緒に護送ごそうされているセシルの方も似たような状況だったらしく、昼のおつとめ中に拉致らちられたらしい。

 平和な日常を返してくれ。


「……なあ、王様に何言われると思う?」

「さあ? でも、わざわざこーんな厳重げんじゅう警備けいびつきで王都に護送されるくらいだし、絶対ロクなことじゃないと思うんだけど……」


「やっぱりアレか? 貴重な生きた古代遺跡を爆破したのが不味かったのかな?」

「で、でもアレは仕方なくないですか? 放置していたら今頃この国はクーデター起きていましたし、王都なんて火の海ですよ?」

「甘いわセシル。世の中にはね「それはそれ、これはこれ」っていう言葉があるの。結局クーデターは起きなかった、つまり何も起きていないのと同じこと」


「結果的に見れば貴重きちょうな古代遺跡を爆破したという事実だけが残っている。軍備ぐんび増強ぞうきょうに使えそうなものを跡形あとかたもなく壊したんだから、下手すりゃテロリストあつかいだな俺たち……」

「そんなぁ……テロリストは向こうなのに」


 その辺をいかに伝えるかが、今回のポイントじゃないだろうか?

 俺たちが無罪むざい放免ほうめんを勝ち取るためには、不可抗力ふかこうりょくの事実と国家防衛こっかぼうえいの意思――この2点を王様にアピールすることが重要だと俺は考える。


「全く、無事帰ってきて店の厨房ちゅうぼうに立って、新メニュー開発していた矢先にこれだ。マジで勘弁かんべんしてくれよ……また一人で店回すことになってクレアの奴泣いてたぞ」

「あたしらの冒険者ランクの昇格祝いする予定だったのにさあ……これだから貴族は。庶民しょみん都合つごうを全然考えないんだもんな。空気読めよ王様」

「あ、二人ともランク上がったんですね。おめでとうございます」


 そうそう、ミーナの言う通り今回のことで、俺たちの冒険者ランクが上がったのだ。

 ちなみに俺がAでミーナがB。

 依頼された三つの原因を特定して解決にみちびいたこと、ミーナを無事保護できたこと、そしてクーデターを未然に防いでその一味をとららえたことから昇進。


 ギルマスは当初約束していたAではなく、最高位であるSを申請しようとしたらしいけど、俺が強引に取り下げた。

 何度も言うように、そもそも俺は身分証明のために冒険者になったのであって、冒険して名を残そうと思っているわけじゃない。

 名を残すのなら料理人として残したいので、面倒なことをいろいろと押し付けられそうな最高ランクはつつしんで辞退したというわけだ。


「ありがとセシル。でも、上がったランク活かせるかな……?」

「冒険出る前に法廷ほうてい出そうな状況だもんな。牢屋ろうやぶち込まれるようなことになったら期待していい?」

「オッケー。その時はこの国捨てて逃げよっか」


「せっかく手に入れた夢の城自分の店や、ここで知り合った人たちとのえんが切れるのは惜しいけど、命には変えられないもんな。そうなったらどこ行く?」

「ローソニアでいいんじゃない? 敵国ならそう簡単に手出しできないっしょ」

「2人とも……素直に服役ふくえきする気ゼロですね」


 当たり前だ。

 こっちは悪いことなんて何一つしてないんだから。(個人の意見です)

 後ろめたいことは何一つしてないのに罪に問われたら、そんなの素直にしたがえるわけないっつーの。


「あ、2人とも、王都が見えてきましたよ」


 セシルの言葉で、俺たちは窓の外を見る。

 鉄格子てつごうし付きのせまい窓からのぞくのは巨大な城塞じょうさい

 俺たちの拠点きょてんであるサンクトクルスの倍はあろうかという城塞を、風車の様に大通りで区切ったその中心に城がある。


「王都ミチキファ……どうせ来るなら観光で来たかったわ」

「俺も。どうせ来るならこんな護送されてじゃなくて、2号店出店のために来たかった……」


 見た感じ、サンクトクルスの2倍から3倍は人口いそうだもんな。

 あそこで俺の料理を流行はやらせたら、一体どんだけ店は繁盛はんじょうするだろう?

 どんな食材が見つかって、どんな新しいメニューが開発できるだろう?


「はぁ……料理作りてぇ。サンクトクルスから3日間、何も作ってねえよ……」

「あ、なら今作ってもらえませんか? ボクお腹空いてきちゃって……」

「できるわけないでしょ。あたしら馬車乗る前に袋は取り上げられちゃったんだから」


 3日間も何も作らないとか、料理の腕が落ちてしまう。

 あー、早く思いっきり料理がしたい。


 ……

 …………

 ………………


 その会話から2時間後――

 馬車の中で入国審査を終えた俺たちは王城に連行れんこうされた。

 謁見の間でもう10分ほど待たされている。


 周りにはなんかえらそうな感じの人たちがおり、彼らを守るために鎧をまとった騎士が整列している。

 入ってきた大扉おおとびらの前にもしっかりと配置されており、警備体制は万全ばんぜんのようだ。

 これは、逃げられそうもない。


「王の御前ごぜんである! 一同、こうべれよ!」


 この場の誰かがそう声を上げた。

 細かい礼儀作法れいぎさほうはわからないので、適当にそれっぽくひざまずいて頭を下げる。


「一同、おもてを上げよ。みな楽にしてくれ」


 少しの後、王様からの許しが出たので顔を上げる。

 声のトーンから何となくさっしてはいたが、マトファミアの王様は思っていたよりも若かった。


 見た目年齢30代前半と言ったところか。

 俺をこの世界に追放した店長くらいの年齢に見える。


「さてその方たち、何故なぜこうして呼び出されたかはわかっているな?」


 ええ、まあ……。

 わざわざ護送つきで呼び出される理由なんて一つしかないし。

 とりあえず質問されているので挙手きょしゅ


「王様、発言しても?」

「うむ、許可しよう」


「どう考えても先日の古代遺跡爆破の件ですよね……でもアレにはやむを得ない事情があったんですよ」

「そ、そうです王様! サンブリー伯爵はくしゃくはすでに実験を終えて戦争する気満々でしたもん! あたしらが計画ごと遺跡を爆破しなかったら今頃王都は火の海ですよ!」

「そ、そうです! ボクらは伯爵が早朝クーデターを起こすとハッキリこの耳で聞きました! 止めるためには爆破しかなかったんです!」


「たった3人で軍隊を正面から相手取るなんてできません。だから、俺たちは仕方なくこっそり遺跡ごと爆破という選択をですね……」

「悪いのはあたしたちじゃありません! そうせざるを得ない状況を作ったサンブリー伯爵です!」

「ボクたちは無実です!」

「俺たちと伯爵、本当の悪はどちらなのか、聡明そうめいなる王様ならきっとご理解されていますよね……?」


 悪いのは伯爵。

 俺たちは悪くない。

 とにかく必死にアピールした。


「うむ、もちろんだ。事の詳細しょうさいについてはサンクトクルス支部の冒険者ギルドマスターより報告が上がっておる。それに加え、お前たちがとららえたシジョウという暗殺者、奴からも証言は取れている。悪はサンブリー伯爵であり、お前たちではない。安心してくれ。余はお前たちを罰しようなどとは考えておらん」

「「「ホッ……」」」


 王様のこの発言により、俺たちの不安は取りのぞかれた。

 いやあ、一時はどうなることかと思ったぜ。

 護送中の馬車の中では本気で国外逃亡を考えていたもんなあ。


「むしろ国の一大事いちだいじ未然みぜんに防いでくれた英雄だと考えておる。だからその功績こうせきむくいるために何か褒美ほうびをと考え、こうして呼び出したのだが……すまぬ、どうも勘違いさせてしまったようだな」


 護送用の馬車を使ったのは不味かったか――と、あごを触りながらつぶやく王様。


 ――不味いに決まってんだろ。

 ――犯罪者連れてくるやつだぞアレ。

 ――やっぱ貴族や王族は人の心がわかってねえな。


 俺たちは心の中でそう思ったが、決して口には出さなかった。


「カイト、ミーナ、そしてセシルよ。この度はクーデターを未然に防いでくれて心より感謝する。一同、この3人の英雄に感謝を!」


 王様が頭を垂れたと同時に、周囲もそれにしたがった。

 罪人あつかいされるのは嫌だが、英雄扱いは、なんか、こう、れるな。


「早速だが褒美を取らせようと思う。セシルよ、そなたは確か修行中の修道女シスターだったな?」

「は、はい!」

「教会に働きかけ、司教しきょうの身分を与えようと思う。赴任ふにん先の候補こうほ地から好きな場所を選んでほしい。できるだけ希望に沿えるよう、余自らが交渉しよう」

「あ、ありがとうございます!」


「ミーナよ、冒険者のそなたには仕事に役立つものをと思ったのだが、そなたの持っている光の矢以上のものはわが城にはない。何か希望はないだろうか?」

「えーと、じゃあ家をください。できればすっごい豪勢ごうせいなやつを。あたし、冒険者で成功して豪邸ごうていに住むのが夢だったんです。故郷こきょうを滅ぼされて以来、ずっと仮住かりずまいだったから」

「わかった。できるだけそなたの希望に沿うものを与えよう。希望する都市などがあったら遠慮なく申し出るがいい」

「やったーっ! 王様大好き! ありがとう!」


「そしてカイトよ、そなたにはサンブリー辺境伯へんきょうはくの領地と、その経営権を与えようと思う」

「あの、王様……それってもしかして?」

「うむ。空席となったサンブリー領の領主の地位を与えるということだ」

「つまり、俺に貴族になれと?」

「やったじゃんカイト!」

「すごい! 平民から貴族になるなんて数十年ぶりの快挙かいきょですよ!」

「今回の英雄的行動における中心人物だったと聞いている。そんな英雄に相応ふさわしい褒美だと思うのだが……どうだろう?」

「うーん……」


 貴族になる、か。

 ネット小説でありがちな展開だな。

 貴族になれば当然身分の保証はされるわけだし、税収ぜいしゅうなどの様々なメリットがあるし、何より自分の領地を好きに経営できる。


 つまり、今まで以上にクソデカい店舗てんぽを手に入れるようなものに等しい。

 今まで地方の一店舗でしかなかった店が、他の地方に多数出店するようなもの。

 魔物料理を流行らせたい俺としては、これ以上なくデカいメリットがあると言える。


 だが、反対にこの褒美にはデメリットもかなりひそんでいる。

 領主になれば当然住民の陳情ちんじょうなんかも聞かなきゃいけないし、国境くにざかいの辺境にあるため国防や治安維持を気にしなければならなくなってしまう。

 そうなったら料理をするヒマなんて果たしてできるのだろうか?


「うーん……貴族か」

「どうした? もしや不満なのか?」

「いえ、不満というより不安が……俺、領地経営とか素人しろうとですし。マナーを含めた貴族の義務全般とかわからないし、何より俺って料理人なんですよ。領地経営に追われて料理を作れなくなるのが嫌なんですよね……」

「領地経営を含めた諸々もろもろは人をやとえば解決できよう。まあ、全て人任せにして欲しくはないというのが本音ではあるが……」

「そうなると、やっぱり料理の時間はけずられちゃいますよね……」


 料理の時間を削って店舗拡大を取るか?

 それとも店舗拡大をあきらめて料理の時間をキープするか?


 正直この提案をるのは惜しい。

 俺の料理をもっと流行らせたい!

 でもメンドくさいこともセットでくっついてくる!


 料理時間が無くなるわけじゃないので、許容きょようできなくもないデメリットではある。

 デメリット込みでみ込むには、あと一押ひとおし何か欲しいところだけど…………そうだ!


「王様、俺への褒美、もう一つだけ追加させてもらえないでしょうか?」

「何? もう一つ? はっはっは、現金な奴だなお前は! 王を前にしてさらに要求とはきもわっておる! いいだろう! 申してみよ!」

「ありがとうございます。では、遠慮なく――」


 俺は追加報酬ほうしゅうを口にした。

 俺の料理を流行らせるための、最大級の報酬を。


「王様、夕飯まだですよね? ここにいる大臣だいじんや騎士の人たちも。この場にいる人たち全員の夕飯を俺に作らせてください」


 それが、俺が貴族になる条件です。




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 《あとがき》

 流行らせるにはインフルエンサーの意識改革が手っ取り早いですよね。

 次回、王様のディナーで冒険者編終了です。

 終了と言っても自分で冒険出たりするとは思いますが。

 だって食材の価値他の人初見じゃわからないし。


 《旧Twitter》

 https://twitter.com/USouhei


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