発明好きなおじいちゃんが作ったメガネは、まさかの寿命が見えるメガネだった!?

空豆 空(そらまめくう)

【よみきり】 ぼくのおじいちゃんの発明したメガネ

「おーい、タイキ、出来たぞ。わしの渾身の作品。ミエールメガネじゃ!」


 ぼくのおじいちゃんは発明が大好きだ。いつも役に立つのか立たないのか微妙なものを作っては、ぼくに見せびらかしてくる。


「今日は何を作ったの、おじいちゃん!」


「まぁかけてみぃ」


 おじいちゃんに促されて、ぼくはおじいちゃんが作ったメガネをかけてみる。見たところ何の変哲もないけれど、一体何が見えるって言うんだろう。


「?? なんにも変化ないよ??」


「ふっふっふ。では、この魚を見てみてくれ」


 おじいちゃんは得意げに笑いながらぼくの目の前にスーパーで買って来た魚を置いた。

 その魚をメガネを掛けて見てみると、『1』という数字が見えた。


「1?? なんか1って数字が見えるよ、おじいちゃん」


「おおそうか、つまりこの魚の賞味期限は後1日という事じゃ!! これで賞味期限切れの物を食べてお腹を壊す日々から解放されるという魂胆じゃ!!」


「ああ、こないだおじいちゃんったら賞味期限が1年も切れたクッキーを食べてお腹壊してたもんね」


 本当にうっかりものだなぁと思うと少し笑っちゃう。おじいちゃんのそんなところも大好きなのだけど。


「つらい事を思い出させるんじゃない。あんな生死の狭間をさまようようなつらい経験を二度としないための、これは画期的な発明なのじゃああああ!!」


 魚のパックには、賞味期限が明日ってちゃんと書いてあるけど、それを言ったら元も子もなくなってしまうから黙っていようと思う。


 まったく、おじいちゃんたら。今回も役に立つのか立たないのか微妙なラインをせめてくるなぁ。


 そう思いながらおじいちゃんの顔を見てみたら。


 ……あれ? おじいちゃんの頭の上に1234って書いてある。一体これはなんだろう。


 まぁ、おじいちゃんの発明にはいつもバグがつきものだから、これもバグかなにかかな。おじいちゃんは食べ物じゃないから賞味期限なんてないもんね。


 そう思っていた時、ぴょんと飼い猫のタマがテーブルに飛び乗った。


「あ、こら、タマ、これはタマのごはんじゃないから食べちゃだめっ!!」


 もう、まったく、タマったら食いしん坊なんだから。そう思いながらタマを抱いて降ろそうとした時、タマの頭の上にも数字が書かれているのが見えた。


 ……あれ? タマの頭の上にも数字が書いてある。タマは……3289?

 これって何の数字だろう。あ、もしかして戦闘力かな。


 うふふ、おじいちゃんよりタマの方が強いなんて。確かにタマの猫パンチは強いもんなぁ。頭の良さなら絶対おじいちゃんの方が強いのに。おもしろいな。



 ちょっと楽しくなったぼくは、パパとママの戦闘力も見に行くことにした。


 リビングでごろごろしているパパは、15333。

 お洗濯中のママは、20075。


 ふふふ、いっつもパパったらママに叱られて尻に敷かれてるもんなぁ。

 力はパパの方が強そうだけど、ケンカしたら勝つのはいつもママ。だから戦闘力はママの勝ち!


 そうだ、妹のゆんちゃんはどのくらいだろう。


 ぼくは気になってベビーベッドで寝ているゆんちゃんを覗きに行った。ゆんちゃんはまだ赤ちゃんだし女の子だから、ぼくが守ってあげなくちゃいけないんだ!


 そう思って覗いてみたゆんちゃんの頭の上には、33465って書かれてた。


 あれ?? パパよりも、ママよりも強いってこと?


 ああ、そっか、ゆんちゃんはまだ赤ちゃんだけど、泣いたらすっごく大きな声で泣くもんね。こないだパパとママが喧嘩してた時も、ゆんちゃんが泣いたらケンカは一時中断。パパもママも『ゆんちゃんがやめてって言ってるからケンカはやめよっか』って仲直りしてたっけ。


 ふふふ、すごいなぁ、ゆんちゃんは! こんなに小さいのに、パパよりもママよりも強いなんて。



 ――そして次の日。


 ぼくはお友達の戦闘力も見たくてメガネを掛けたまま遊びに行くことにした。


「おじいちゃーん、このメガネ借りて行ってもいいー?」


「んー?? 文字が見えにくいから調整しようと思ってたんじゃが、まあいいじゃろう。お昼までには帰って来るんだぞ」


 なんとなくメガネを掛けたまま、そういうおじいちゃんの顔を見上げてみたら。おじいちゃんの頭の上に書かれている数字が気になった。


 ……あれ? 1233?? 昨日は1234だったはずなのに、1つ減ってる。これも誤差かな?


 ぼくは気にせずにそのまま公園に遊びに行った。


 公園にはいつもよく遊ぶクラスのみんなが集まっていた。


 さっちゃん31399、あっくん26287、こーくん29204、みっちゃん35765、あけみちゃん36122。


 いろんなお友達の戦闘力を見てみたけど、なんか女の子の方が強いみたい??


 さっちゃんはか弱い感じだし、あっくんは合気道習ってて強いのに、どういうことだろう??


 だんだん不思議になってきた。


 だからぼくはみんなと遊んだ後、お隣に住んでるシンイチ兄ちゃんのところに聞きに行ってみたんだ。


 シンイチ兄ちゃんはとっても頭がいいお兄ちゃん。


「ねーねー、シンイチお兄ちゃん。パパよりママの方が強くて、ママより赤ちゃんの方が強くて、男の子より女の子の方が強いもの、なーんだ」


 だからクイズにしたら分かるかなって思ったのだけど……


「ん? なんだそれ。それだけじゃちょっと分からないな。もっと詳しいヒントをくれないかな?」


 さすがにそれだけでは分からなかったみたいだから、おじいちゃんが発明したメガネを掛けたら数字が見える話をシンイチお兄ちゃんに詳しく話してみた。


 そして、『この数字は何だと思う?』って聞いてみたんだ。そしたら――


「ああ、それなら、『寿命』じゃないかな。一般的に大人よりも子供の方がこの先の寿命は長いし、女の子の方が男の子よりも寿命は長いって言われているんだ。もちろん寿命なんて、生活環境でいくらでも変動するし、不確かなものだけどね」


 それを聞いて、ふと聞いてみた。


「シンイチお兄ちゃん。おじいちゃんの数字はね、昨日より今日の方が1つ減ってて、今日は1233だったんだ。それってあとどのくらいってこと?」


 すると――


「え? それが本当に寿命だとしたら……後3年とちょっとってことになってしまうよ?」


 シンイチお兄ちゃんはそう言った。ぼくはその言葉を聞いてゾクッとした。


「ウソだ!! おじいちゃんは元気だもん!! まだまだぼくと一緒に楽しい思い出いっぱい作るんだもん!!」


 ぼくはだんだん悲しくなってきて、おじいちゃんが心配になってきて、涙が出て来て、シンイチお兄ちゃんにさよならも言わずに泣きながら家に帰った。


 


「う、ううう、うう」


 泣きながら家に帰るといつも通りの穏やかな顔をしたおじいちゃんがいて。


「おお、タイキ。どうした? 友達とケンカでもしたのかの」


 おじいちゃんはそう言いながら、その温かい手でぼくの頭を撫でてくれた。


 ウソだ、ウソだ、ウソだ。絶対おじいちゃんが後3年で死んじゃうなんて絶対ウソだ。


 ぼくはおじいちゃんの胸で泣き崩れながら、おじいちゃんにはぼくが泣いている理由は言えなかった。だって、言ったらそれを認めるみたいになってしまうから。




 ――そうして迎えた3年後。


「おーい、タイキ、見てくれ。わしの渾身の作品。ネムレ―ルメガネじゃ!!」


 ぼくのおじいちゃんは、今でも発明が大好きだ。相変わらず役に立つのか立たないのか微妙なものを作っては、ぼくに見せびらかしてくる。


「今日は何を作ったの、おじいちゃん!」


「これはな。眠る時にかけたらレンズが黒くなって、朝になったら明るくなるというメガネじゃ!!」


 ……うーん、いつもおじいちゃんはアイマスクをかけて寝てるけど、朝になったら取れちゃってるから、一緒だと思うんだけどな。今回も役に立つのか立たないのか、微妙なラインだ。


 けれど。


「このメガネは3年前のあの画期的な発明、ミエールメガネの後続なのじゃ!!」


 おじいちゃんは高らかに笑う。


 そう、ぼくがおじいちゃんの寿命が後3年だと思ったあの賞味期限が見えるミエールメガネ。


 もしかしたらおじいちゃんが今も元気なのは、あのメガネのおかげなのかもしれない。


 思えば目が悪いおじいちゃんは、賞味期限の文字が読めなくて、よく賞味期限が切れたものを食べてお腹を壊していたんだ。


 あの時だって、1年も前に賞味期限が切れたクッキーを食べてお腹を壊して生死の狭間をさまよったって言った直後だったし。そんな日々をあのまま続けていたら、寿命を縮めていたとしてもおかしくないよね。


 それが改良版のミエールメガネを使うようになってから、賞味期限切れのものを食べてお腹を壊すことがなくなったのは事実。


 まぁ、そもそも文字がちゃんと見えるメガネを最初から使っていればよかったんじゃないかなって思わなくもないんだけど。


 だけど、ぼくがおじいちゃんの寿命が後3年だと思ってから、おじいちゃんの事も、おじいちゃんとの時間も、思い出も、すべてがそれまでよりも大切に思えたのも事実。


 シンイチお兄ちゃんも言ってたもんね。『寿命なんて、生活環境でいくらでも変動するし、不確かなもの』って。



 だから、あのメガネのおかげでおじいちゃんの寿命が延びたのだとしたら、ものすごく画期的な大発明だったんだと思うんだ。


 だから、今回のメガネも知らないうちに役に立つのかな?


 なんにしても、発明をして楽しそうに笑っているおじいちゃんの顔は最高だ。



 これからも、ずっと元気でいてね、ぼくの大好きなおじいちゃん。




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ここまで読んでくださりありがとうございました!!

今回の作品はKAC8回目のお題『めがね』を元に書かせていただきました。

これでKACのお題8個すべてコンプリートです!!


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