第62話
でも一体どうやって?
どういう方法で警護の隙を狙い、2人の女を拉致しろというのか。 それに、九空の怪我も問題だった。 しかし、選択肢を結局、一つ選ばなければならない。 これは強制力だ。 既に確認済みだ。 飽きるほど確認した。
やはりアイテムに頼るしかなかった。 まだ今回のレベルに追加された新たなアイテムを確認していなかったから。
俺は選択肢を適当に選んだ後、すぐにロードした。
そして、また再びトイレへ向かった。
九空の前で指を動かしながらアイテムを整備するのは不可能だから。 俺は便器のふたを下して座り[アイテムショップ]を読み込んだ。
[Lv.5 スカウター70万円]
[睡眠スプレー25万円]
[万能キー60万円]
[カメラ10万円]
[変身薬100万円]
[望遠鏡70万円]
[ストップウォッチ3千万円]
[眼鏡50万円]
[イヤホン80万円]
[鉛筆40万円]
[サングラス100万円]
[薬200万円]
[包帯1千万円]
[外車5千万円]
[国産車8百万円]
とりあえず新たに追加されたアイテムは薬と包帯だった。
[薬200万円を購入しますか?]
[包帯1千万円を購入しますか?]
2つの中に、どうか治療効果のあるアイテムがあることを願いながら、購入ウインドウをタッチした。 それから、所持アイテムに入った。 そして、薬の詳細説明からタッチした。
[薬][1粒]
[飲むと一日の記憶がなくなる。]
うーむ。 漠然としている。 いや、今は必要ない。
俺に必要なのは拉致に必要なアイテム。
[包帯]
[全ての負傷を治療する。]
[使用回数2回]
[使用すると少しずつ傷跡を再生する。 ただし、傷が大きければ大きいほど、再生に時間がかかり、傷跡が残ることもある。]
包帯は名前と効果が似たような物だった。 九空の傷を治療できるアイテムに見えた。 それに、俺が怪我をした時にも緊要に使えそうだ。
しかし、どう拉致するかという、根本的な解決にはならなかった。 無形剣のスキルには限界がある。 四方に広がっている九空の警護員全員を倒すことができない。
畜生。 何かいいアイテムはないだろうか。 アイテムの存在意義は、ゲームを攻略するための道具なのだ。 即ち、この状況で使えそうな物は必ずあるはずだった。 攻略不可能なゲームでなければ。
[Lv.5 スカウター70万円]
[睡眠スプレー25万円]
[万能キー60万円]
[カメラ10万円]
[変身薬100万円]
[望遠鏡70万円]
[ストップウォッチ3千万円]
[眼鏡50万円]
[イヤホン80万円]
[鉛筆40万円]
[サングラス100万円]
[薬200万円]
[包帯1千万円]
[外車5千万円]
[国産車8百万円]
確認していないアイテムは[ストップウォッチ]、[外車]。 とりあえず外車は除外。 お金が足りなかったから。 答えはストップウォッチしかなかった。 勿論、ストップウォッチもなかなかの金額だが。 今は買うべきだった。選択肢を突破するためには、拉致に使えるようなアイテムが必ず必要だ。 そうでなければ、無限に反復するだけだろう。
[ストップウォッチを3千万円で購入しますか?]
購入ウインドウをタッチした。 そして確認のために所持アイテムに入った。
[ストップウォッチ]
[時間を停止させることができる。]
[時間停止時間は5時間。]
[本人を除いた存在する全てのものが止まってしまう。]
[生命体の場合、時間停止発動時には、硬直した状態になるため、要注意。]
[取扱注意:硬直すると壊れやすいため、注意すること。 壊れたものは、停止が解除されても回復不可能。]
[使用回数1回]
そう。 まさにこれだ。 これ。
これならいくらでも誘拐することができる。 時間が止まってくれれば、いくら多くの警護員たちが潜伏していようが関係ないだろう。 勿論、1回に3千万円というのは、少し狂った金額ではあった。 しかし、このうんざりする無限ループより脱出できるなら、この金額も惜しくない。
俺はこの状況を打開するだけのアイテムを見つけ出したことに喜び、トイレでそのままセーブまで完了した。 そして、急いで席へ戻ってきた。
九空は両手で頬杖をつき、その指は自分の頬をトントンと軽く叩いていた。 つまらなそうな表情。
そして、また始まる反復された場面。
彩の包丁が九空を攻撃する。 そして選択肢が再び登場。
[選択.1 九空の状態を窺う。]
[選択.2 彩と逃げる。]
[選択.3 九空を誘拐する。]
手に汗が流れた。 緊張感に唾を飲み込んで3番を選択した。 そして、所持アイテムへ入って、すぐにストップウォッチを読み込んだ。
[ストップウォッチを使用しますか?]
この瞬間、警護員は既に引き金を引いている最中。
幸い、銃から銃弾が飛び出してくる直前に[ストップウォッチ]が発動した。
世界のある全てのものが止まってしまったのだ。
選択肢が現れて視野が白く包まれる時も、全てが止まる。 勿論、その時は俺も動けない。 しかし、今は違った。 世界は止まったが、俺は自由に動けるようになったのだ。
制限時間は5時間。 感傷に浸っている時間などはなかった。 俺はまず九空の傷を見た。 相当深く刺された傷。 ただ[ストップウォッチ]によって硬く固まった状態だったため、出血までも止まっていた。 むやみに触ったりして壊れてもいけないので、治療は後に回して外に出た。 ちょうど食堂の前の道路を走っていて、止まってしまった車があった。 駆けつけて、前の座席のドアを開けて、運転手を気を付けて歩道へと降ろした。 固まっているので、壊れるかも知れないという心配から、細心の注意を払った。
俺には車が必要だった。 九空と彩を車もなく誘拐するのは馬鹿な真似なのだ。 [ストップウォッチ]の効果がなくなる前に、できるだけ遠くへ逃げなければならないから。
硬く固まるのは生命体だとあったから、車は使用可能だろう。 確認するために、止まっていた車のアクセルを慎重に踏んでみる。 すると動き出した。 確認を終えた俺は車を停めておき、再び店の中に戻って、九空の体から丁寧に抱きあげた。 先運んだ男よりははるかに軽かった。 ただ、落としたら壊れるという圧迫感が、先とは比較にならないほど強かった。 そのためか、彼女を完全に運び終えるまで、結構な時間がかかってしまった。
九空を助手席に運んだ後、シートベルトで固定したが、それでも何だか不安だった。 揺れた衝撃でひびでも入ったら終わりだから。 だから、近くのコンビニへ駆け込んだ。 コンビニで包帯を見つけ、ガムテープまで揃えた。
そして、再び車へと突っ走って戻り、九空の体と前の座席をガムテープでくるくると巻いて固定した。 それから彩を運んだ。 彼女は殺害に失敗した後、後ずさりしている状態で固まってしまったので、後部座席に座らせるのは不可能だった。 座ったまま固まった九空とは違う状態だった。
だから、仕方なく後部座席に寝かせることにした。 そして先と同様、ガムテープで固定。 後にこのガムテープを除去するにはハサミが必要だと思い、再びコンビニへ走って行き、ハサミまで揃えて車に乗った。
出発しようとすると、急に携帯に対する心配が募った。 九空を誘拐したのだから、当然位置を追跡されるだろう。 それなら、携帯を持っていることは、むしろ毒になり得る。 電源を切っておけば、電波が発生しないというが、それもわからないことだ。 だからと言って、捨てるわけにもいかないため、再び、コンビニからジップロックとレジ袋を持ってきてスマートホンを入れた後、食堂のトイレに戻り、便器の水タンクにそれを入れた後、店を後にした。
調べてみたが、彩は携帯を持っていなかった。 おそらく仕事中は食堂に保管しているようだったので、ようやく車を走らせて出発することができた。
そして、これからが苦難の始まりだった。
都市を離れる時までは車をよけて、ジグザグに走らせて、道がふさがって前へ行くのが不可能な状況では、車を乗り換えるという行動を、何度も繰り返さなければならなかった。 その度にガムテープが減っていく。
高速道路に入るまでずっと、そんなことをしていると、あっけなく時間が流れてしまった。
勿論、高速道路は状況が少し良かった。 車がかなりまばらになっていたので、スピードを出すことが可能だった。
既に夕方の通勤時間が過ぎていたおかげで、車両の通行が多かったのが、不幸中の幸いとも言えよう。 ジグザグ移動を終わらせ、高速道路を走り始めた俺は、頭の中でどこへ行くべきかと悩み始めた。
正直、悩んだからと解決する問題ではなかった。 ただ遠くへ行けばよい。できるだけ遠くに。
走ってみると車はOOOを通り過ぎていた。 [ストップウォッチ]の制限時間は、後30分程。 時間停止が解ける前に目的地を定めた方が良いだろう。 そうしてこそ、完璧に痕跡をなくすことができる。 そうなれば、まるで店から瞬間移動をしたようだろう。 高速道路の上で時間停止が解けるのは、避けなければならないため、がむしゃらに車を走らせた。
そしてまた、名前も知らない道をしばらく走った。 すると、周辺に農家が見えた。 そこに車を止めて村を見回した。 真っ暗な村にはぽつりぽつりと家があったが、俺が今探しているのは、廃家だった。
[眼鏡]を使って暗い村の中を歩き回り、雰囲気がとても陰惨とした家を一軒発見した。 どう見ても捨てられた家だった。
最近の農家は若者らが離れていく傾向にあるため、空き家が多いとは聞いていたが。
勿論、再び帰農する若者層も多いとは言うが…。 とにかく、俺の探して求めていた空き家があったのだ。
神様からの救いだと思いつつ、俺は車に戻ると、驚いてしまった。 二人とも意識が戻っていたからだ。 彩は縛られた体を何とか捻って大暴れをしていて、九空は腕の痛みのせいか、絶えずうなり続けていた。
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