#83 ゆうべはおたのしみでしたね
冬の朝。
布団から出るのは、どこの世界でも至難の業だ。
が、それ以上に慣れ親しんだ日課をしないでいる違和感の方が耐えられなかった。
えいや、と勢い込んで、寝床から這い出る。
「さっぶ!」
ベッドから転げ落ちると、キンと冷えた床板が足裏を刺してくる。
冷たい。とにかく冷たい。
先ほどまで春みたいな温もりに包まれていたせいで、余計に冷たく感じる。
「……うぅーん、レオン。起きたの?」
「あ、う、うん」
「おはよう」
「お、おはよう」
布団の中から顔を出し、寝起きのとろんとした顔を向けてくれるシェリ。
あらわになっている魅力的な首から肩にかけてのライン、ふんわりと柔らかな胸の谷間に、また少しドキドキする。
「寒いから、ちゃんと毛布をかけな」
「ふふ、いつも通り優しいね」
「ちゃ、茶化すなって」
上目遣いから優しく微笑まれて、思わず照れる。
うー、なんか顔が熱い。
「日課?」
「ああ」
「偉いね。気を付けていってらっしゃい。ん」
「っ!?」
頬にちゅっとキスされた。
シェリさん、あなた朝一からなんて甘々しいのかしら?
顔から湯気が出そう!
「い、いってきます!」
「はーい」
胸のところに毛布を巻いてこちらに手を振る姿が、なんともセクシーすぎました。
うーん、たわわ。
見ていたら若干姿勢が前のめらざるを得ない(?)感じになったので、そそくさと部屋を出た。
あぁ、本当……。
たわわでやわわだったなぁ……。
◇◇◇
日課を終えた俺は、さっと五右衛門風呂に浸かり身を清めてから、出かける準備をしていた。冷気にさらされる風呂と着替えの間が、一番冷える。
革鎧などの基本装備の上から、防寒用の毛皮のマントを羽織る。
今日は晴れているが少し雲があるので、天気が崩れるかもしれない。悪天候への備えは万全にしておかなければ。
冬の自然界における準備不足は、即、命の危険に繋がるからな。
「さて、行くとするか」
数日前にシェリが食糧が不足するかもしれないと言っていたので、俺は今日、近場で食材集めをすることにした。
「肉はセントラ山に入ったときに結構獲ったしな。魚を狙うか」
村から続く道をてくてくと歩きながら、俺は独り言ちる。
クラーケンを撃破した際にタコは食べたが、やっぱりタコでは『魚食べたい欲』は満たされないからな。がっつりと魚肉!という感じのお魚をいただきたいところだ。
たとえば、シャケ。サーモン。
バターで焼いてそのままバクっといったり、シチューに入れても最高だ。
他には、サバとかもアリだな。
一番好きなのは味噌煮だけど、ただ焼くだけでも食べ応えがある。
あとはホッケなんかもいいなぁ。
よく一人飲みでホッケの開きを肴にして日本酒をくいっとやったっけ。
「おっと、いかんいかん。よだれが……」
想像していたら、思わずよだれが垂れそうになった。
うー、魚食いたいぞ。
「ガル!」
「お、クロエ」
と、俺が魚料理に思い馳せていると、背後から追い付いてきたらしいクロエがいた。今日は人型ではなく犬型である。
「クロエ、その姿だと喋れるのか?」
「ガル……グゥー、ちょっと、しゃべりにくひ……」
「あーごめんごめん。無理に話さなくていいよ」
ちょっと気になって聞いてみたが、無理矢理にしゃべらせたいわけではない。
人間と犬では口の形が違うからなのだろう、下足らずな感じになっていた。ま、それもそれで可愛いのだが!
近寄って、クロエの頭をナデナデする。するとクロエは目を細め、気持ち良さそうに鼻を鳴らした。
「よーし、じゃあ二人で魚獲るか。な!」
「ガル!」
いい返事をくれたクロエをもう一度撫でてから、俺たちは川へ向けて歩き出した。
少し歩くと、中々に幅のある川が現れる。
以前に上流の方で、魔族の発生があった川だ。キラーベルーガなんかも出現していたが、今はどうなのだろうか?
「グルルル」
「ん? クロエ、どうした?」
クロエの鼻がぴくり、と一度動いた。もしかしたら、獲物がいるのかもしれない。同時に、周囲を警戒する。
俺は索敵魔法を発動させながら、ゆっくりと川縁に近づいていく。
「うわ、冷たー」
川を流れる水に触れてみると、とんでもなく冷たかった。
ひやー、これは長時間入っていたらヤバいな。
「っ!?」
と、美しい流れに見入った、一瞬。
バシャアアアアッ!!
「うお、出たぁぁっ!?」
川面から、弾丸のように飛び出してきた。
巨大なシャケ――エンシャントサーモンだった。
おーし、バシバシ獲るぞ!!
:【体力】が上昇しました
:【魔力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【運】が上昇しました
:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました
:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました
:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました
====================
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
読者の皆様の応援が書く力になっています!
更新がんばります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます