能力のせいで幸せが逃げだすこともある

五色ひわ

お題は『めがね』

 俺は第三王子であり、勇者の肩書きを持っている。王族の中で魔力が一番高いため、男なのに聖女の能力まで受け継いでしまった。


 これらの能力があれば、本来は皆から尊敬され、華やかな生き方をしていることだろう。しかし、残念な……素晴らしいことに、我が国はここ十数年、平和そのものだ。


 能力を発揮する場に恵まれず、役立たずのような扱いを受けている。


「そろそろ、何か仕事をしないとだよな」


 俺は自室のソファーに寝転びながら呟く。平和だからといって、ずっとゴロゴロしているわけにはいかない。年に二回ある財務会議が近いので、勇者に支払われる給金が減らされる恐れがあるのだ。


 のんびりとした暮らしをするにも資金は必要だ。仕方がないので、ぼんやりと陳情書のリストを眺める。


「これなんかどうでしょう? 日帰り出来そうですよ」


 雑用係が一枚の紙切れを持ってきた。俺は内容を確認して飛び起きる。


「良いかもな。行くぞ」


 そのまま、財布を握りしめて街に出た。



 雑用係が俺に渡してきたのは違法魔道具の告発文だった。王都の端の道具屋で違法な眼鏡型の魔道具が売られているらしい。


「王子、まさか買う気ではないですよね?」


「そんなわけ……お前が財布を持ってるなんて珍しいな」


「証拠保全の観点から客を装う必要があると思ったんです」


 雑用係は真剣な顔をしようと頑張っているが、頬が緩みきっている。


「俺も同じだ。一つずつ買って違法であることを確かめてから摘発しよう」


 俺と雑用係は頷きあって王都で一番治安の悪い地域に入った。だが、治安が悪くても恐れることはない。逆にこういう場所にいる者は、勇者である俺を恐れ……


「なんか、仲間意識を持たれていないか?」


「気のせいですよ」


 柄の悪い奴らがニンマリと笑って道を開けてくれている。通りやすいが何だか腑に落ちない。


「ここですね」


 薄暗い道の奥には、いかにも怪しげな看板をさげたお店があった。資料にある道具屋で間違いないだろう。


「すみませ〜ん」


 雑用係が警戒もせずに扉を開ける。変装を提案しようと思ったが遅かった。


「これはこれは勇者様。貴方様も例のものをお求めですか?」


「はい! 僕の分と二つ下さい!」


 雑用係が元気よく言って眼鏡を受け取る。警戒心もなく、その眼鏡をかけて俺の方を振り返った。


「王子って筋肉質ですよね。鍛えているところなんて見たことないのに狡いな」


「男を見ても楽しくないだろう?」


「そうですね。早く大通りに行きましょう」


 雑用係がニンマリと笑う。この眼鏡は服が透けて見える魔道具だ。店主の説明によると、麻と綿と絹を感知するらしい。


 すごい技術だが、もちろん違法だ。


「王子もどうぞ」


 俺は雑用係から眼鏡を受け取……


 パン!


 魔法が発動する気配を感じて、俺は慌てて眼鏡をかける。


「王子、どうしました?」


 俺の視線の先にいる雑用係は絹のローブを着ている。何で黄色なんて選んだのだろうとは思うが、今はそれどころではない。


「……」


 どうやら、漏れ出した聖女の能力のせいで魔道具が壊れたらしい。違法な魔道具はどうしても邪な魔力を帯びてしまうのだ。


 ボンッ!


「うわっ、眼鏡が爆発した!」


 俺は聖女の力を強めて王都を覆った。俺が使えないならば、王都の秩序を乱すだけのガラクタだ。


「違法魔道具製作の容疑で逮捕する。こんなものを俺が本気で欲しがっていると思ったか?」


 俺は悔しさを隠して冷淡な声で言った。



 終

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