第4話 ガントの正体

アリアは慌てて

「お、お待ちください」

と駆け寄り二人の間に立った。


「ルシフェはまだ駆け出しで……今まで注文を受けたこともない未熟者なのです」

そう告げて土下座して頭を下げたのである。


騎士は彼女を見下ろし

「ほぅ、こうしてみると中々の娘だな。身体で謝ってもらうのも悪くないか」

と手を掴もうと伸ばした。


確かに彼女は美人である。

この店の正に看板娘だ。


背後に立っていた人々は彼女がどうなるか想像できたものの、視線を交わし合うだけで動けなかった。

前に立ってどうなるかが分かるからである。


力あるモノが正義となった国なのだ。

所謂、切り捨て御免なのだ。


ルシフェは怯える彼女を見て一歩前に立つと騎士の手を払い

「アリアさんは関係ありません。俺はただどんなプロパティーが必要なのかと聞いているだけです!」

と告げた。


騎士は顔を歪めると

「きさま」

と剣を構えかけた。


そこに素材を手にしたガントが戻りざわつく男たちを押し退けて

「俺の娘と息子に何か用か」

と声を掛けた。


騎士は剣を手に振り返りガントを見ると

「ま、さか……鋼鉄の騎士ガント……さ……ま……」

と震えながら跪いた。


ガントは足を進めて

「俺はもう王都の騎士じゃないが俺の娘に手を出すなら力に物を言わす気持ちはある」

と言い

「メガネ作りのことは俺が言い聞かせておくから戻れ」

と告げた。


騎士は慌てて

「はっ!」

と言うと逃げるように立ち去った。


背後では人々がざわざわと口々に言葉を交わしていた。

アリアは立ち上がると

「お父様」

と笑みを浮かべた。


ルシフェは二人を見ると

「あの、アリアさんにガントさん……すみません。それからありがとうございます」

と頭を下げた。


ガントはアリアに素材を渡しながら

「王が代替わりをしてから……俺は王都の騎士はやめたからな」

と言い

「だが気を付けろ。アレス王は小さな町でも全力でつぶしに来るぞ」

と告げた。


ルシフェはそれに

「そう、だったんですね」

と言い

「俺はこの世界のことはまだ分からなくて」

と答えた。


ガントは困ったように

「?? まあ、そうか」

と言い

「変わった拾い物をしたな」

と苦笑して

「とにかくメガネを作れ、この村を守るためにもな」

と告げた。


ルシフェは困ったように

「しかし、何を望んでいるか分からないから失敗したら」

と呟いた。


ガントはそれを見ると

「どうやら、お前は失敗が嫌いなようだな。だから安全な道を誰かに示してもらいたいのか?」

と言い

「人は自分で考えて自分で切り開いていかないといけない時がある。例えそれが間違っているかもしれない不安があってもな」

と告げると

「決められた道を歩くのは簡単だ。だがそれだけで人生は進むことができない。お前の人生だ、お前は考えることを学べ」

と笑みを浮かべた。

「今回もその訓練だと思って頑張ってみるんだな。その上での結果のとばっちりならしょうがない俺は諦めてやる」


ルシフェは目を見開いてガントを見た。


アリアも笑顔で

「私も同じです。先ほども私の危ないところを前に立って助けてくださいましたもの」

と告げた。


ルシフェは慌てて

「いや、それは……原因が俺だったから」

と答えた。


アリアは笑みを深めて

「私も協力します。だから『ルシフェさんが良いと思うプロパティー』のメガネを作ってください」

と告げた。


ルシフェは頷いた。


そうなのだ。

今まで自分は間違いが怖かったのだ。

間違うことは全て恥ずかしいことだと思っていたのだ。


だから決まっていること。

だから自分の考えよりも決まり事を優先させてきたのだ。


ルシフェは笑むと

「わかりました、ハズレでも作ってみます」

と答えた。


どんなメガネを作るか。

自分が作る正しいと思うプロパティーのメガネを作る。


変なプロパティーだったら自国の王に町が滅ぼされてしまうかもしれない。

しかし作らなくても滅ぼされるのだ。


やるしかない。


ルシフェは箒を直してアリアから素材の倉庫に連れて行ってもらうとその中でどんな特殊能力プロパティーのメガネを作るかを考え始めたのである。

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