第7章 常夏の白黒祭

第100話 はじめましてね

 ギルドマスター決定戦が終わって少しして今は白黒モノクロ学園の終業式が行われている。


「皆さん、夏休みだからといって、羽目を外し過ぎないように!白黒モノクロ学園の生徒という自覚を持って行動してください。私からは以上です」


 長い学園長先生の話がやっと終わる。

 中には俺みたいなLet's Monster Battleプレイヤーに向けた話もあった。

 これはこの後クラスで詳しい話があるみたい。


 クラスに戻ると教壇の前にいる市川先生が全員いることを確認してから話始める。

 内容はもちろん、Let's Monster Battleプレイヤーに関わることだ。


「えっと、このクラスは全員対象ね。知ってる人もいると思うけど、Let's Monster Battleをプレイしている生徒は夏休みに白黒モノクロリゾートに行きます!そこで毎年恒例行事の"常夏の白黒モノクロフェスが開催されます」


 常夏の白黒モノクロフェス

 白黒モノクロ学園の夏の風物詩とも言える一大イベント。

 白黒モノクロ財団が独自にリゾート開発をした無人島を舞台に約1ヶ月かけて行われる。

 これは普段、交流の無い上級生との交流イベントも兼ねている。

 ここでしか上級生との交流を取る機会は無いので、俺たち1年生にとってかなり貴重なイベントだ。


「今、皆さんに配布したパンフレットに必要な持ち物などがいろいろと載っています。これから配布するこの紙に皆さんのチーム分けが載っているので、必ずこちらも確認して下さい。同じチームの上級生の名前くらいは事前に覚えておいてください!」


 あ、そうか。だからか。

 莉菜がギルド結成の話を持ってきた時に返事は夏までって言ったのはこのイベントを見越してのことか。

 実力が拮抗してて、同じギルドに所属していたら同じチームになる可能性が高いって聞いたことある。

 えっと、やっぱり郁斗たちと同じチームだ。

 上級生は……。

 え、マジでこの人たちが同じチームなの?



「さすがに俺らは同じチームだったな」


「まあ同じギルドの仲間だからね」


「でも、驚いたわ。同じチームに加わる上級生2人があの人たちって!」


「はい。アメリカにいた時からお2人の名前は聞いたことあります。すごい方たちとチームを組むことになりましたね」


 チームは基本的に1年生が4人、2年生が1人、3年生が1人の合計6人。

 この割り振りにはかなり重要な意味がある。

 上級生は総じてランクの高い生徒が多い。

 Let's Monster Battleは高校生以上が対象のゲーム。まだ始めたばかりの1年生はランクが低い生徒が多い。


 そして上級生の数を3人にするとランク変動型ダンジョンがその上級生だけで攻略できてしまう。

 それでは交流イベントの意味が無い。

 2人という人数だと自身のランクより低いランクのダンジョンでも無双は厳しい。

 Dランク以上のダンジョンはほぼ全てモンスター2体で攻略できる難易度では無い。

 だからこそDランクからCランクに昇格するのにはかなり時間のかかるプレイヤーが多い。


 もちろん各チームの1年生のランクなどの実力を考慮して上級生を割り当てているが、実力のある1年生チームほど例年苦戦する傾向にある。



 時刻は午後2時少し前。

 1人の生徒が普段では決して立ち入ることの無い白黒モノクロ学園の貴賓室の前まで来ている。

 この生徒はこの日、この時間にある人物とこの中で会う約束をしている。

 これから会う予定の人物がかなりの有名人だからか緊張している様に見える。

 それにまだ約束時間前だが、中に入って良いのか悪いのか。

 基本的に約束の5分前には待ち合わせ場所にという話はよく聞くが、それが今回も適用されるのかどうか。


 既に時刻は午後1時58分。

 時間まであと2分しかない。

 ここは思い切ってドアをノックするべきかと思案していると突然、そこを通りかかった女性に声を掛けられる。


「あら、そんな所で立ってないで中に入れば良いのに」


「え?………」


 ここを訪れた生徒は驚きのあまり声が出ないようだ。

 今、この生徒の前に立っている金髪ショートボブの女性こそ正真正銘、12神序列1位の新垣輝夜。


「さあ、中に入って話しましょ」


「え、あ、は、はい」


 俺は言われるがままに貴賓室の中に入る。

 ヤバい。今、目の前にいる女性があの新垣輝夜さん。

 ホントに俺なんかと会ってくれるなんて夢みたいだ。


「そこのソファーに座って」


「あ、は、はい。ありがとうございます」


 机を挟んで俺の対面のソファーに新垣輝夜さんが座る。

 すごく緊張する。

 こんなに緊張するの初めてかも。


「まずは自己紹介からかな。はじめましてね。私は新垣輝夜。よろしくね」


「あ、はい!はじめまして。えっと、俺は鬼灯蓮です。よろしくお願いします」


「そんなに緊張しなくていいのよ。一回深呼吸でもして落ち着く?」


 深呼吸、

 スーーーー、ハーーーー、スーーー、ハーーー

 ちょっと落ち着いたかも。

 でも、まだ緊張してる。


「少しは落ち着いた?」


「はい。でも、まだ緊張してます」


「正直なのね。普通に会話できるくらいには緊張も溶けてるみたいだし、少し雑談でもしましょ」


 え?雑談?

『遊楽園』について話をすると思ってたけど、違うのかな。

 もしかしてシグマさんから詳細が伝わってないとか?

 いや、だとしたら何で俺とこうして会ってくれるんだ?

 わからん。


「あ、そうそう。私もシグマと同じで君のこと蓮くんって呼んでもいい?私のことは輝夜って呼んでくれたらいいから」


「は、はい。大丈夫でしゅ」


 あ、こんなとこで噛むとか恥ずかし過ぎだろ。

 ヤバい、今絶対に俺の顔めっちゃ赤いよ。


「ふふ、一つ聞いてもいいかな?蓮くんは何でLet's Monster Battleを始めようと思ったの?」


 俺がLet's Monster Battleを始めようと思った理由か。

 この人にそれを面と向かって話すのはちょっと恥ずかしいな。

 いや、もう今更か。


「えっと、12神祭で輝夜さんとジャスパーさんのバトルを見て、それがめっちゃかっこ良かったから」


「……」


 めっちゃ目を見開いる。ドン引きしてるよ、これ。

 はあ、何でこうなったんだろう。


 すると輝夜の蓮を見る目が突如として鋭くなる。

 貴賓室には重たい空気が漂う。


 ゴクリ、


「ちなみに私とジャスパー、どっちの方がかっこ良かった?」

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