眼鏡から始まる冒険譚!
ろくろわ
第1話 眼鏡はいつでもかけてます
この世界にきて、私は信頼している眼鏡の事を初めて心底恨んだ。いや、正確には眼鏡を信頼している自分の事を恨んだのだ。
何故このようなことになってしまったのか。
それは私の眼鏡歴史を見てからにして欲しい。
私の視力が低下し、眼鏡をかけ始めたのは小学六年生の頃から。眼鏡をかけるまでは、視力が下がっている事にも気が付かないものだが、一度眼鏡をかけた世界を見てしまうと、まさに世界は一変する。
それまでボヤけていた事にすら気が付かなかったものまでハッキリと見え、近付き過ぎていた距離も適切なものとなった。見える事で自分の身体の使い方も随分上手くなったものだ。
そんな眼鏡と付き合い、かれこれ二十年。
いくら眼鏡をかけていても視力は徐々に低下していき、定期的な検査の後に新しい眼鏡を作ることも増えた。
新しい眼鏡はフレームが軽くなったり、レンズが薄くなったり、ブルーライトがカットできたり。その機能も増えていったのだが、私の生活において変わらない事が一つだけある。
それはお風呂の時に眼鏡をかけたまま入る事だ。
多数派なのか、少数派なのかは分からないが、兎に角お風呂と言うあの無防備な状態で見えない事は、恐怖以外の何ものでも無いのだ。更に私は想像してしまう。
もし眼鏡をかけず、避難しないといけない状態になったら?
もし眼鏡をかけず入浴中に異世界へ転生してしまったら。
生まれたての一糸纏わぬ姿で行動するなど私には無理だった。そんなわけで、私はお風呂に入る時も眼鏡をかけるのだ。
さて、冒頭に戻る。
今日もいつもと変わらないはずだったのだが、生憎今日に限り、服を脱ぐ時に誤って眼鏡を折ってしまったのだ。更に不運は続くもので、
再び目を開いてもボヤけた世界しか見えず、ただ聞こえた神らしきお方の言うことで、何となく異世界への転生と望むものを何でも与えると言うことだけが分かった。
だから俺は迷わず選んでしまったのだ。
「眼鏡が欲しい」
と。
神は願いを叶え、異世界へ辿り着いた私の目には再びハッキリと新しい世界が見えた。
そしてそこには一糸纏わぬ姿で眼鏡だけ装備し、囲まれたモンスターになす統べなく困り果て、一歩も進むこと無く既に詰みの状態の俺がいたのだった。
俺は何故眼鏡を選んでしまったのか。
それはこのピンチを切り抜けなければ考えることもできなそうだ。
それともう一つ。もしピンチを切り抜けたとして裸のおっさんが街に入るのにも一悶着ありそうだ。
続く。
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