第194話 激戦!ジェットラプトル

 日曜日、今日も朝から『侏羅の大森林』に挑戦する。

 まずは真っ直ぐじゃなく、横に逸れて進む。

 逐一、マップを確認して現在位置を把握。昨日とは全く違うルートを進んでいることをそうして確認する。

 手当たり次第に進んでマップを埋める作業を延々と続ける。

 もちろん、一日じゃ終わらなかったから翌日以降も学園が終わってからコツコツと進めた。

 運が良いのか悪いのか、俺の中のマップ推定踏破率が90%を超えても未だにエリアボスのいるボス部屋が発見できていない。マップ上で残っている空白部分にボス部屋があるのは容易に想像できる。

 ここまで約1週間。金曜日の夜にようやくボス部屋を発見した。

 その日のうちに挑戦したかったけど、さすがに今から挑戦すると帰りが夜遅くなるから明日にする。

 明日はちょうど土曜日だしな。


 まさか6時朝一でダンジョンに挑戦してボス部屋に辿り着いたのが、お昼前とは。

 ちょっとモンスターとの遭遇率が高すぎません?

 幾つかのスキルがクールタイムに入ったままだから、少し休んで明けるのを待つこと5分ほど。

 全てのスキルがクールタイムから明けたことを確認して、俺たちはボス部屋へと入る。


 ……何あのモンスター。真面目にこのボス部屋に入って一番最初に思ったことだ。

 だって、普通じゃないよあのモンスター。あれがボスモンスターなの?あんまり強そうには見えないけど。

 顔はヴェロキラプトルのようにも見えるけど、顔以外の部分が全然似てないを通り越して違う!

 尻尾が無く、その代わりなのかな。飛行機とかに搭載されているジェットエンジンが一つ搭載されているように見える。

 それに手足の部分も一部、サイボーグのようになっていて、関節部分が機械化している。あ、鉤爪もだ。

 そして名前はジェットラプトル。


 この時、俺はようやく合点がいった。事前に調べた情報では飛べないが動きの素早いモンスターのいるダンジョンとあったが、実際にここまで遭遇したモンスターはヴェロキラプトルのみ。そこそこ早いけど、早さが特徴のモンスターかと言われると違う。少しだけ事前に得た情報と違うなとは思ってたけど、違ったのは俺の認識だな。きっと飛べないが素早いモンスターとはジェットラプトルのことだろう。


 下手に接近戦を仕掛けるとジェット噴射で躱される。まずは距離を置いて様子を見つつリーフィアに挑発スキルだけ使ってもらう。


 先に動いたのはジェットラプトル。リーフィアに向かって突っ込むが、普通に脚で走っている。

 それでもかなり早い。ジェット噴射をすれば、恐らくもっと早い。なら、使わせないように立ち回るだけだ。


「リーフィア、盾で受け止めて!ラグニアは右側面からシャインダイブ!ブルーは左側面から電光迅雷!」


 ジェットラプトルを三方向から挟む。前方と左右を塞げば、ジェットラプトルには後方にしか退路が無いが、挑発スキルで意識を正面のリーフィアに誘導しているからその可能性も消える。

 このまま距離を置かずに近接戦を続ける。下手をすると回復が追いつかないが、そこはなんとかする。

 こういう時ほどデバフを付与してステータスを下げたいって思うな。ダンジョンギミックでそれができないけど。


 よし!上手くラグニアとブルーで挟み込めた!


「リーフィア、反撃はしなくていい。とにかく攻撃を受け止めて、クールタイムが明け次第すぐに挑発!ラグニアはそのまま物理攻撃を続けて!ブルーは近距離で魔法を!リーフィアとラグニアの邪魔にならないようにね」


 このままいけば、ジェットラプトルの強みを全て殺して勝てる。しかし、すぐに状況は覆される。

 なんとゼロ距離でリーフィアの持つ盾に向かって逆噴射をし、突撃をする。

 これだけならリーフィアもなんとか受け止められただろうけど、相性が悪かった。

 リーフィアの持つカイトシールドの尖った先端部分に逆噴射しながら頭突きをする。

 下から上に勢いよく向かう力がリーフィアを若干だが、浮かす。僅かな時間とはいえ、体が宙に浮いた状態で逆噴射で突っ込んでくるジェットラプトルを受け止め続ければ、どうなるか。

 答えは簡単。宙に浮いたまま後方に持って行かれる。


 マズい!まさか正面突破されるなんて。早く立て直さないと!


「ラグニア、電光迅雷!そんで背後からカオスクローとカオスブレイク!ブルーも急いでフォローに!」


 ラグニアにコピーさせるスキルを空駆と迷ったけど、電光迅雷にしといて良かった。

 リーフィアは壁に激突したことで防御が解けているけど、ラグニアが間に合う。

 カオスクローとカオスブレイクの合技ならリーフィアからラグニアに意識を移せる。

 ラグニアに凌いでもらって、その間にリーフィアは立て直せる。


 しかし、その考えは浅はかだった。

 逆噴射はスキルだが、空駆同様にクールタイムの設定が無い。

 つまり、連続で何回でも発動できる。


 ラグニアが電光迅雷で瞬時に駆け付け、背後から合技で攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、再びジェットラプトルは逆噴射を行う。

 立て直そうとしていたリーフィアはそれを阻まれ、背後から攻撃をしようとしていたラグニアは逆噴射を至近距離で受けたことで大きく吹き飛ばされる。

 これにより、更なる窮地へと誘われるかに思えたが、ブルーのファインプレーで救われる。


 仲間を意に介さずに霹靂神と鳴神、雷霆を放っていた。フレンドリーファイアが無いとはいえ、仲間に当たれば、動きを阻害しかねない。それでも放った。ラグニアは逆噴射で攻撃範囲外に飛ばされているが、それが無ければ完全にリーフィアとラグニアを巻き込むつもりで放っていたとしか思えない一撃。だが、それに救われた。

 全体攻撃の霹靂神に続いて鳴神と雷霆の直撃を受け、ジェットラプトルの意識はリーフィアからブルーに移った。リーフィアへの追撃を行わず、真っ直ぐにブルーへ逆噴射を使って向かう。


 当のブルーはプル!とまるで計算通りといった雰囲気を醸し出しながら「来るなら来い!返り討ちにしてやる!」と言わんばかりに待ち構えている。

 正面から堂々と受け止める。誰の目にもそう映ったが、結果は違った。

 ギリギリまで引き付け、プル!と躱してプロミネンスアタックでジェットラプトルの横腹を突く。

 側面からの攻撃で体勢を崩し、逆噴射も失敗ファンブルして横に転がる。そこを見逃さずに八雷神以外の使えるスキルを総動員して追撃を行う。

 この時、八雷神を使わなかったのは八雷神の無断使用禁止令がブルーに発令していたから。

 自由奔放に戦うブルーに発令された唯一の禁止令。もうこれさえ守れば自由に戦っていいとお墨付き。←半ば諦め状態

 それ故にブルーはこれだけは守るようにしている。


 落ち着け、俺。まずは状況の確認だ。リーフィアは体勢を立て直せてるな。HPは残り6割。

 ラグニアはHPが減ってない?もしかして逆噴射で直接吹き飛ばされるのは攻撃判定ない?

 ブルーもHPは減っていない。ただ、八雷神以外の攻撃スキルは全てクールタイムに入っている。使えるのは回復魔法とディバインシールドくらい。

 そして一番の問題は3体それぞれが分断されている。合流させるならちょうど中間地点にいるブルーの元にリーフィアとラグニアを向かわせるべきか。

 ジェットラプトルの意識は恐らく、ブルーに向いている。いや、それを囮にすれば、今ならリーフィアとラグニアを安全に合流させられる。そこから挑発スキルでリーフィアに意識を逸らせば、ブルーとリーフィア、ラグニアで挟撃ができる。

 今度はさっきみたいに分断されないように注意しないと。


「リーフィア、ラグニア、ブルーの近くへ!ブルーは単独で時間を稼いで!八雷神も独断で使ってOK!」


 プル!?


「承知いたしました」


 グルグル!


 ブルー、禁止令解除は今だけだからね。もうすぐ電光迅雷がクールタイムから明ける。それに多少粘れば、鳴神とか他のスキルもクールタイムから明けるからなんとかなると思う。

 ここからはしばらくはブルーに全集中でいい。リーフィアならきっと俺の考えを理解している。準備が整えば、きっと行動に移してくれる。だから今はブルーが倒されないように必要に応じて回復の指示を出す。

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