第3話 ボクス・ボクスターの不思議な箱。
我輩は箱である。名は一応あるが、現在の
名は重要であるからして、そもそも軽々しく明かすものでは無いのだ。
我輩の主の名はボクス・ボクスターという。視界を遮らぬ青灰色の髪に体躯は2メルト近く、頑強な骨格に鍛錬で培われた鋼の肉体を纏い、四角四面を絵に描いたような実直で堅物な気質である。
主は寡黙であり、少々……いや、かなり誤解されやすい。常に黙している為、内の心情が読み取り難いのが災いして他者から避けられ易いのだ。
主もその点は認識しているが、然程気にした様子は無い。唯一ある人物を除いては。
「……お嬢、朝です」
「ふにゅ……はーよー。ボクっち」
ん~! と両手を拡げ主を見据える小柄で金髪、褐色肌の女。主は宿の寝具に仰向けるその女を覗き込んだまま……固まっている。
構わず主を見続ける女。次第に主の相貌から僅かな発汗が。所謂、冷や汗という物だ。
女は主の主である。正確には女の属する家の当主より下命されての事だが、我輩には些事であり大差は無かろう。
これは主に構って欲しいが故の ”抱き起こせ” の合図であるが、当然ながら主の立場上不用意に触れてはならぬという葛藤により動けずにいるのだ。
「お嬢、それは……」
「むぅ。毎度毎度ケチくさやなぁアンタ。どうせアタシの裸ぐらい見た事あんねやろ?」
「……お生まれになられた頃には、少々」
「ほならこれからナンボでも見せたるがな。……ほら、
傍から見れば傲慢な高位の娘と翻弄される従者にしか見えぬが、女は主に触れて精気を補充したいだけである。
女にとって主の精気は濃密であり、この上ない美味なのだ。
心配せずとも、主は小娘如きに精気を吸われた程度では死にはせん。向こうもそんな下らぬ真似はやらんだろうがな。
それよりも、こうまで露骨な言動をされても靡かぬは主の篤い忠義心か、はたまた只の鈍感か。
我輩は箱である故、挟む口は無い。黙して見守るのみである。
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