第269話 長期戦の末

「天を舞え、ナタリー!風之舞、天の支配者、荒ぶる王妃!」


 ミアの2体目はクイーンハーピィーのナタリー。

 風之舞で全ステータス2倍、天の支配者で更に全ステータス1.5倍、昇華スキルの荒ぶる王妃で全ステータス3倍で合わせて全ステータス9倍まで上昇するも神技・スロースの追加効果が発動している。

 アルバスが顕在時に相手がモンスターを召喚した場合、再びその効果を発動する。

 つまり、ナタリーが召喚されると同時に神技・スロースが自動的に再発動していた。

 その為、合計で全ステータス9倍のバフを付与するもデバフで相殺され、全ステータス2倍ほどに留まっている。


「ナタリー、神技・王妃の嘆き!!」


「アルバス、神技・ベルフェゴール!!」


 ナタリーの目の前に風が収束し、アルバスへと解き放たれる。

 デバフが悪化するとこの後に控えているドランバード戦がかなり厳しくなる。

 その為、ミアは神技・王妃の嘆きを使った速攻でアルバスを倒しに行く。

 それを神技・ベルフェゴールで迎え撃つアルバス。


 神技・ベルフェゴールの効果により、フィールド全体が闇に覆われるとナタリーとナタリーの放った神技・王妃の嘆きに怠惰が付与される。その威力を大幅に低下させ、徐々に小さく、勢いも弱くなる。最終的にアルバスへ届くことなく、神技・王妃の嘆きは消滅する。

 更にナタリーはその場から身動きが取れなくなる。


「怠惰の解放!」


 身動きの取れないナタリーに怠惰の解放が襲う。

 そしてフィールド全体を覆っていた闇が消えるとナタリーは自由に動けるようになる。


「神技・風神ノ双眸!」


『アルバス DOWN』


 怠惰の解放によってナタリーのHPは半分近く削れるもデバフがより悪化する前にアルバスを倒せたのは大きい。それでも神技を二つ使わされた為、ナタリーが使える神技は残り一つ。

 このバトル中に神技のクールタイムが明けるのは望み薄。

 そうなうと使える神技が一つだけの状態でドランバード相手に勝たなければいけない。

 ミアがかなり劣勢なことに変わりない。


「頼んだぞ、ドランバード!」


 薫の2体目はドランバード。武器と防具を装備できる数少ない竜。

 だが、ぱっと見では武器を装備しているように見えないが、ドレイクの両手剣のように目立つ武器じゃなく、竜爪というパンチグローブのような武器を装備していて、完全にドランバードと一体化しているからわかりづらい。


「ドランバード、ドラゴンフォース、仙竜解放せんりゅうかいほう!」


 ドラゴンフォースで全ステータス2倍、仙竜解放で更に全ステータス2倍と合計で全ステータス4倍。

 ステータス面では圧倒的にドランバードがナタリーを上回っている。

 だが、近接攻撃が中心のドランバードと遠距離攻撃が中心のナタリー。

 その間合いに差がある為、勝負の鍵はドランバードが間合いに入れるかどうかにある。

 入らせずに一方的に遠距離から攻撃を続けられたらナタリーにも十分勝機はある。


「ナタリー、ライトニングノヴァ!」


「!いきなり全体攻撃か。ドランバード、アクアブレイク!」


「ゲイルノヴァ!」


「アクアブレス!」


 全体攻撃二連発。それに対処する為に数少ない遠距離攻撃スキルを使わされた。

 防御スキルでの防御はもっと接近し、あと少しで届くという時まで温存したい。

 ミアはその心理につけ込み、全力で勝ちをもぎ取りに行っている。


「ドランバード、竜爪拳!」


「ナタリー、ゲイルアロー、ゲイルジャベリン、ゲイルランス!」


 ドランバードが距離を詰めようとしてもナタリーはその逆に引く。それも魔法の放ちながら。

 最もいやらしいのは放っている魔法が全てドランバードに向いているわけじゃないとこだ。

 最初に放ったゲイルアローはドランバードに真っ直ぐ向かっていくが、その後に放たれたゲイルジャベリンとゲイルランスはドランバードの軌道上から少し離れた場所に放たれている。

 これにより、回避先を制限され、思うように距離を詰められない。


 今のステータス差だと神技どころか通常スキルでも強力な一撃をもらうと倒されかねない。

 その為、徹底してドランバードを近づけないよう仕掛けを施す。

 こういう展開になると経験がものをいう。そうなると圧倒的にミアに軍配が上がる。


 その後も似たような攻防が続く。

 とにかく距離を詰めようといろいろ試すドランバードだが、ナタリーはその尽くを打ち破り、距離を詰めさせない。

 だが、一方でナタリーの攻撃もドランバードには当たっていない。

 このままでは勝敗がつかない。

 どちらかの集中力切れによる綻びを待つか、それとも先に相手の想定を上回る何かを仕掛け、この状況を打破するか。

 ミアと薫の頭にはその選択がぎり始める。


 それでも両者共に動かない。

 いや、動けないが正しい。

 ミアはまだ情報の無いドランバードの神技を警戒するあまり動けない。現にアルバス戦では初見の神技に対応ができなかった。

 今、ミアが把握しているのは神技・仙竜撃滅双爪乱舞のみ。

 アルバスが新たな神技を取得していたことからも最低あと二つはLv90の進化で取得していると考えられる。

 ここまで使ってこないということは残る二つも物理攻撃系の神技という可能性も考えられるが、そう思わさての奇襲を企てている可能性も否定できない。


 薫は薫で動けない理由がある。

 まだ知られていない神技を使えば、戦局は大きく動くのは間違いない。

 だが、それがどちらに転ぶのか。上手くいけば、自分たちが有利になるが、裏目るとかなり厳しくなる。

 せめてナタリーが残る一つの神技を先に使ってくれたら話は変わるが、さすがに望み薄だ。


 膠着状態のまま時間だけが過ぎる。

 先に集中力の限界が来たのは薫の方だった。

 それもこれも単調な攻撃は一切せず、常に頭を使った一捻りある攻撃を続けたミアの踏ん張りがもたらした成果。

 だが、ミアの集中力も限界に近い。

 まだ辛うじて保てているに過ぎない。


「ドランバード、アクアブレス!」


「ナタリー、ゲイルブレイク!」


 限界が来ても尚それを悟らせないように通常スキルによる攻撃を続ける。

 だが、繊細さを欠いた攻撃が続き、ミアに気づかれてしまった。


 限界が来ていると。


「ナタリー、ドランバードに接近して!」


「!?」


 限界を迎えている薫にとって想定外の状況。

 それもミアが意図して作り出した。


 このまま接近を許し、攻撃を仕掛ける。

 それで本当にいいのか?それを誘われているのでは?

 そこまで考えることはできてもそれ以上、頭が回らない。


「ナタリー、そのままライトニングジャベリン、ライトニングランス、ライトニングアロー、ライトニングブレイク、ゲイルジャベリン、ゲイルランス、ゲイルアロー、ライトニングストーム!」


 そして更に膨大な情報量を与える。

 ここまで小出しにしていたスキルを一気に使ってきた。

 つまり、ミアはここで勝負を決めるつもり。

 だが、薫はミアの狙いが何なのか考えられない。


 クソっ、頭が回らない。それなら、一か八かだ。


「ドランバード、神技・水仙天陣すいせんてんじん!」


「!?」


 もしかして誘われた?

 この状況で神技。集中力切れもフェイク?

 いや、考えるな。相手を自分の中で大きくするな。

 ここで決めるしか選択肢は無い!


 神技・水仙天陣によってナタリーを覆うように水の結界が張り巡らされる。

 これにより、動きを制限されるナタリー。

 神技を使えば、恐らくここからの脱出はできるけど、そうなるとドランバードを倒す際の火力が不足する。


「神技・水仙滅殺すいせんめっさつ!!」


「クイーンプロテクション!」


 神技・水仙天陣によって張り巡らされた結界の内部に神技・水仙滅殺の効果で激流が流れる。

 逃げ場の無い結界内で神技による攻撃に抗う術は無く、ナタリーは流れに身を任せるだけになっている。


 残りHPが半分の状態でドランバードの神技を受けたら普通ならひとたまりもないが、とてつもなくスキルLvの高い防御スキル、クイーンプロテクションでダメージを限界まで抑え、ギリギリの所で耐え切る。


「ナタリー、神技・風神ノ矢!」


 距離を詰めたらドランバードが反応する前に神技・風神ノ矢を当てることができる。そう判断しての指示だった。

 神技・風神ノ矢は相手モンスターのステータスがナタリーのステータスを上回っている場合、その差に応じてその威力を大幅に上げる。

 普段は全ステータス9倍のバフを付与しているからその真価を発揮することは無いから知らない人は知らない。

 だが、薫は事前にエルシーにそのことを聞かされているので、一応は知っている。対処できるかは別として。


 確実に薫は集中力切れを起こしているが、ドランバードは違う。

 薫の集中力切れを察知し、ナタリーの動きに細心の注意を払っていた。

 そして神技・風神ノ矢の回避が困難と即座に判断すると竜闘気解放で更にバフを付与し、防御スキルの仙竜爪・天を使う。

 神技・風神ノ矢が放たれた後に竜闘気解放を使った事で威力が上昇することなく、防御スキルも相まって辛うじて防ぐことに成功する。


「仙竜爪・絶」


『ナタリー DOWN』

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