#30 業火ヘルファイア
「クロエ! とにかく走れ!!」
「ガルゥ!!」
「お、おいどうしたんだよ!?」
ヘルファイアの事前動作を察知した俺は、クロエに向けて叫んだ。
状況を飲み込めないヴァンの声が、背中から届く。
「すまん、今説明してる余裕はない! 逃げなきゃ死ぬ!!」
「マ、マジかよ!?」
ヘルファイアを見たこともないヴァンには、俺の焦りがあまり伝わっていないらしかった。だが、そんなことはお構いなしに、俺はとにかくクロエを急かした。
ヘルファイアをくらうわけにはいかない。
間違いなく死ぬ。
エンシャントドラゴンの放つ鬼畜攻撃ヘルファイアは、その名の通り辺り一帯を消し炭にする凶悪な攻撃だ。
端的に表現するなら、大災害級の火炎放射みたいなもの。
ヤツの狙いが俺たちに向いている今なら、地上に被害が出ることはない。
ただし、空中という遮蔽物のない場所で、その広い攻撃範囲から逃げ切れるかわからない。
逃げ切れなければ、終わりだ。
「……っ!」
駆けだしたクロエの背で、俺は冷静にドラゴンとの距離を目算する。
……まずい、この距離じゃどんなに飛ばしても、攻撃範囲外には脱出できん!
「……だったら!」
俺はそこで考えを転換する。
遠く離れて回避できないなら――ゼロ距離まで近づくしかない。
「クロエ、反転だ! エンシャントドラゴンの口元に向かって走れ!」
「ガルッ!!」
指示に合わせて、クロエが迅速に身体の向きを変える。
「お、おい! それじゃ危ないんじゃないのか!?」
「いいんだ! ここからじゃ攻撃範囲外には逃げ切れない! だったら逆に、ヤツに近づいて火炎の死角を突く!」
「わ、わかった!」
俺はクロエにぐっとつかまり、態勢を低くした。状況に翻弄されているヴァンが、同じように俺の背にしがみついた。
おや……ヴァン、確かに女の子だ!(こんなときに雑念が!)
とにもかくにも、今はクロエの瞬発力が頼りだ!
「頼むぞ、クロエ!」
「ガウン!」
「よーし、いけ!」
風のように、空中を翔るクロエ。速度に比例して風圧がびゅんびゅんと高まるが、歯を食いしばって耐える。
「ギグルルゥゥゥゥ……」
エンシャントドラゴンが、広げていた翼を一瞬たたんだ。そして顎をさらに引き、射殺すような眼でこちらへ睨みを利かせてきた。その凶悪な面構えからは、こちらへのヘイトがありありと感じられた。
くそ、パワーチャージが完了したか!?
「ガウッ!?」
「クロエ!?」
と、そのタイミングでクロエの身体が、不自然にぐっと沈み込む。
こんなときに、エアリフトの効果が切れた?!
最悪のタイミング――背筋が、凍り付く。
「我が身に宿る精霊よ、その御身を司る風を巻き起こし、翼となりて我を羽ばたかせよ――『エアリフト』!」
「ヴァン!」
が、ヴァンが素早く魔法を詠唱してくれる。
「あきらめるには早いだろ!」
「ああ、そうだな!」
「ガウッ!!」
再びクロエに浮遊感が戻り、速度も元に戻る。
眼前に迫るエンシャントドラゴンの巨大な顔から、焼け付くような温度が放たれている。
ヘルファイアが、来る。
「ギギャアアアアアアアアアアアアア!!」
「「間に合えぇぇぇぇ!」」
「ガウルルゥ!!」
咆哮するエンシャントドラゴンの、洞穴のように巨大な口の奥。
燃え滾る業火が渦巻き、放たれようとしたその瞬間。
クロエが滑り込むように、ドラゴンの頭の横を突っ切った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォ!!
「かわせた!」
「やったな!」
「ガルルゥ!」
なんとか、ヘルファイアをかわせた。
俺たち三人は、全員で小さくガッツポーズする。
が、それも束の間。
「あ、熱いっ!」
エンシャントドラゴンの口から吐き出された炎熱が、空中の温度を一気に引き上げている。
青い空は姿を消し、灼熱地獄と見紛うような真っ赤な炎が辺り一面を包む。
「クロエ! 常にヤツの後頭部へ回り込むように移動を続けてくれ!」
「ガルッ!!」
ヘルファイアをかわされたと気付いたドラゴンは、俺たちを狙って口をこちらへ向けて動かした。だが、小回りではこちらに分がある。
この零距離で死角に移動し続ければ、火炎を吐き出している間は攻撃し放題だ!
「反撃のチャンスだ!」
俺は汗を拭って、叫んだ。
:【体力】が上昇しました
:【魔力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【知力】が上昇しました
:【精神力】が上昇しました
:【運】が上昇しました
:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました
:【猟師】の職業熟練度が上昇しました
:【一般パッシブスキル『死角強襲』】を獲得しました
:【一般パッシブスキル『死地脱出』】を獲得しました
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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
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