第168話 リーフィアの全力

 遂にこの時がやってきた。

 準々決勝第1試合、蜆景虎くんとのバトル。

 もうすぐバトルステージへの入場時間だ。

 やれることは全てやった。あとはベストを尽くすだけ。



白黒モノクロ学園学年別個人トーナメントも2日目を迎えました!いよいよ1年生の部準々決勝が始まります!世間が今、最も注目しているギルド。そのギルドマスターとダークホースの大本命の激突!両プレイヤーともにまだ実力の底を見せていません!さあ両プレイヤーの入場です!!」


 わあああーーーーーーー


 昨日行われた1回戦、2回戦は見ないが、今日から行われる1年生の部準々決勝からは見るという人は一定数いる。

 今日の生配信は昨日の比じゃないほど大勢の人が見ている。それだけ世間の注目を集めている。

 これには学園長の目にも薄らと涙らしきものが。


 そうして遂にバトルの火蓋は切って落とされる。



『鬼灯蓮VS蜆景虎 バトルSTART』


「出でよ、リーフィア!」


「斬り裂け、ブレイド!」


 よし!予想的中だ。きっとブレイドを1体目に持ってくると思ったよ。これでカイゼルだったら早々に詰んでいた。第一関門突破。


「ブレイド、ソードクラッシュ!」


「リーフィア、風薙ぎ!」


「甘いな。ブレイド、ソードブレス!」


「!?空駆で避けて!」


 ブレイドの剣のような尻尾を使った攻撃。躱さずに攻撃スキルで弾き返して一気にと思ったけど、敢えてスキルを失敗ファンブルさせてそのまま風薙ぎを受け流すと顔を後ろに向けてブレス攻撃。

 ブレスは魔法でも物理でも無いから闇の盾や常薙の盾では防げない。

 空駆を使って空中にも関わらず、体勢を無理矢理変えることでなんとか直撃は避けられた。


「ブレイド、ソードスラスト!」


 攻撃の密度がエグい!

 今度は剣のような尻尾を使った連続突き。

 これを全て躱すのは無理か。


「リーフィア、闇の盾!」


「!しまっ…」


 気づいてももう遅い。一度ひとたび闇の盾で物理攻撃を防げば、相手にデバフ・状態異常を付与できる。そしたらあれが決まる。


「リーフィア、常薙の剣!」


 全然ダメージ入ってないな。でも、状況はこちらがやや有利ってとこか。

 常薙の剣が決まるようになったのは大きい。

 今のとこ時間を稼ぐことでブレイドが有利になる要素が見当たらないし、距離を置いて時間を稼ぐか。


「リーフィア、距離を置いて」


(ここで距離を置くか。時間稼ぎ狙いだな。先月行われたギルドバトルからも長期戦が苦手とかは無い。むしろ長期戦が得意という可能性すらある。なら尚のことこのまま相手のペースでは戦いたくないな)


「ブレイド、真化!」


「!?」


 はは、さすがにこれは予想外だな。

 真化が使えるとか、嘘でしょ。

 どう考えてもワイバーンってよりも竜って感じの見た目になってるよ。

 このタイミングで使うってことは時間制限なしか?



 真化、本来の力と姿に至るスキル。

 使い手によって時間制限があったりなかったりする。



 真化して竜に至ったことでデバフ・状態異常は無効化されている。さっき付与したのも解除されてる。

 これで常薙の剣は無力化された。

 くっ、さすがにこの状況は予想外すぎる。

 だって2回戦で辻峰くんとバトルした時に使ってなかった。

 俺に見られているとわかっていたから意図的に隠してたのか。


「ブレイド、ドラゴンフォース!」


 リーフィアとステータスに差はそこまで無かったと思うけど、真化とドラゴンフォースで大きく差が開いた。

 どうしたらいい。ヤバい、早く何か手を打たないと!



 この時、何故か俺はリーフィアがまだ剣士ソードマンだった時にあったブルーとの衝突を思い出していた。





 プルプル、プルプルプル!プル!


「ブルー、主が絶対です!」


 プル!プルプル!


「ダメです!」


 プルプル、プル!


 うーん何だろう。ブルーと剣士ソードマンがここまで言い合いになるとは珍しいな。

 そろそろ仲介するか。


「ブルー、おいで」


 プル!プルプル、プルン!


 相変わらず、反応が早い。

 一瞬で俺の足下までやって来たと思ったらプルンとジャンプして俺の腕の中にスっと入る。


「主は少しブルーを甘やかしすぎです」


 剣士ソードマンはそれだけ言って姿を消した。

 そしてブルーはというと、盛大にプルプルしてる。




 もしかしてあの時、リーフィアが言いたかったことって。そっか、そういうことか。

 なら今のリーフィアは。



 ブレイドの猛攻が続く中、リーフィアは一切反撃しない。


「リーフィア、もっと自由に戦って!ブルーみたいに。リーフィア本来の力を見せて!」


「…………主がいいのなら喜んで」


 するとリーフィアが今まで見たことも無いようなスキルを使い始める。

 どことなく騎士王の風刃閃に似ているが、違う。騎士王の風刃閃なら斬撃を飛ばすことはできない。

 なら天空斬りかとも思ったが、それだと騎士王の風刃閃のような攻撃に説明がつかない。

 複数のスキルの効果を持っている。つまり、今リーフィアが使っているスキルは騎士王の風刃閃と天空斬りの合技。


 リーフィアは今までブルーと違って蓮の指示に忠実に従って戦っていた。ブルーは偶に蓮の指示を無視して自分勝手に戦うことがある。だけど、その度にしっかりと結果を残している。

 ブルーがリーフィアとこのことで言い合いになっても負けない唯一の理由だ。


 根本的にブルーとリーフィアは戦い方が違う。お互いの強さを認めているが、ブルーは伸び伸びと自由に戦っている。リーフィアは殻に閉じこもり、主絶対の精神で悪手と思えるような指示にも従ってきた。

 その殻を今、蓮が壊した。

 殻に閉じこもることを辞めたリーフィアは今までよりも数段強い。



(動きが急に変わった!?まさか今までずっと本気じゃなかったのか!)


 強い。リーフィアってこんなに強いんだ。

 俺は知らなかった。リーフィアが騎士王の風刃閃と天空斬りの合技が使えると。

 でも、デメリットも大きい。合技の発動を終えた瞬間、騎士王の風刃閃と天空斬りが二つ同時にクールタイムに入る。


「ブレイド、ソードゲイル!」


 ブレイドも斬撃を無数に飛ばし、リーフィアの合技をどうにかしようと試みるが、全て撃ち落とされ、そのまま斬撃の雨に襲われる。


「仕方ないか。ブレイド、ソードブレイク!」


 斬撃の雨を真っ直ぐに突き進み、リーフィアの合技をソードブレイクで破壊する。

 これでリーフィアの力は半減する。

 そこを一気に畳み掛ける。


「ブレイド、ソードゲイルサイクロン!」


「リーフィア、ダークスラッシュ!」


 ブレイドの剣のような尻尾から竜巻が発生する。そしてこれは魔法攻撃だからリーフィアなら斬れる。

 ステータス差を感じさせない一進一退の攻防。

 途中、騎士王の風刃閃と天空斬りがクールタイムから明けたが、リーフィアは合技を使わずに応戦。

 やがてお互いのHPが3割を下回ったところでリーフィアが再び合技を使って勝負に出る。


「ブレイド、ソードブレイクでもう一度破壊しろ!」


「リーフィア!!!!」


 誰もが再び、ソードブレイクで合技が破壊されると思った。しかし、リーフィアはその想像を遙かに超えて見せた。

 合技の発動中に闇の盾を発動し、ソードブレイクを上手く防いだ。

 結果、ソードブレイクは闇の盾を破壊し、合技は破壊できなかった。

 そうしてそのままゼロ距離からの連続攻撃でブレイドのHPは0に。


 間違いなく、あの合技が無かったらあのステータス差でブレイドのHPを半分以上削るのは無理だったろう。

 それほどまでに凄まじい威力だった。

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