【KAC2024】眼鏡【KAC20248】

御影イズミ

それはお守り

「昔からずっと気になっていたのだが、エーリッヒ殿は眼鏡を外そうとしないんだな」


 ルナールから発せられた唐突な疑問。それは彼が幼い頃から疑問に思っていた事柄の一つ。

 エーリッヒ――燦斗が眼鏡を外したところを見たことがないと。


「そうですか? まあ、普通は外しませんよ」

「だが、視力に関しては問題ないと先生から聞いている。おしゃれ……とは程遠い気もするのだが?」

「ふむ、父にそこまで聞いていましたか」


 燦斗の父エルドレットはルナールの家庭教師をしていた縁、そして彼を虐待から保護して家族として引き取った縁もあってそれなりに自身の子の情報を渡している。

 だが、そこまで話されるとは思ってもいなかったのか、燦斗は何やら悩む様子を見せた。

 眼鏡をかける理由を話すか、話さないか。これはエルドレットにさえ伝えていない極秘の情報があるのだという。


「では先生には内密にしましょう。何かあったのですか?」

「……実はですねぇ」


 燦斗は告げる。眼鏡をかけていないと、誰にも見えていないモノが見えてしまうのだと。

 特に燦斗と同じ研究に参加したフェルゼンやエーミール、ヴォルフやベルトアの周囲にはよく、浮遊霊のような、黒い何かがまとわりついているそうだ。

 まるで笛の音に集まった人々がパレードを織りなし、いずれ来る破滅の未来へ押し出そうとしているような……そう見えて仕方がないのだそうで。

 だから、燦斗は眼鏡を外そうとはしない。その未来に押し出される道理は持ち合わせているが、それが見えるようになるのは誠に遺憾だと。


「霊障の類、あるいは視野領域の狭窄なども考えられるが?」

「でも、この眼鏡をかけていると黒いのも見えなくなるんですよねぇ」

「ふーむ……」


 不思議そうに燦斗の眼鏡を眺めるルナール。

 黒縁の眼鏡はまるで燦斗の目を守るかのように、静かに彼の前へ立つ。

 その未来には決して到達させないし、見せることはない。そう告げるような雰囲気が醸し出されていた。

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