第61話 タッグEトーナメント3回戦 莉菜&オリヴィア

『時間になりました。タッグEトーナメント3回戦 姫島莉菜&オリヴィア・ブラウン VS山森和也&天田恒星を開始します』


『バトルSTART』


「降臨せよ、エルナ」


「君臨せよ、カーラ」


「出でよ、グルド」


「来い、ユキメ」


 グルドは豹っぽい見た目から人類種の獣人だな。

 さすがにこの見た目なら間違いないでしょ。

 魔法適正があるかどうかまではわからないけど、基本的に近接攻撃主体かな。


 ユキメという名前のモンスターはたぶん妖怪種の雪女かな。

 名前とか雰囲気とかが雪女って感じがする。

 ユキメはグルドとは正反対で魔法とかによる遠距離攻撃主体って感じがするな。

 それに妖怪種特有の妖術にも警戒しないといけない。


 正直、この相手と当たらなくてよかった。

 相手にするとかなり面倒な感じだな。


「エルナ、シャインランス、プチシャイン」


「カーラ、ダークウェーブ」


「ユキメ、極寒の地、凍てつく風」


「グルド、疾風蹴、豹爪」


 エルナとカーラの入りは何時と通り。

 エルナは光魔法で相手の出方を窺う。

 カーラはダークウェーブを使って相手2体にデバフ、状態異常を付与しにかかる。


 それを山森和也と天田恒星は想定していたのだろう。

 対策は万全のようだ。

 ユキメが妖術、極寒の地を発動する。

 これにより、自身の攻撃力を大幅に上昇させる。

 所謂、自己バフ付与スキルだ。

 そして、凍てつく風によってエルナとカーラの放った攻撃を完全に相殺する。


 グルドは空を飛ぶ相手に打点となるスキルをあまり持っていない。

 典型的な魔法適性を持っていない獣人だ。

 しかし、それを全く別の方法で補っていた。

 豹の獣人は脚力に定評がある。

 その為、疾風蹴で相手に攻撃ではなく、地面を蹴ることで一時的ではあるが、とんでもない跳躍力を見せる。

 それは遥か上空にいるエルナに勢いよく迫る。


 エルナを標的に選び大ジャンプしたが、その前にカーラが立ちはだかる。

 グルドがカーラを選ばなかったのは槍を装備していて近接戦ができ、且つ闇魔法があるからだ。


 一方でエルナは双銃を装備していることから近接戦が苦手と思われる。

 それに回復魔法まで使える。

 早々に落としておかないと後々厄介になる。

 だからこそ、まずエルナを落とそうと考えたが、それはカーラに防がれる。


「カーラ、闇刺突!」


 オマケに不自由な空中で闇刺突をもらってしまった。

 これではカーラのナイトメアの餌食となってしまう。


「追撃します。カーラ、ナイトメア!」


 グルドは今の攻防でHPを半分ほど削られてしまった。

 これで迂闊に今みたいな攻撃はできなくなった。


「ユキメ、凍てつく刃、凍てつく烈風」


 今度はユキメの放った魔法がエルナとカーラを襲う。

 明らかにおかしな点がある。

 凍てつく刃のは氷の刃を飛ばす魔法と思われるが、その刃の数がおかしい。

 数十、数百はあるのでは、それくらいの数が迫っている。

 恐らく、ユキメが最初に使った妖術、極寒の地で強化された影響だろう。


 それに加えて凍てつく風の上位魔法スキルと思われる凍てつく烈風も迫っている。


 ブルーならディバインシールドで防ぐけど、エルナとカーラはどうするのかな。

 全て躱すとかは無理あるよな。


「カーラ、ダークウェーブ」


 先に動いたのはカーラだ。

 範囲攻撃魔法のダークウェーブで少しでも威力を殺す構え。


「エルナ、刃の方を撃ち落として!」


「カーラは烈風にプチダーク、ダークボール」


 ダークウェーブで威力が落ちた凍てつく刃を正確な射撃で撃ち落とす。

 そして凍てつく烈風はカーラが今度は完全に相殺しようとする。


 エルナとカーラも持てる力を最大限に発揮して抵抗したが、防ぎ切れなかった。

 それでも被弾を抑えたことで倒されるとまではいかなかった。


 この時、エルナは残り4割、カーラは5割までHPが削れた。

 このタッグEトーナメントで初めてエルナとカーラが大ダメージを負った。


 しかし、直ぐにエルナの方はプチヒールで全回復した。

 その為、実質的な被害はカーラのHPが5割ほど削れただけに留まった。


「グルド、疾風蹴」


 再びグルドが疾風蹴で地面を蹴り、大ジャンプする。


 これじゃあ、簡単に迎撃されるだけじゃ。

 何か意味でもあるのか。

 だとしたら…。


「今だ!裂空蹴撃!!」


「ユキメ、凍てつく風」


 !!?

 なるほど。そうきたか。

 フレンドリーファイアがないのを利用する。

 このまま時間が経過すればグルドはカーラにナイトメアで倒される。

 だからこそ、今動いたのか。


 グルドは疾風蹴で大ジャンプをし、エルナとカーラがそれを迎撃しようとした瞬間、烈風蹴撃で虚空を蹴りつけて空中で更なる大ジャンプをした。

 そのタイミングでユキメが地上から凍てつく風をグルドに向けて放った。

 凍てつく風が追い風となり、一時的にとんでもない機動力を得て、カーラに突撃する。


「グルド、豹爪乱舞!」


「カーラ、霞連槍!」


 ギリギリのタイミングでカーラは反応したかに見えたが、コンマ数秒遅かった。

 剣とかなら問題なかったが、槍を扱うには近すぎる。

 本来なら空中という不自由な場所、翼のあるカーラの方が有利の筈。

 それでも今、この時だけはグルドがカーラを圧倒していた。


「ユキメ、凍てつく刃、凍てつくやじり!」


「エルナ、グルドにシャインランス。それからスターフレイムショット!」


 カーラの不利を察して直ぐにユキメとエルナが動いた。

 ユキメはエルナにカーラを助けさせないように。

 カーラはグルドをカーラから引き剥がす為に。


 両モンスターの放った攻撃は攻撃に意識が傾いていた相手に直撃した。

 その影響でグルドは地上に落下していく。

 そこをすかさずカーラのナイトメアが襲い掛かり、グルドは倒れる。


「グルド DOWN」


 グルドを倒したことで一安心したのか、エルナとカーラには少しの油断があった。


「ユキメ、凍てつく烈風!」


 空中にいようが魔法は飛んでくる。

 至極当たり前のことだが、近接戦主体のグルドとの肉薄した戦いを終えたばかりでユキメの存在がカーラの頭から消えていた。

 エルナはまだユキメへの警戒を怠っていなかったが、一番の問題はカーラのHPを回復をすることを忘れていたことだ。

 ユキメの放った攻撃は妖術、極寒の地と相まって威力が大幅に上昇していた。

 それを正面からまともに受けた。


『カーラ DOWN』


 このタッグEトーナメントに入って初めてカーラが倒れた。

 この結果を得て、残りはエルナとユキメのみとなる。


 ここから激しい魔法の撃ちあいを想像した観客は多かっただろう。

 しかし、現実は無情にも呆気なくバトルの幕は閉じる。


「エルナ、ロックオン、フレイムランス、ファイアボール、プチファイア」


 エルナの攻撃に対してユキメは一切の反撃をしない。

 否、できない。

 ユキメの攻撃スキルは全てクールタイムに突入している。

 カーラを落とすのに全力を注いだ影響だ。

 無抵抗でエルナの攻撃を全て受ける。


『ユキメ DOWN』


 何とも言えない幕切れ。

 しかし、全力を尽くして戦ったその姿は誰が見ても誇らしいものだった。

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