第8話 E-GP3 イモラにて

 2週続けてのレースなので、今回はザルツブルグに戻らず、スペインからイタリアへ直接向かうことになった。地中海沿いにバスは走る。途中マルセイユで1泊し、名物のブイヤベースを堪能した。日本の煮込み料理に似てなくもないが、はいっているものが違う。オマールや白身魚がうまい。

 翌日はバカンス地で有名なニースを通過した。泳いでいる人は少ないが、日向ぼっこをしている人たちがたくさんいる。中には、ブラをはずして寝そべっている女性もいる。私は思わず目をおおってしまった。でも、周りはだれも騒がない。こちらでは当然の景色なのだ。日本で祖父が太陽アレルギーにならないために日向ぼっこをする人が多いんだよ。と言っていた話を思い出していた。でも、自分は絶対にできないと思う。

 モナコの近くのEZE(エズ)という村に寄った。マネージャーのケニーが

「 Here is called Eagle's nest village . It's a place with a very nice view . Go to upper botanical garden . 」

(ここは鷲ノ巣村といわれるところです。とても景色がいいところです。上の植物園まで行ってごらん)

 と言うので、エイミーといっしょに30分ほどかけて頂上まで行ってみた。

 上まで行くと、スレンダーな少女像があり、エイミーはそのポーズを真似ていた。でも、とてもスレンダーには見えない。近くにいたチームの男連中は笑っていた。エイミーはプンプンである。

 そこから見る地中海はまさに真っ青だった。白い雲と青い空、そして濃いブルーの海、緑の陸地。見事なコントラストだ。街が近いのに、こんなに海が青いのは信じられないくらいだ。行ったことはないが、沖縄の海みたいだ。エイミーとしばらく見入っていた。

 バスに戻り、モナコに向かう。右側は100m以上の絶壁だ。カーブでふくらむと恐怖を感じる。スピードは怖くないが、高所は怖い。バンジーとかをする人の気がしれない。

 モナコの街に入る。大渋滞だ。F1コースを一部走ったが、時速30kmで走るのがやっとだ。有名なカジノ前ではチームのメンバーから歓声があがったが、ただバスから見るだけである。泊まりはモナコの隣のマントンの街である。もうすぐでイタリア国境だ。

 翌水曜日は休日となった。チームのメンバーはマントンの街を歩いたり、海辺で遊んだりしていた。私は、イモラのコース図とにらめっこをしていた。そしてタブレットで映像を確認し、目を閉じてシミュレーションをしていた。外出したエイミーがもどってきて、

「 Mami is also reseaching Imola , Japanese people don't know how to have fun . 」

(麻実もイモラの研究をしてるって、日本人って楽しむってこと知らないんだから)

「 Sorry . I don't feel at ease unless I have something to do . 」

(ごめんね。やることやっていないと落ち着かないの)

 木曜日、イモラに到着した。ピットというかパドックに大型テントを設置し、器材を運び込む。アカデミーの生徒も雑用係だ。だが、中谷と私はGrokkenジュニアチームのピットに呼ばれ、マシンのセッティングを行う。午後からのフリー走行で走ることができた。

 イモラのサーキットは5000mほどの高速サーキットだった。過去形なのはコース改修がされ、シケインが増え最高速が抑制されたからである。私が産まれる前、F1のアイルトンセナが事故で亡くなったのが、このサーキットである。当時はすごいニュースになったらしい。それ以来、サーキットやマシンの安全対策が広まったと聞いている。

 イモラは反時計まわりのサーキットである。珍しいレイアウトだ。スタートすると緩やかな左カーブが続く。ストレートに近いが、ブラインドの高速コーナーとも言える。この先でアイルトンセナはコースアウトし、マシンを大破させて亡くなった。年輩の方の多くが、ここで手を合わせている。

 タンブレロコーナーで左右左と曲がる。ここをいかに速く抜けるかで勝負が決まる。次は短いストレート。右にターンし、次はきつい左コーナー。ほぼUターンだ。有名なトサコーナーだ。ここも勝負どころだ。

 9コーナーは左90度コーナー、12コーナーは右90度コーナー、ライダーのテクニックが試される。そして最初のシケイン、ヴァリアンテ・アルタ。ここは右左。次は、有名なリバッツァ。左90度と左90度のコーナーが連続する。上手なライダーはひとつのコーナーみたいに曲がっていく。最後にまたもやシケイン。ヴァリアンテ・バッサだ。ここは左右だ。そしてフィニッシュ。コース幅は広いのでどこでも抜ける感じがする。まずはコースに慣れることに専念する。毎回のことだが、世界の有名なコースを走ることができるのは感激の一言だ。でも、ジム・フランクに言わせると

「 I would like to run at famous Motegi , very very fantastic ! 」

(有名なMOTEGIで走ってみたい。とてもとてもファンタスティックだ)

 とのこと。ヨーロッパのライダーに言わせれば、MOTEGIは憧れのコース。私はそこをホームコースにしていたのだ。誇りともいえる。でも、中谷に言わせると

「日本のサーキットと言えばSUZUKAよ」

 とのこと。関西人はそれなりの誇りをもっているが、鈴鹿は4輪中心になっている。

 金曜日のフリー走行。雨が降ってしまった。レインタイヤをはいてデータをとったが、日曜日の天気予報は晴れ。今回のレースにはあまり参考にならない。ジムも麻実も早々にピットインしたので、私も無理はしなかった。ただ、明日の予選の時も雨予報なので、想定される予選タイムは出してみた。周りからは一人だけ本気で走っているように見られた。

 土曜日、案の定雨。しとしとぴっちゃんの小雨だ。車間を開けてピットを出る。3周目にアタック。がんばって走ったが、予選5番手にしかならなかった。周りからはスパでの優勝はやはりまぐれか? と見られた。ジムは予選2番手、中谷は4番手に入っている。速さだけなら2人にかなわない。

 少し気落ちしながらも夕方のタレントカップの応援をする。エイミーはがんばって走っていたが、レインだし、何と言ってもルッシアカデミーのホームコース。10位に入るのがやっとだった。

 日曜日、天気は快晴。気持ちのいい朝だ。午前のウォームアップラン。気持ちよく走れた。Moto3、Moto2,MotoGPと熱いレースが続く。めざすMoto3のレースはマシンの性能差が少ないので、ライダーの技量で決まる。リバッツァのコーナーでコーナリングの違いを見る。私同様、膝ぎりぎりまですりつけるライダーが多い中、トップ集団は膝をたたんで曲がっていく。レベルの違いがわかる。とても参考になるレースだった。

 そして、夕方の決勝。空はまだまだ明るいが、消化レースなので観客はまばらだ。

 スタートは無難。ポジションキープでタンブレロコーナーを抜ける。1周目を終えるとトップ集団は6台になっていた。後ろから1台くっついてくる。スパで2位に入ったライダーだ。雨の予選でポジションを落としていたが、晴れの決勝でペースを上げているからだろう。

 3周目、リバッツァコーナーで抜かれてしまった。コーナリングは彼の方が速い。しばらくその後ろについて、コーナリングの様子を観る。するとMoto3のライダーみたいに膝をたたんでターンしている。

(うまいもんだな)

 と感心しながらも、彼のペースで走ることにした。結局、そのままの順位で終わってしまった。でも、私にとっては大きな収穫となった。表彰台にはジムと麻実がのっていた。チームにとってはうれしいことなので、ピット内は盛り上がっていたが、私一人だけが浮いている感じがした。

 次戦は、2週間後のオランダ・アッセン。今回のタレントカップで3位入賞者がいなかったので、中谷と私がE-GP3に参戦することとなった。タレントカップは3週間後のアッセンとなる。

 気持ちを入れ替えて再チャレンジだ。

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