革命前夜
春雷
第1話
「よし、では、明日の革命の具体的なプランについて、ホワイトボードを用いて説明する」団長は言った。
ここはとある廃墟。僕らは、明日の革命について、団長から説明を受けている。講義形式で行われており、団長の前に40名ほどの部下が、一列八人で並んでいる。僕は視力が悪いのにも関わらず、遅れてやって来てしまったために、一番後ろに座ってしまった。これでは、ホワイトボードに何が書かれているか、まったく見えない。メガネも忘れてきてしまった。
「では、この見取り図を見てくれ」団長はそう言うが、僕には見えない。「ユガリラ卿の部屋がここにある。そしてここに、コグラコンギュラの像がある」
待て、何だその像は。何だ、コグラコンギュラって。
「これがコグラコンギュラの写真だな」団長は写真を指差す。見えない。頑張って目を細めて見ると、うっすら、何枚か写真が貼られていることがわかる。
「違います、団長」部下の一人が指摘する。「それはコグラコンギュラじゃなくて、コゲラマニギュラです」
「ん?」団長は首を傾げる。「こっちがコグラコンギュラで、こっちがコゲラマニギュラ。じゃあこっちは、コギャラマンギャラか」
「違います。それはコゴロギャンギャラです」
「コグリガンギャラ?」
「コゴロギャンギャラです」
「コグルケンギュラ?」
何の話だよ! 全然わかんねえ! くそ、視力が低いばっかりに。
「じゃあ、こっちがゴギリゴギギュラか」
「違います。それはシンプルなチンパンジーの像です」
何だよシンプルなチンパンジーの像って! シンプルなチンパンジーの像はわかるけど、何でシンプルなチンパンジーの像が国王の城にあるんだよ。
「違うよ、それはチンパンジー似の妃の像だよ」
チンパンジー似の妃の像かよ!
「あ、じゃあこれもチンパンジー似の妃の像か」団長は言う。「妃ってコグラコンギュラにも似てるんだな」
妃ってコグラコンギュラにも似てるのかよ! 何だよコグラコンギュラって!
「違います、団長。それはコゲラマニギュラです」
どっちでもいいよ!
「そうか。ということは妃はチンパンジーに似ていて、かつコゲラマニギュラにも似ていると言うことか」
「そうです。ついでに言うと、ググリグルギュリにも似てますね」
「ちょっと待て。一旦整理しよう。妃は何に似てるんだっけ」
団長、もうそこはどうでもいいよ! 明日、革命するんだよ? 妃が何に似てるかの議論してる場合か?
「妃って、団長の彼女にも似てねえか?」誰かがそう呟く声が聞こえた。
それ間接的に、団長の彼女がチンパンジーに似ているって言ってるのと一緒じゃねえか。失礼だろ!
ん? いや、まず妃に失礼か。ん? 妃は悪政を敷いてる側の人間だし、チンパンジーの方に失礼か。ゴンギングラグラにも失礼だったかも。ん? 待て、ゴギギュラギルギュリだったっけ。何だっけ。一体誰に失礼なんだ?
「つまり」団長は纏める。「妃は、コゲラマニギュラ、コゴロギャンギャラ、ギンギンギャンギャラ、グゴンゴンゴラ、グギリギリガラ、ゴゴゴグラギュラ、そしてチンパンジーにも似ているという結果になったな。この議論については、賛否がわかれやすく、まだまだ議論が深められそうだが、このあたりでやめておこう。日も暮れてきた」
確かに外はもう、真っ暗になっている。
「では、この辺で切り上げよう」団長は言う。「それでは皆、明日は城の前に集合。そのまま革命。で、現地解散。雨天中止だ。いいな?」
はい、という威勢のいい部下たちの声。
ちょっと待て。妃が何に似ているか、ということしか話し合ってないぞ。革命のプラン全然聞いてない。え、どうすんの?
その翌日、団長がうまくやって、僕らは無血革命を成し遂げた。僕は隙を見て、団長に話しかけた。
「団長、ゴグラとか、ググラとか、結局何だったんですか。妃はチンパンジー以外に、何に似ているんですか。僕、そのことを考えると夜も眠れなくて」
「ああ」団長は僕の方に向き直り、こう答えた。「エノ自然公園という所にいる、ゴリラたちの名前だよ。あそこにはたくさんの妃、じゃなくてゴリラがいるんだ。服を着ているのが妃、着てないのがゴリラ。そう見分けるんだ」
革命前夜 春雷 @syunrai3333
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