第83話 郁斗VSオリヴィア③

「出でよ、コン」


 状況は五分に見えるけど、カーラはゴーストタウンの効果で悪魔の祝福によるデバフ・状態異常を付与されている。

 今も尚ゴーストタウンは継続して展開されている。

 カーラの攻撃には闇属性が付与されていて、攻撃すればするほど相手モンスターのデバフ・状態異常を悪化させることができるけど、今回はそれを逆手に取られた。

 攻撃すればするほど付与するして悪化させる筈だったデバフ・状態異常は反射されて自分自身に返って来る。


 極論、郁斗は時間稼ぎに徹したらカーラは状態異常によって自滅する。


「コン、影分身、陽炎、蜃気楼」


 稲荷狐の祈りを使わない。

 やっぱりデバフだけじゃなくてバフも反射するのかな?

 これでその可能性は高そうだな。


「カーラ、ダークウェーブ」


 今までコンの陽炎と蜃気楼のコンボを正面から破られた記憶はあまり無い。

 ほとんどのモンスターは幻に囚われて本来の力を発揮できない。

 俺も対策の一つとして考えていたけど、広範囲をまとめて攻撃すれば影分身が消えて破れるのではないか。


 俺の予想は正しかった。

 ダークウェーブみたいな範囲攻撃スキルを完全に回避することはできないみたいだ。

 今のでコンの影分身は全て消えた。

 でも、まだ本体が残っている。

 きっとこの後本体が陽炎と蜃気楼を発動する。


「ダークウェーブってクールタイムそれなりに長いよな。次はどう防ぐ?コン、陽炎、蜃気楼!」


 郁斗の言う通りだ。

 ナイトメアを完全に封じられた上に陽炎と蜃気楼のコンボを突破する方法もない。


「オリヴィア、どうするのかな?」


「わざわざ影分身を消した訳だし、何かしらの策は用意していると思うわよ」


 それからバトルは膠着状態に陥った。

 郁斗もオリヴィアも何一つ指示を出すことなく、待ちに入った。

 郁斗の場合、状態異常によるスリップダメージで少しでも多くカーラのHPを削れたらって感じかな。

 オリヴィアの方は何だろう。

 ダークウェーブがクールタイムから明けるのを待ってるとか。

 それだとコンの影分身のクールタイムも気になるところだな。

 あまりオリヴィアには待つメリットが無い気がする。


 いや、待てよ。

 コンの本体が今、陽炎と蜃気楼を両方発動してるよな。

 確か、同一個体が両方同時に発動させると効果時間が極端に短くなるデメリットがあった気が…。

 それを別々の影分身に発動させることで解消してた筈。


 それならもうそろそろ陽炎と蜃気楼のコンボは時間切れになる。

 そしたらすぐに時間切れになってコンの居場所が明らかになる。

 ここからオリヴィアは時間との勝負になる。


「この時を待ってましたよ、郁斗!カーラ、闇刺突」


「上等!コン、紅蓮の誓い、二尾の焔」


 カーラは近接戦を仕掛けてコンはそれを受けて立つ形となった。

 闇を纏った槍と炎を纏ったコンが激突する。

 巧みに槍を弾き、二本の尻尾でカーラを薙ぎ払う。


「コン、狐火、鬼火!」


 コンの二本の尻尾で薙ぎ払われたカーラは為す術なく、狐火と鬼火をくらったように見えた。

 その余波で黒煙が立ち上っている。

 カーラとその周辺を覆う黒煙が消えた時、郁斗の顔から余裕が消えた。

 カーラはコンの狐火と鬼火をノーダメージで凌いでいた。

 僅かにHPは減っているが、これは状態異常によるスリップダメージによるものだろう。


 どうやって凌いだのかわからないけど、後で映像を見返すとしよう。

 スロー再生で見返せば、何かしらわかると思うし。


 カーラの残りHPは5割を下回っている。

 状態異常によるスリップダメージで徐々にHPが減っているとはいえ、それも微々たるもの。

 最低でもコンはあと2、3回は攻撃を直撃させないと倒せない。

 でも、それはカーラも同じ。

 元々、ステータスにかなり差があるからデバフで低下していてもコンが圧倒的に有利って訳じゃない。

 現状のステータスにはほぼ差は無いと考えた方がいい。

 そうなると攻撃手段の多いカーラが有利となる。


 終始、郁斗が上手くバトルを進めているように思えるけど、実際はややオリヴィア優勢って感じかな。

 コンは持てる攻撃スキル全てを使い果たして、今はクールタイムに入ってるし。


「今がチャンスです!カーラ、プチダーク、ダークボール、ダークウェーブ、霞連槍!」


 今しかない、そう判断したオリヴィアは一気に攻めに転じる。

 ここでコンを倒す。カーラからもその意志が伝わってくる。


「コン、とにかく躱せ!」


 郁斗もも打てる手がないのか、指示が大雑把だ。

 それでもこの窮地を乗り越えたら郁斗の勝ちが見えてくる。

 ここが勝負の分かれ目。

 少なくとも今、戦っているオリヴィアはそう考えていただろう。

 でも、郁斗はここを勝負の分かれ目とは考えていなかった。

 郁斗の中では既に勝敗は決している。

 そこまで先の展開が見えていた。

 そう、自分が勝つとこの時、郁斗は確信していた。


 カーラの猛攻も最初は何とか回避できたが、ダークウェーブに被弾したことでコンに大きな隙が生まれた。

 カーラにとって最大の好機とも言える状況。

 一気に間合いを詰めて霞連槍を繰り出そうとする。

 それが郁斗の用意した罠だとも知らずに。


「今だ!コン、稲荷の境界線」


 コンが稲荷の境界線というスキルを発動するとコンの数メートル前に一本の線が引かれた。

 そしてカーラがその線の上を飛び越えた時、何も起きなかった。


 え?あの線を越えたら何かあるんじゃないの?

 もしかして踏んだらとか?

 いや、郁斗がここまで温存していたスキルだし、きっと何かある筈。


 何も起きないままカーラの槍はコンを捉えようとした。


「コン、二尾の焔!」


 その瞬間、郁斗は二尾の焔で迎撃するよう指示を出す。

 しかし、このタイミングではカーラの槍の方が先に相手を穿つ……筈だった。


 カーラの槍はコンを捉えかけたが、結果だけ見ると空振りに終わり、コンの二尾の焔が直撃した。

 何が起きたのかわからないままコンによる更なる追撃を受けカーラのHPはスリップダメージも合わさって0になる。


『カーラ DOWN』


 ここで決着!

 郁斗VSオリヴィア、勝者は郁斗!


 念願叶って郁斗はオリヴィアへのリベンジを達成した。

 勝負を決めた最後のあの瞬間何が起きたのか、それはオリヴィア、蓮、莉菜と3人とも理解していた。


 稲荷の境界線、恐らく境界線を越えた相手モンスターとコンを入れ替えるスキルかそれに類するスキル。

 カーラの霞連槍でコンを捉えたように思えたあの瞬間にカーラとコンの位置が入れ替わった。

 それによってコンはカーラの無防備な背後を取った形となった。

 カーラとしては気づいたら背後から攻撃を受けていたって感じだろうな。


 郁斗が今回のバトルで使ったスキルって初見殺しが多いな。

 あ、でもスキルってどれもこれもそんなものかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る