第206話 これが琴音先輩の実力

 ブルーがアテナとモンスター徳の差を見せつけられたが、言いたいことを言い終えた後はそんなこと一切気にすることなく、俺の足下でプルプルしている。

 うん、いつも通りのブルーだ。


「輝夜、さっきのは何だ?」


「え?どれのこと?」


「決まっているだろう。リヴィングウェポンのステータスがアテナに加算されているように見えた。あれは何だ?」


「ああ、そのこと。ちょっと手を加えてリヴィングウェポンの武器・防具判定をモンスターに変えただけ」


 あ、そういえばブルーが神子の気を引いた時にアテナが剣を召喚してから攻撃力とかがかなり上がってたな。

 確か事前に輝夜さんから聞いた話だとリヴィングウェポンを含めた武器・防具によるステータス加算は無効だったと思うけど。

 抜け道でもあるのかな。いや、あるんだろうな。

 聞いても何が何だか意味がわからないと思うけど。


「できるなら何故、事前に共有しない?人類種のモンスターを所有しているのは他にもいるだろ」


「できないこと共有しても意味無いでしょ?」


「とりあえず、それを可能にした方法を教えろ」


「Aランクダンジョン『獣の都』の虹色宝箱からドロップしたら使役の心得というアイテムにセレーネの神技・無垢の変貌を使って、それを更にアテナのリヴィングウェポンに使っただけよ」


 うん、無理だ。たぶんみんな同じこと思ったよ。


「よりにもよって『獣の都』の虹色宝箱からのドロップが鍵になるのか。さすがに周回して集めるのは無理があるな」


「そう、だから私も黙っておいたの。泥沼に嵌るだけだし」


「『獣の都』…。よくあんなダンジョンに挑戦する…」


『獣の都』、なんかロザリアさんがボソッと呟いた。

 え、俺全然知らないけど、そんなヤバいダンジョンなの?

 薫先輩と琴音先輩もなんか知ってそうな雰囲気。

 あ、でも他のメンバーはそうでも無さそう。俺と同じでどこそこって感じだ。


 初日の挑戦が終わった後、俺はホテルでコソッと輝夜さんに『獣の都』について教えてもらった。

『獣の都』はAランクダンジョンでそこそこ難易度が高いダンジョン。それに加えてドロップするアイテムがあまりに膨大で未だに未発見アイテムがジャラジャラ。

 後、ボスモンスターがかなりタフだから倒すのに時間がかかる上に人気ダンジョンだからボス戦にも待ち時間が発生してるとか。


 ドロップ数が膨大の上にボスモンスターはタフで倒すのに時間がかかる。それに加えて人気ダンジョン故にボス戦にも待ち時間がある。

 そこAランクダンジョンですよね?

 なんか話を聞く限り、Aランクダンジョンとは思えないな。



 時間は戻って第1パーティーの初戦闘が終わったところ。


 輝夜が先頭を進む形でみんな後に続いていた。

 遮蔽物が何も無く、見通しがいいから割と雑談しながら進んでいる。

 それに13人という人数で進んでいるから進行速度はあまり速くない。


「それにしても蓮、アテナが神子を吹き飛ばした時によく即座に反応できたね。おかげですぐ冷静に状況を分析して僕のやるべきことがわかったけど」


「それ!蓮が動かなければ、第1パーティーだけじゃ対処できなかった。まあ最後はアテナに持ってかれたけど」


「いや、たまたまだよ。ブルーもほとんどアテナに頼り切りだったし」


「僕らも頑張って神子のHP削ったんだけどね」


「それを全て無に帰す神技だったな」


 ウィリアムくんとルーカスが何かすっごい勘違いをしてる。

 あの時、ブルーにはアテナじゃなくてタロスとファムの援護に回るよう指示しようと思ったら電光迅雷を使ってアテナの方に駆け出していた。

 結果オーライだったけど、一歩間違えたらアテナの足を引っ張って第1パーティーが瓦解していた可能性もある。

 ブルーはあの後、他のモンスターにチヤホヤされて誇らしげにプル!ってしてたけど。


 そんな話をしてると再び神子と遭遇した。

 しかも今度は3体。


「第2パーティー、やるぞ」


「おっし!コン、稲荷狐の祈り、稲荷狐の祟り、影分身、陽炎、蜃気楼、降臨・稲荷神社、参の型!」


「稲荷流狐剣術、参の型 夜桜!」


「ドレイク、ドラゴンフォース、イグニスブレード!」


「ユニ、ユニブラスト!」


「アルテミス、メガシャイン、メガウインド!」


 コン以外のモンスターは見事に上空から攻撃してる。

 それにちゃんと絶えず動き続けることでこちらの攻撃の軌道から居場所がバレる心配が無い。

 コンは地上で待機中。他のメンバーがどの神子を狙ってるのか把握し、どれに攻撃を仕掛けるか決めるつもりかな。


「コン、壱の型、捌の型!」


「稲荷流狐剣術、壱の型 迦具土、捌の型 爆轟!」


 それからもとにかく攻撃一辺倒で戦うという超脳筋戦法を取っていた。

 ちなみにもしもコンの陽炎と蜃気楼のコンボが崩されたらアルテミスが第1パーティーでいうタロス役をやるみたい。

 天使だから回復役ってイメージが強いけど、かなり防御に特化してたな。脳筋戦法しか無いかと思いきや、意外としっかり考えられてる。


 順調に進んでいるように思えたが、ここで神子が追加で2体背後から乱入して来る。

 ロザリアさんたち第3パーティーがいち早くそれに気づいて対応してくれてる。

 こっちのパーティーにはタロスやアルテミスみたいに防御に特化したモンスターがいないけど、2体同時に相手するのか。


「カーラ、悪魔の祝福、悪魔の囁き、ナイトメア!」


「ノワール、ドラゴンフォース、ブラックラグナロク!」


「エルナ、ロックオン、スターフレイムショット!」


「ドランバード、ドラゴンフォース、水竜爪・滅、水竜爪・破!」


「シルヴィーユ、エルフの加護、妖精の羽ばたき、サウザンドアロー!」


 この中で空を飛べないのはシルヴィーユだけ。神子の攻撃もシルヴィーユに集中する。

 しかもこれを他の誰もフォローしようとしていない。

 これじゃあ琴音先輩のシルヴィーユが倒される!そう思ったのも束の間、神子の拳が当たると思われた直前にシルヴィーユが消えた。


 蓮まだ知らなかった。琴音の本気を。

 琴音は白黒モノクロ学園の学年別トーナメントですら一度も本気を出したことが無い。

 それに値する相手がいないからじゃなく、シルヴィーユが本気出すと疲れるから。

 勝ち負けにそこまで執着しない性格と相まって基本的に相手が誰であれ本気を出さない。

 琴音が本気で戦ったことのある相手は5人といない。

 それ故に真の実力はあまり知られていないが、今回の『天上庭園』攻略に本気で取り組むという決意の元、第3パーティーのメンバーには情報共有をしている。


 シルヴィーユは弓による攻撃を得意とするモンスターと思われているが、実際は違う。

 本来は魔法による攻撃や支援、妨害を得意とするモンスター。

 弓による攻撃は全てリヴィングウェポンのスキルによるものでシルヴィーユは弓が関係するスキルを何一つ取得していない。


 シルヴィーユが消えた。コンの稲荷の境界線みたいな入れ替わりのスキルかな。

 え?今度は神子がドランバードとノワールの前に移動…いや、あれだと移動じゃなくて瞬間移動。

 もしかしてユリアさんのセーレがラグニア戦で使っていた神足通みたいなスキルではないか。相手モンスターにも作用してるし。


「ドランバード、神技・仙竜撃滅双爪乱舞!」


「ノワール、神技・ビッグバンノヴァ!」


「エルナ、神技・レッドプリンセス!」


「カーラ、悪魔の囁き、ナイトメア!」


「シルヴィーユ、神技・ミラージュインパクト!」


 最後はドランバード、ノワール、エルナ、シルヴィーユの神技に加えて、カーラのナイトメアによって神子を倒した。


 ドランバードの神技は溜を必要とするけど、その分威力は凶悪。

 ノワールとエルナの神技はギルドバトルの時に見ているからそこまで驚きは無かったというかシルヴィーユの神技に驚かされた。

 だってドランバード、ノワール、エルナが神技、カーラがナイトメアを放った直後に4体の幻か何かがそれぞれの背後に出現して全く同じ攻撃をもう一度繰り出していた。

 しかも神子にちゃんとダメージを与えていた。

 俺の聞き間違いじゃなければ、隣で同じように見ていた輝夜さんが「与えてるダメージが同じ…。いえ、カーラのナイトメアだけ少ない。きっとシルヴィーユ以外のモンスターが直前に使ったスキルを再発動させる類の神技ね」とかボソッと言ってた。


 ウィリアムくんとルーカスくんの反応を見る限り、輝夜さんの独り言を聞いていたのは俺だけじゃないみたいだ。

 神子を2体同時に相手していて、2体はちょっと離れた位置にいる。そんな中、あの連続攻撃によって2体の神子にどのモンスターがどれだけダメージを与えたのか正確に見抜いてると思われる観察眼。

 普通なら適当なことを言ってると思うだけ。でも、輝夜さんが言うと本当のように聞こえる。

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