めがね猿
野林緑里
第1話
私は生まれつき斜視だった。ゆえに視力が悪くて度数の大きなメガネを掛けていたのだ。
幼い頃からメガネ。
いまではそういう子供が増えているんだけど、私の子どものころはメガネを掛けている子供なんてそんなにいない。少なくとも私のクラスには私一人だ。
度数の大きなメガネを掛けている私の目というのは周りから見れば大きく見えていたらしい。
ゆえにだれからかわからないけど私のあだ名は「めがね猿」だった。
正直いやだった。
だって猿じゃん!
あの猿だよ。
猿!
猿がメガネかけているってことじゃん。
小学生低学年だった私は実際に「メガネザル」と呼ばれる動物を知らなかったゆえに、なんかすごく馬鹿にされている気がしてならなかったのだ。
だから「めがね猿」と呼ばれるたびに「メガネ猿じゃない!」と怒っていたことを覚えている。
「メガネザル」という生き物の存在を知ったのはいつだったかな?
たぶん高校生ぐらいのころ。
初めて出来た彼氏と動物園へ行ったときだったんじゃないかなあ。
なんかものすごく可愛い動物がいたんだよね。
大きな目が特徴の動物だった。
私は一瞬で気に入り、暫くの間見ていたんだよね。
「なんだよ。そんなに気に入ったわけ?」
「うん。かわいいわ。ものすごくかわいい」
「確かにメガネザルは可愛いよな」
「え?」
私は彼氏の言葉に振り返った。
「なにそんなに驚いてんの? もしかしてメガネザル初めてみるのか?」
私はコクリと頷いて、再びメガネザルをみた。
へえ。これがメガネザルなんだ!
猿がめがねをかけているんじゃなくて、「メガネザル」という生き物が存在していたんだ!
私はなぜかものすごく感動してしまった。
かわいい!
かわいすぎる。
そのとき、ふいに「メガネザル」と毎日のように言っていた男の子のことを思い出す。
「やーい、メガネザルうう」
まだ全然声変わりにしていない男の子の甲高い声が私をからかっている。
そのたびに苛立ちを覚えて男の子を怒る。
男の子は逃げて、私は追いかける。
そんなことを繰り返していた毎日だったように思う。
いま思うとあの男の子は私のこと好きだったのかな?
私が可愛いよと言いたいのに「メガネザル」と言っちゃったのかな?
なんてね。
「おい、何笑ってんだよ」
「別にい。次見に行こう」
私はニコニコしながら彼氏の腕を掴んで歩き出した。
あの男の子はなにしているんだろうなあ。
もうずいぶんと会っていないような気がする。
まっいっか。
私はもう一度メガネザルのほうをみる。
メガネザルはこちらに振り向くことなくただ木の上でくつろいでいる様子だった。
私に興味ないか。
私も「メガネザル」だったんだけどなあ。
まあいまは違うけどね
そんなことを考えていた。
めがね猿 野林緑里 @gswolf0718
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