第5話 初仕事

「っしゃー! 今日から本格的ほんかくてきな異世界生活がスタートだ! 帰る手がかりを探して頑張がんばるか!」


 翌日――俺は冒険者となってから初の朝をむかえてちょっとだけテンションが上がっていた。

 異世界に冒険者、男の子の心をくすぐるであろうワードが二つ。

 テンションが上がらないわけがない。

 まあ、こんな形で異世界も冒険者も経験したくはなかったというのが正直なところだけど。


「とりあえず飯にしようか」


 俺は部屋を出て一階に降りる。

 俺が利用している宿泊所しゅくはくじょ――《黎明れいめい獅子しし》は商人ギルドが運営する、冒険者専用の簡易かんい宿泊所だ。

 銅貨どうか30枚、もしくは簡単な仕事を手伝えば一泊二食付きで泊めてもらえるせいか、金のない冒険者に重宝ちょうほうされているらしい。


「人おおっ! 冒険者ってかせげないのか?」


 俺のイメージする冒険者というのは、危険をおかしてその見返りに莫大ばくだいな財宝を手にする職業なのだが、いざ現実になるとやっぱりこんなものなのかもしれない。

 そりゃ命と金を天秤てんびんにかけたら、ほとんどの場合は命を取るよな。


「まあ俺は帰る手がかり探すのがメインだし、そこまで稼ぐ必要はないか」


 何事も命あっての物種ものだねだ。

 その大事な命をつなぐために、かてをもらうための列に並ぶ。


「これが……異世界のオーソドックスな朝食?」


 配給された朝食を見て俺は愕然がくぜんとした。

 小さな固いパンに、明らかに昨晩の残りであろう魚の切り身。

 そして味がわからないほどっすい野菜スープ。

 ……食事めてんのか?


「こんなんでいい仕事なんてできるか! 抗議こうぎしてやる!」

「止めときなって。そんなことしたらここ追い出されるよ?」

「ぬ?」


 文句を言うために席を立とうとしたところ、隣の女冒険者に止められた。

 年のころは俺と同じで二十歳はたちくらい。

 金髪でショートカットのかわいい系女子だ。

 この施設しせつ、男女共用なのかよ。

 間違いが起こったらどうするつもりだ?


「ここ利用するってことは金ないんだろ? だったらこれくらい我慢がまんしなよ。銅貨30枚とかいうタダ同然どうぜんで食わせてもらってんだ、文句言うのは筋違すじちがいだと思わない?」

「……たしかに」


 それもそうだ。

 日本円にして三百円程度ていど寝床ねどこ付きで食える内容と考えれば妥当なところだ。

 料理人(バイト)の血が少しばかりさわいでしまったな。


「あたしはミーナ、駆け出しの斥候スカウトさ。ランクはE。よろしく」

「俺はカイト。昨日入ったばかりでランクはFだ。職業ジョブは――」

「知ってる。食客しょっかくだろ? ずいぶんと変わった職業を与えられちまったもんだね」

「どうしてそれを?」

「あたしもあの場にいたんだよ。いやあ、正直スカッとした! あの新人イビりども、あたしが完了報告かんりょうほうこくに来るたびに酒の相手しろだの、話し相手になれだの、何かと理由をつけてからんできたからね」

「ああ、やっぱそういうことやってたんだあいつら」


 立場を利用してのパワハラは、俺たちの世界でも最も嫌われることのひとつだ。

 そんなやから成敗せいばいされたらそりゃスカッとするに違いない。


「そんだけじゃないよ。前衛や中衛の女冒険者は稽古けいことか言ってで模擬戦もぎせん勝手に仕掛しかけて、胸とかお尻とかさわったりとやりたい放題ほうだいだったんだから!」

「男冒険者は止めなかったのか? ギルド職員は?」

「止めないよ。あいつら自分より強い男がいるときはやらないし、ギルドは完全実力主義だ。冒険者ギルドにとってめ事は日常茶飯時にちじょうさはんじ。この程度自分で何とかしろって言われるのがオチってわけ」

「ふーん、なるほどなあ」

「それよりカイト、あんた今日の予定決まってる?」

「いや、まだだけど?」


 さっき起きたばっかだし予定もクソも何もない。


「だったらあたしと同じクエストしようぜ。Dランク二人を余裕でぶちのめせるあんたなら良い肉壁にくかべ……じゃなかった! 良い前衛になりそうだしね!」

「お前さん……今俺のこと肉壁って――」

「言ってない言ってない! さあどうする!? この仕事は本来ならFランクは受けれない仕事なんだぜ!?」


 なんか誤魔化ごまかされてる気がするけどまあいいさ。

 より高いランクの仕事の方が報酬ほうしゅうが多いというのはどこの世界も同じ。

 稼いで一刻いっこくも早くまともな宿に拠点きょてんを移したいし、信頼を勝ち取ってランクを上げたい。


「あんたの目的が何であれ受けさせてもらうよ。その方が稼げそうだし」

「よし! 肉壁ゲット!」

「本音を隠さなくなったな……で、仕事の内容は?」

「ふふ、それは行ってからのお楽しみだよ」


 それだけ言うとミーナは「あたし手続きしてくっから」「昼までに準備じゅんびして正門前なー!」と残して立ち去った。


「準備、そうか。冒険者の仕事をするにも準備はいるよな」


 ……

 …………

 ………………


「とりあえずこんなもんかな」


 時は正午しょうご――俺は約束どおり準備を終えて正門に到着した。

 この世界の金はまだ持っていないため、とりあえず冒険者ギルドの受付に相談。

 報酬の一部から返却すると言うことで、ギルドで一式そろえてもらった。

 収集物しゅうしゅうぶつを入れるためのカバンに、歩きやすいくつ

 攻撃のダメージを軽減けいげんするための軽鎧ライトアーマーに、魔物を討伐とうばつする為の武器。

 そして、素材剥そざいはぎ取り用のナイフ。

 なんというか――本番なんだな。


「よっ、お待たせ。じゃあ行こっか」


 遅れてやってきたミーナの格好は暗い緑色を基調きちょうとしたフルボディスーツだった。

 その上に肩当てやら胸当て、ズボンなどを身に着けている。

 武器はナイフと弓矢。

 斥候らしい見つかりにくさと動きやすさ、そして逃げやすさを目的としている格好だ。


「へー、食客ってどんな武器使うのかと思ったら短剣ダガーナックルなんだ」

「ああ、まあね」


 昨日の一件で《格闘士グラップラー》の味が身体にしみ込んだせいか、試していてこいつが一番しっくりきたので、包丁以外にナックルを装備そうびしている。

 鉄でできたいわゆるメリケンサックだ。

 これで人を殴ったら、俺たちの世界なら間違いなく死ぬだろう。


「そんじゃそろそろ行こっか。目的地は街の外を出て南へ一時間ほど行ったところにある通称|精霊《せいれいの泉》」

「精霊の泉? ってことは、いるのか? 精霊?」

「さあ? 神様がいるくらいだからいるんじゃね? あたしは見たことないけどね」

「ふーん」


 ファンタジー世界にも存在が曖昧あいまいなものってあるんだな。


「で、そこで俺たちは何をするんだ?」

「ふふ、それはね――」


 ――ゴブリン狩り


 ミーナはそう俺に言うとニヤリと笑った。




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《あとがき》

初めての冒険回です。

導入部分なので今回は短め。

ミーナは今後色々関わってきます。

もちろんラブコメ方面でも。


《旧Twitter》

https://twitter.com/USouhei


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