勧誘もアカン!
最寄り駅に到着した。周りにいた乗客の殆どが降りて行ったが、それでも車内は間を縫って人が一人通れるくらいの人混みで溢れている。
さすが、大都会東京。関西の通勤ラッシュとは比べ物にならないくらいの人混みである。
(うーん、痴漢野郎も降りてしまったやろか? それやったら良いけど、次にあった時は容赦はせん! その場で張り倒したるわ!)
今、
髪の毛が一本も生えていない強面のおっさんだった。身長は
パッと見た感じヤ●ザに見えなくはないが、こんな暑い中、涼しげな表情ができるのが不思議で、
(こんな強面のおっさんが痴漢なんてするんかな? やっぱり、さっきの駅で痴漢野郎は降りたんかもしれん――)
そんな事を考えている時だった。
ソッ……と、手が
パチンッ! と快音が車内に鳴り響いた。しかし、厄介ごとが大嫌いな日本人は誰一人顔を上げずに、スマホ弄りに没頭している。おい、誰か一人くらい反応しろや! と、
(マジかよ! チラッと見えたジャケットの色、強面のおっさんが着てたやつやった!)
普段から鍛えている
手が股間に伸びてきては払い落とし、ポケットに指を突っ込まれる感覚がすれば、すぐに払い落とした。しかし、これだけパッチンパッチンと音が鳴っているのに、周りの乗客は見向きもしない。
ほんまにどないなっとんねん、この国は!? と
目的地に到着するまでの間、この強面のおっさんとの攻防を何回繰り返しただろう。どこかの駅で降りてやり過ごせば良いと思っていたが、
ちくしょうっ! こんな痴漢野郎なんかに負けてたまるか! という謎の負けず嫌いが発動していたのである。
だがしかし、勝負は引き分けになろうとしていた。次の駅は目的地である渋谷。
(くっそー。人の乗り降りが激しくて、結局、捕まえられんかったわ。このまま友達待たせんのも悪いし、さっさと降りて待ち合わせ場所に向かうか……)
電車の扉が開いた。
何が起こったのか分からず、「何するんじゃ、ボケェ!!」と怒鳴り声をあげる。本場の関西弁に驚いた乗客達の視線が痛かったが、
一方の強面のおっさんはこういう状況には慣れているのか、人混みに紛れて逃げていた。あっという間に階段を登ってしまったので、
「おいおい、逃げ足早いな! やられっぱなしで、なんか腹立つわー……って、なんやこれ? あのおっさん、ゴミ入れていきよったんか!?」
苛立ちながら紙を広げてみると、某AVプロダクションの名前と営業マンの電話番号が書かれていた。つまり、端的にいうところの勧誘である。
予想外の展開に
名刺の裏にはこう書かれてあった。
『汁男優としてAVに出演してみませんか!? 貴方のその体格なら、画映え間違いなしです! お金にお困りなら、私の携帯番号に――』
無駄に綺麗な走り書きを読んだ
つまりだ。
これは
しかし、体格は合格でも営業マンが求めるチ●コのサイズではなかったらしい。だから、汁男優として出演してみませんか? とお誘いを受けたのかもしれない。
「誰が粗チンや! ほんまに失礼な話やで! 白昼堂々とAVのスカウトとかやめてや! しかも汁男優て! ふざけすぎやろっ、フフッ……」
男でもこういう珍事件はある。流石に今回のような男に痴漢される事は滅多にないだろう。だが、世に『女性専用車両』があるなら『男性専用車両』も作って欲しいと思った
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