第14話 新メニュー開発

「がっはっは! やってくれたなカイト! プロジェクトは大成功だ!」


クレアの加入と味への覚醒かくせいもあり、俺とギルマスのたくらみは成就じょうじゅした。

以前までは、ギルドの支給品といえば、商人ギルドから購入した安物の回復ポーションとマジックポーションが一人一本だったのだが、プロジェクトが本格始動しどうしてからは、味付きのスライムゼリーかマジックポーションを選べるようになった。


素材の公表をしていることもあり、多くの冒険者は現状忌避感きひかんを示しているが、それも時間が解決してくれるだろう。

ギルマスにお願いして、ギルドスタッフも希望すれば一日一個、好きなフレーバーのスライムゼリーを食べていいということにしているからな。


ただし、食べる場所は受付カウンターの中限定。

こうすることで、食べても問題ない&もしかして美味いのかも?――というみを行うのだ。


冒険者とは好奇心旺盛おうせいな連中だ。

こうやって誰かが先に挑戦して、大丈夫そうなら自分も――という考えに誘導ゆうどうするわけだ。


現状食べているのはギルマスを含めた俺の店の常連の人たちだけだが、すでに職員を含めて興味を持ったやつが出てきているのを確認している。

ギルド内でスライムゼリーが流行はやるのもそう遠い未来の話ではないだろう。


「そのうちポーションがゼリーに完全に移行するだろうな。何せ、ポーションに比べてゼリーの方が単価が安い。その上美味いし効果も高いときている」

「見せつけるようにカウンター内で食べさせるのも効果出ていそうですね。興味を示している冒険者は今日見ただけでも5人はいました。その5人が味を広め、10人20人と増えてくれることを期待しますよ」

「そうなったらお前の店も安泰あんたいだな。冒険者に味付きは支給しないから、欲しい奴は毎日でも通うだろうさ」

「あ、でも懸念点けねんてんが一つだけ。もしそうなった場合、今まで支給していたポーション類はどうなります?」

「そうなったら完全に取引停止だろうな。商人ギルドと多少仲はギクシャクするだろうが、向こうも商売だと割り切るだろうよ。もっと流行って流通りゅうつうに乗せる時にでも一口噛ませてやれば問題ねえさ」


そうか、それなら安心かな。

俺たちがやったことは今までの仕組しくみを一つ、大きく変えてしまうことだからその辺を心配していたけれども、大きな問題にならないならばそれでいい。


「これでお前の店も軌道きどうに乗るな。お疲れさん」

「いや、まだですね」

「ほう?」

「このまま味が広がっていけば確かに繁盛はんじょうはするでしょうけど、俺の店はあくまでレストランであってゼリー屋じゃない」


そもそもゼリーは一部には元々ウケていた。

ゼリーだけで十分すぎるほどのもうけが出るようになったのは嬉しいけど、やはりそれだけでは満足できない。


「俺は料理人ですからね。ゼリーだけでなく、いろんな俺の料理を味わってほしい」

「ふむ、でもそれはなかなか難しいだろうな。食える魔物は美味いが、美味いほど値段が高くなる。今のところ強ければ強いほど美味い傾向けいこうにあるからな。スライムみたいにウチで協力してやることもできん」

「そうなんですよねぇ……」


美味い! 安い! おまけに回復!――みたいな条件がそろうものなんて滅多めったにない。

そういう条件を満たす魔物をもっと探して、安価に提供できるようにするのが当面の目標である。


「ギルマス、Dランクくらいでも狩れるような弱い魔物討伐依頼とうばついらい、何かありませんか?」

「ふむ、そういう条件ならこんなもんだな」


・ジャイアントレッグの駆除くじょ。(大量発生につき3名から)

・アイアンスコーピオンの討伐。(Cランク=3名から、Dランク=5名から)

・ウォッチャーの討伐、(2名から)

・ゴーストの除霊(除霊スキル持ちの者限定)

:ホブゴブリンの討伐(手下を従えている可能性あり。Dランク四名以上)


「うーん、他は? 討伐じゃなくて調査とかでもいいので」

「調査ぁ? そんなのそうそう……あ、一個あったわ」


・畑が一夜にして無くなってしまった。原因を探してほしい。(受注条件なし。解決者のみ報酬アリ)


「一晩で畑が? そんなことあるんですか?」

「あるからこうして依頼がきてるんだろ」

「まあ、そりゃそうか」


冒険者に依頼するのもタダじゃないからな。

報酬とは別に依頼料が発生するし、イタズラというわけでもないだろう。


「正直、ギルドマスターとしては、お前にはもうちょい難しい仕事をしてもらいたいんだけどな」

「例えば?」

「これだな。教会のおえらいさんからの直接依頼だ。ここから二日ほど西に行ったところにあるミレニアっていう街の近くで、アンデッドが大量発生しているらしい」

「アンデッドが?」


アンデッドと言われて思い浮かぶのはスケルトンとかゾンビとか、そういうくさった系の魔物だ。

衛生えいせい心掛こころがけなければいけない料理人としては、あまり関わりたくない魔物である。


「今んとこそれはパスで。メシをあつかう者としては、正直関わりたくないです」

「だよな。まあ、こっちは他の奴に回しておくよ。で、どれにする?」

「そうだなあ……」


……

…………

………………


「ただいまー」

「あ、カイトさんお帰りなさい」

「ピピィ!」

「あれ? 今日はいつもよりほんの少しだけ客多くない?」


話し合いを終えて店に帰ったら、常連に混じって見慣れない顔もちらほら見える。

ふふふ……早速効果が現れてきているな、これは。

みんな良いリアクション芸を披露ひろうしつつ、夢中でゼリーを食っておられる。


「思ったよりみなさん一口目が速かったです」

「ギルド職員が食っているのを見ているから、そのせいもあるだろうな。あ、そろそろ休憩入っていいぞ」

「はーい、お先休憩入ります」


クレアはエプロンを外すと、カウンターのはしに座った。


「何味にする?」

「んー、桃でお願いします」

「はいよ」


注文を受けた俺は、クレアの収納袋から桃味のスライムゼリーを取り出し皿に乗せた。

巨大化したスーちゃんに食わせた桃がダイレクトに消化された一番味の濃いであろう部分である。

従業員への福利厚生ふくりこうせいだ。


「んーっ♪ 美味っしいですっ! ホント、何でスライムってこんなに美味しいんでしょうね? こんな美味しいものを今まで気持ち悪いとか言っていた自分は本当に大バカですねっ! 口に入れた時の上品な口当たりといい、舌の上でとろける食感といい、間違いなく最高のデザートですよ!」

「スーちゃんみたいな普通のスライムじゃなくて、成長したでっかいスライムだともっと美味いぞ。白甘草しろあまくさを喰い荒らしていたでかいやつは、ゼリーそのものにものすごい甘みがあった。アレはマジでやばいくらい美味かったなあ……」

「本当ですか!? 明日から大きいやつを探してみますっ!」

「いや、大きいのはそれ相応に強いからまだ止めとけ。っていうか、明日はスライム狩り行かなくていいぞ。その代わりに一緒に来て欲しいところがあるんだ」

「ど、どこでしょう……?」


別の場所に行くと言った瞬間、クレアの顔が強張こわばった。

通いなれたところ以外に行くのはまだ怖いのかもしれない。


まあ、気持ちはわからないでもないが、そうも言っていられない。

何せ、この仕事はこの店がゼリー屋で終わるのかレストランになるのかの分水嶺ぶんすいれいなのだから。

従業員である以上、一緒に来てもらう。


「その前に紹介したい人たちがいるんだ。おーい、入ってくれ」

「あいよー、正直待ちくたびれたぜ」

「ホントホント。クエスト上がりだし私もうお腹ペコペコ」

「僕も。美味しいのを期待してるよ」

「あの……この人たちは?」

「同じギルドの冒険者仲間だよ。この店の常連客でもあるんだけど、クレアとは初めてだったよな」


俺がまねき入れたのはあの三人組だ。

俺がこの世界に来て最初に出会った異世界人で、気のいい冒険者たちである。


「俺はフレンでこっちがシズ。で、そっちの細いのがライルってんだ。よろしくな」

「は、はあ……よろしくお願いします」

「カイトから話は聞いたわ。スライムの魔物使いテイマーなんですって?」

「あ、はい。そうなんです」

「くぅぅ~っ! いいなあ! いつでもスライム食べ放題じゃないか!」

「テイムした魔物以外は街に入れないってのが辛いわよね」

「そうだよなー、もっとオープンにすりゃいいのに」

「そ、そしたら治安ちあんがまずいのでは……?」

「あ、そっか。そういやそうだわ。はっはっは!」


陽キャの三人組に目を白黒させつつも、クレアはどこか楽しそうだ。

自分の職業ジョブが「うらやましい」と、価値を見出みいだしてくれているのが嬉しいのだろう。


「みんな、飯はカレーでいいか? 頼みを聞いてくれたからおごるけど」

「マジでか!? あのクッソ高くて手が出なかったあのカレー!?」

「もちろんいいに決まってるわ!」

「さあ、早くテーブルに! さあさあさあ!」

「み、みなさん目の色が変わりましたね……」

「そりゃ、一杯銀貨20枚だからなあ」

「銀貨20枚!? 私の給料二日分!?」

「いい機会だしクレアも食っとけ。店の味を知るのもお前さんの仕事だ」


俺を含めて五人前、アッツアツのカレーをサーブする。

久々のサーブに、オークベアの肉も心なしか喜んでいるように見える。


「ばああああああああああっっっっ! こ、この味は!? この味わあああぁぁぁぁっ!?」

「何て表現したらいいかわからないわ! 複雑な旨味と辛み……それが野菜や肉と絡み合って最上級のオーケストラを口の中でかなでているの! ああっ! 私、舌がどうにかなっちゃいそう! ねえ、私の舌溶けてない? 溶けてないわよね?」 

「これ何の肉!? かゆっ! うまっ! ああああぁぁぁぁっ! 噛むたびに脳がやられてく! 美味いとしか考えられなくなるよ!」

「しゅげえええぇぇぇぇっ! この料理しゅげええぇぇぇぇっ! スーちゃんのゼリーより何百倍も美味ええぇぇぇっ!」


みんな夢中になって食っているな。

カレーの魅力みりょくあらがえる人間なんてどの世界にも存在しないもんさ。

カレー万歳ばんざい、カレー最強。


「カイト、こんな美味いもん食わせてもらっていいのかよ!?」

「もちろんだ。みんなには世話になったしな」


右も左もわからなかったあの頃、面倒を見てくれた恩を俺は忘れない。


「それに、そうやって美味そうに食ってくれるだけで味の宣伝にもなる」


少なくとも、今日いる客はカレーのことが気になって気になって仕方がなくなるだろう。

スライムゼリーの何百倍も美味いと言われたら、銀貨20枚を払ってまで食いたいと思う人間はきっと出てくるはずだ。


「ホント、あの時カイトを助けてよかったわね」

「これを味わえるなら、新人の一人や二人の面倒を見るのなんてお安い御用ごようだよ」

「え? あの……新人の面倒って? どういうことですか?」

「そのまんまの意味だよ。クレア、明日からお前さんは俺を含めたこの三人と一緒に、五人でひと仕事しに遠出するんだ」

「と、遠出ですか? わ、わかりました……それで、その……何をするんでしょうか?」

「討伐」

「討伐!? ち、ちなみに何を……?」

「それはもちろん」


――アイアンスコーピオンだ。




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《あとがき》

レッツパーティプレイ!

新メニュー開発の探求はあの三人組と一緒です!

彼らとの冒険をお楽しみください!


《旧Twitter》

https://twitter.com/USouhei


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