第19話 仲直りをさせようとしていたら……
「
「や」
あれから数日が経ったが、未だに仁凪と
枢木君は学校には来るものの、絶望した顔で生活してるようで色んな女子が慰めていた。
心ここに在らずの枢木君は全て無視だったけど。
「枢木さんも頑固だよね。まぁ二宮君を嘘でも悪く言ったんだから仕方ないんだけど」
「僕は気にしてないんだけど。仁凪、家ではどうしてるの?」
「になはやればできるこなので、ひとりでせいかつしてる」
仁凪と枢木君は二人暮しのようで、基本は枢木君が家事全般をやっているらしい。
だけどそれは仁凪が火事をできないからではなく、枢木君の過保護からのもので、仁凪は大抵のことがやればできるらしく、枢木君と話せない今の状況でも苦労はないとのこと。
「買い物とかどうしてるの?」
「いままでのおこづかい」
「それはいつか底をつくのでは?」
「そうしたらそうくんちにおじゃまする」
「
僕としては全然構わないけど、
枢木君のメンタルの為にも。
「仁凪はさ、お兄さんに助けられたことがあるでしょ?」
「ある」
「なんで二宮君がそんな事知ってるの?」
「なんとなく?」
言い換えると鎌をかけたになるけど、枢木君なら仁凪を助けたことは絶対にあると信じた。
逆にないはずもないと思ったし。
「になね、そうくんとあうまでひとりぼっちだったの」
「いきなり重い話始まるぞ」
「吉良さん茶化さないの」
「ごめんなさい」
せっかく仁凪が枢木君との仲直りに踏み出そうとしてくれているのだから、真面目に聞かなくては駄目だ。
たとえそれが仁凪の踏み込んではいけない領域だったとしても。
「いーの?」
「お願い。仁凪のことを教えて」
「ん。になはへんなこなの」
「変じゃない」
「二宮君、話の腰を折らないの」
つい反射的に反応してしまった。
これでは吉良さんに何も言えない。
「そうくんはいいひと。でもほかのひとはになをへんだっていうよ」
「見る目のない」
「そっか、二宮君は一応初めて枢木さんを認識した時から『いい人』って認識なのか」
「吉良さんは違うの?」
「答えにくいことを。まぁ不思議ちゃんだとは思ってたよ。だからって嫌いとかはなかったけど」
吉良さんが仁凪のふわふわな髪をぽんぽんと撫でる。
仁凪はそれを嬉しそうに受ける。
「ゆうちゃんもいいひと。になはひとりなのはぜんぜんへいきだったんだけど、こまることはたくさんあったの」
「困ること……」
なんとなく察しはつく。
「そうくんはやっぱりいいひと。おにいがかってくれたふでばことか、ランドセルとか、たいそうふくのときはいっぱいわらわれていっぱいおこられた」
「二宮君、怖いから」
吉良さんにそう言われて、僕は眉間の辺りに力がこもっているのに気づく。
最近こんなことばかりだ。
「仁凪ってさ、相当頭いいよね?」
「それね。話すと分かるけど、舌っ足らずに聞こえるのは喋り慣れてないだけだろうし、見た目が幼いだけで言葉の意味とか裏とか全部分かってるよね」
仁凪は僕以上に言葉を理解している。
ただ反応するのがめんどくさかったりで適当になることはあるが、僕よりよっぽどちゃんとしている。
「になとはなしたいひとはいないから」
「僕は後悔してるよ。入学式の日に話してれば学校生活をもっと楽しめただろうし」
「になもそうおもうよ。そうくんがわすれんぼだったから」
「わすれんぼ?」
仁凪が少し不貞腐れたような顔を僕に向ける。
「やっぱりおぼえてない。そうくんとになはもっとまえにあってるの」
「……」
仁凪が更に不貞腐れてほっぺたが膨らんできた。
「あ、かわいい」
「そうくんにほめられた」
「枢木さん、二宮君にそんな気はないだろうけど騙されてるよ」
「そうくん?」
吉良さんにあらぬ疑いをかけられたせいで仁凪に睨まれる。
怖くはなく、逆にかわいらしいのだけど。
「ごめん、ほんとに思い出せない」
「むぅ。そうくんきらい……じゃない」
「すごい手のひら返し。枢木君は嫌いになったのに」
「おにいはそうくんにひどいこといったからだもん。そうくんのはになにとってはたいせつなおもいでだけど、そうくんにとってはあたりまえのことでなんでもないからしかたない」
仁凪はそう言うが、僕を完全には許してくれないようで、未だにほっぺたを膨らませている。
「仁凪、僕といつ会ったの?」
「にゅうしのひ」
「入試……あ」
思い出した。
確かにあの日、僕はとある女の子と話した。
そしてその面影が仁凪と重なる。
「あの泣いてた子?」
「うん。そうくんに『大丈夫?』っていわれた。そうくんはおぼえてなかったけど」
仁凪のほっぺたが更に膨れる。
確かに覚えてなかったけど許して欲しい。
あの頃は今よりも
彩葵を言い訳に使いたくないけど、高校受験を諦めようかと本気で思うぐらいには彩葵のことが心配だった。
「泣いてたって?」
そんなことを考えていたら吉良さんが首を傾げながら聞いてくる。
「おにいといっしょにきてたんだけど、おにいがおんなのこにかこまれてたからちょっとはなれてたの。そしたらおにいがいなくなってて」
「寂しくなって泣いてたところに二宮君が登場したと?」
「うん。おにいがみつかるまでずっととなりにいてくれたの」
あの時の僕がそんなことができたのは仁凪が彩葵と重なったからだ。
色々なことがあって精神的に疲れて泣いていた彩葵と、枢木君とはぐれて心の拠り所のなくなって泣いていた仁凪。
勝手に二人を重ねてほっとけなくなったのだ。
「じゃあ二宮君と枢木君も顔見知りなの?」
「ううん、にながおにいをみつけてバイバイした」
「僕も確かすぐに帰ったかな?」
「帰りだったんだ。二宮君が彩葵ちゃんと会うことよりも優先したってこと?」
「そうだね。泣いてる仁凪をほっときたくなかったんだよ」
彩葵と重なったから。そこに他意はきっとない。
「だからになはびっくりしたの。おとなりがそうくんで」
「言ってくれれば良かったのに」
「だってそうくんつまんなそうだったから。あのときはおはなししなかったけど、おはなししてきらわれるのがこわくて」
「理由がかわいいな。二宮君との運命的な出会いは分かったけど、枢木君に助けられた話は?」
「えっと、になのふでばことかをかくしたひとをみつけて『なにか』したの」
仁凪の言う『なにか』がなんなのかは分からない。
だけどそれを聞いたら枢木君を見る目が変わる気がするから絶対に聞かないでおく。
「じゃあ助けてくれたお返しに許してあげたら?」
「……おにいがどげざしたらゆるす」
「すごい百歩譲って感がすごい。枢木さん二宮君のこと好きすぎでしょ」
吉良さんが小さく笑いなが言う。
「すきだよ?」
「友達としてでしょ? 絶対にそれ以上──」
「んーん。そうくんへの『すき』はけっこんしたいの『すき』だよ?」
仁凪が首を傾げながら不思議そうに言う。
嘘を言ってるようには見えないし、そもそも仁凪が嘘を言うとは思わないけど、あまりの発言に吉良さんが固まる。
「す、少し前にわかんないとか言ってなかったっけ?」
「そうだっけ? でもになはそうくんとけっこんしたいよ?」
「……これがオーバーフロー」
吉良さんがよく分からないことを言って更に固まる。
「そうくんはになのことすき?」
「好きだけど、僕にはこの『好き』が仁凪と同じなのかが分からない」
「たぶんね、かんがえかたがちがう」
「考え方?」
「そうくんは『すき』のりゆうをさがしてる。なんですきなのか、ほんとうにすきなのかって」
仁凪の言う通りだ。
そしてそれが間違っているとも思わない。
「それはいいわけ」
「言い訳?」
「どうしたらすきなのかじゃなくて、このひとがすきってじぶんがきめるの」
「でもそれが分からないんだよ」
仁凪の言う通りに誰かを好きだとしても、それが本当かどうかが分からない。
「またかんがえた。『ほんとうに』とかはいらないの。このひとをすきになりたいでいいの」
「好きになりたい……」
仁凪の考え方は僕とは真逆のものだ。
僕はどうしたら『好き』になるのかを事前に考えているが、仁凪は『好き』になりたい人を好きになる。
「ほんとうにすきかなんてかんけいないの。すきになったらすきなんだから」
「好きになったら好き……」
とてもしっくりくる。
好きになるのに理由はないというのを否定した僕だけど、理由は本当にいらなかった。
そんなの好きになってから見つければいいのだから。
「おへんじはいいよ? そうくんがになをすきになってからで」
「分かった。少し待ってて」
「ん」
しっくりはきたけど、だからって仁凪を好きになっのかと言われれば少し違う。
僕の中ではまだ仁凪は友達なのだから。
そして仁凪と向き合うならもう一人の友達とも向き合わなければいけない。
今も固まっている友達と。
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