#48 魔王

「魔王……ッ?」


 眼前の三頭六腕、巨体の魔族が発した台詞を、オウム返しする俺。

 レオンとしての俺の命の行く末を握る魔王が、なぜここに?


「「「何度も言わせるなよ。俺が魔王だって言ってんだろ。こうべを垂れろ、こ・う・べ、を」」」


 三つある顔から、同じ言葉が吐き出される。それは三つの声が重なり、まるで怪音波のようだ。

 もしこの声を精神的に弱っているときに聞いたら、それだけでメンタル的なダメージが発生しそうだった。


 ……不快を煮詰めて絞ったような、そんな声だ。


「「「……あぁ? なんだよオメェ、めっちゃイイ女連れてんじゃん」」」


 一瞬、俺の後方へと目をやった魔王が、ニタリと口角を吊り上げた。

 その下卑た表情がとにかくおぞましく、全身に鳥肌が立った。


 いや、それだけが理由じゃない。

 ――圧倒的な魔力に、寒気を感じているからだ。


「俺の仲間に、手は出させんぞ」

「「「は? 意見なんて聞いてねっつの。弾けろボケ」」」

「っ!?」


 と。

 ヤツがくい、と一本の指先を上げた。


 途端に。

 下腹部の臓器が爆裂したような、灼熱の高温が腹の奥に発生した。

 

 俺は咄嗟に魔力を腹に集め、熱を相殺するイメージを持って呼吸した。

 一瞬で噴き出した額の冷や汗が、こめかみを伝って流れた。


「な、なんだ、今のは……?」


 悪寒が駆け巡り、俺は思わず膝を着いた。いかん、そんな場合ではないというのに。


「「「へぇ。俺の『破裂』で弾け飛ばないヤツがいるなんてな。……クソ生意気だわ、失せ死ね」」」

「ゴフっ!?」


 魔王の言葉を聞いた刹那。

 左半身が爆裂したかのような衝撃が俺を襲った。


 三腕による右フックが炸裂したのだと気付いたときには、すでに数メーター先の地面を抉るように吹き飛び転がされていた。


「レオンさん!」「レオンっ!!」


 ぶっ飛ばされた俺を心配したアリアナとシェリが、同時に叫ぶ。

 打撃されると認識した瞬間、俺自身の生存本能が作動したのか、ケルベロスウェポンを立てるようにして防御していたので、致命的なダメージを受けずに済んだ。


 だが……ダメージを受けたこと自体が、かなり久しぶりだった。


「本物、みたいだな」


 明確なダメージに、否応なく緊張感が高まる。

 出会い頭に言っていたヤツの言葉が、嘘ではないのだとわかってくる。


 この強さ。

 ヤツは本当に魔族の頂点――魔王なのだ。


「「「まだ生きてるとか。ウケるな、オメェ。ゴキブリみてぇな生命力じゃん」」」

「っ!!」


 瞬きする間に距離を詰め、容赦なく追撃の拳を放ってくる魔王。

 俺は集中を高め、それらを剣で弾いていく。


 相手は腕が六本ある。

 いくら一閃で三撃喰らわせるケルベロスウェポンと言えど、今までの倍速で剣を振らねば対応しきれない。


「「「はは、なんだよなんだよ、粘るねぇ」」」


 軽薄な調子のまま、破壊的に重たい拳を幾度となく撃ち込んでくる魔王。

 ヤツにはまだ、有り余るほど余裕がある。


 俺は――まだ余力がある。

 しかし、先程の魔力の圧や魔法の扱い方を見るに、魔力総量や魔法の実力ではおそらくコイツに敵わない。


 だったらこのまま、近接戦闘を続ける方が得策だ。

 そして、今の自分の能力すべてを総動員して、あわよくばここで魔王を倒し切る。


 俺は攻撃に転じるため、隙を見つけるべく魔王を睨んだ。


「「「くく、オメェ今、俺を殺せるとか一瞬でも考えなかったか?」」」

「な、」

「「「魔王の俺に人間ごときが敵うわけねぇだろ」」」

「ガぁっ!?」


 しかし、反撃を試みようという思考から見抜かれ、俺はヤツの魔法によって全身に電撃を受けた。

 どうやら、拳に雷属性の魔力を込め、それを俺が受けたせいらしかった。


「く、くそ……」

「「「おいおい、まだ倒れんなよ? 俺がせっかく本気で遊んでやるってんだから、もう少し踊れ」」」


 魔王は一切詠唱せず、魔法名すら叫んでいない。いわばノーモーションで魔法を発動させているのだ。

 それはさすがにチート過ぎやしないか……?


「『アイシクルストーム』!」


 俺はヤツの動きを止めるため、その足元へ向かって氷の魔力を密集させた。

 が。


「「「はい無駄」」」

「な?!」


 氷はヤツを避けるように周囲を凍らせただけで、足の指一つにすら影響を及ぼしていなかった。


 それどころか。


「「「氷属性の魔法はな、こうやって使うんだ」」」

「うああぁっ!?」


 ヤツが目線を下に向けただけで、俺の膝下が凍り付いた。

 氷点下の冷たさが、足を突きさすように痛めつけてくる。


「くっ!」

「「「くっくっく。ウケるわ、その恰好。いつまでもそうしてろよ、クソ凡人が」」」


 俺はその場に固定されてしまい、その場で上半身を動かすことしかできなくなる。

 氷を叩き割ろうと拳を振り上げるが、魔王の魔力によって作られた氷はびくともしない。


「「「さぁて。女どもをいただいてくとするか」」」

「「……!」」


 ヤツの意識が俺から離れ、アリアナとシェリに向いたのがわかった。


「よ、よせ! やめろっ!!」


 俺は動けず、叫ぶことしかできない。


「「「うるせーハエは黙ってろよ」」」

「が……っ!?」


 今度は口元に集まった氷の魔力が、俺の鼻と口を覆った。

 ぐ、こ、これじゃ息が……!


「わ、私たちも……戦いましょう!」

「え、ええ! 二人でなら、きっと……!」


 なにかの覚悟を決めたらしいアリアナとシェリが、身を低くして構えた。


「「「くふふ、いいねぇ、いいねぇ! 抵抗する女を無理矢理するのもまた一興ってなぁ!!」」」


 心底嬉しそうに、高笑いする魔王。

 ダメだ、よせ、やめてくれ。


「ッ…………!!」


 必死にもがくが、氷にはヒビすら入らない。


 こうなったら――足を切り落としてでも。

 俺は決意し、剣を振り上げた。


 さすがに恐ろしくなり、瞼をきつく閉じた。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

:【一般パッシブスキル『超生命力』】を獲得しました

:【魔法狩猟師のパッシブスキル『魔法反撃』】を獲得しました

====================

貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

読者の皆様の応援が書く力になっています!

更新がんばります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る