死神騎士は運命の婚約者を離さない
小田ヒロ/ビーズログ文庫
プロローグ
プロローグ①
ようやく雪がとけ、冬の厳しい寒さが
二年間続いた戦争は、我がサルーデ王国の勝利によって
本日この場は、
久々に
騎士たちも大なり小なり
一段高い場所には敗北目前で起死回生の
その時――
「エメリーン・バルト
ひっそりと一人、柱の
「で、殿下?」
「おまえとこれまで婚約していてもいいことなんか一つもなかった。何が〈運〉だ! そんな不確かな〈祝福〉など私には不要だ! その
「コンラッド様……! よくおっしゃったわ。それでいいの!」
サラサラと
王族を「コンラッド様」と、
私が口を
……運? 祝福? 何……この
この場面を、私はかつて見たことがあるような……でも私は私ではなくて……。だめ、非常時に私ってば何を考えているの?
「あ……」
美しく、どこか
ああ……この人に会うのは初めてだけれど、
ここはサルーデ王国で、ヒロインのセルビアと
ということは――
「そんな……
私は……〈ホンキミ〉の悪役令嬢、エメリーン・バルトに転生してしまっている?
座り込んでしまいたいのをなんとか
さらに視線を上げて
「エメリーン・バルト伯爵令嬢、退出を許す。追って
「お言葉ですが、こうでもしなければ、話を聞いてくださらないじゃないですか!!」
殿下の張りあげた大声が、よけいに私の頭に
「コンラッド様、
その愛されるための容姿。甘い、
「こんなことって……」
ますます激しさを増す王と王子による言葉の
勢いよくエントランスに続く
――なぜか
「大丈夫か?」
――待って。衛兵であればパーティー参加者には敬語を使うのでは? それに衛兵の服は赤だ。黒は最高指揮官の色。つまり……。
なぜこんなところに、先ほどまで壇上にいた将軍閣下が!?
私は
「……具合が悪いのだろう? 私のことは
閣下は暗めの声でそう言うと、私をさっと
将軍とは救命活動までもできるのだ! と感動していた矢先に、女性の悲鳴がした。
「ひっ! なんて
何事かと首を少し回して声のした方を見ると、王宮の若いメイドが閣下を見てなぜか顔を青くしており、逃げるように走り去った。
……今日はいろいろとおかしなことばかりだ、とうんざりしていると、頭上から深いため息が降ってきた。
「私と
閣下はそう言うと、なぜか手早く長めの
「このまま馬車まで送るよ。じっとしているように」
確かにもはや
先ほどの閣下の深いため息が耳から離れない。思考をめぐらせ原因を探ろうとするけれど、やはり頭痛と吐き気が
そんな私たちの後ろからカツカツと高いヒールの足音が、迷いなくこちらへ向かってきた。私を追いかけてきたとすれば母だろうか?
「……エメリーンはまだそんなに遠くに行ってないはずよ。あ、ちょっとあなた。止まって。人を探しているの」
この声はさっきの……セルビアでは?
私
「何か用か?」
呼びかけを無視することもできず、閣下が胸に
「げっ。死神騎士のランスロットだ! どうしてここに……」
「……君は誰だ? 私は身内の者以外には名前を呼ぶ許しを
閣下の声は低く
そうよ、彼女は私やコンラッド殿下と同世代のはず。年上の、それも将軍を名前で呼ぶなんて、あまりに敬意がなさすぎる。それに……死神ですって? 彼女の様子は見えないけれど、なんて無礼で軽々しいことを。
「やっぱ
セルビアは閣下の許しも得ぬまま、そそくさと立ち去ってしまった。ありえない……。
「ちっ。なんともわきまえていない女だったな。マルベリーにはあとで
まさか。温かな
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
体調のせいで声が小さく震えた。しっかりとした返事ができず申し訳ない。
「……私のような恐ろしい男に運ばれるのは嫌だろう。馬車の停車場はもうすぐだ。
なぜか暗い声でそう返された。何か誤解された? 恩人に少しでも嫌な思いをさせるなんて、
私は目の前にある閣下の軍服をぎゅっと
「本当に、本当に感謝しております。吐き気をおさえているだけなのです」
「そ、それはいけない。急ごう」
閣下はそう言うと、ますます私を
閣下はさっさと私を車内に押し込み、立ち去ろうとしたが、
「お、お待ちください」
私はとっさに彼の手を
閣下は軍神のごとき強さからか、人々から
「閣下。改めまして、我が国に平和をもたらしてくれてありがとうございます。
そう言って残った体力を振り
ゆっくりと馬車が動き出す。私はとうとう限界がきて、座面にぐったりと
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