#28 エンシャントドラゴン
「エンシャント……ドラゴン……だと?」
太陽の光を完全に遮るほどの巨体が、上空を横切った。
呆然とした表情のヴァンが、か細い声を漏らしている。
エンシャントドラゴンは『LOQ』最強のユニークモンスターで、裏ボスのような存在だ。
誰にも、何にも縛られず、常にこの世界中をランダムに飛び回っている最強生命体。その生態系は不明で、神出鬼没とされている。
実際にはどこにでも現れる可能性があるにはあるのだが、遭遇確率は極端に低く設定されており、その存在自体が激レアなものだった。
その確率は、三周に一回会えるか会えないかだとネット掲示板に書かれているのを見た。
そんな存在が、なぜこんなタイミングでここに……?
やはり、俺が本筋にない行動を取ったせいで『
……いや、今は考えている暇はない。
「こうしちゃいられない! 急げ、ヴァン!」
「あ、ああ」
俺は自分を鼓舞する意味も込め、大声でヴァンを呼んだ。
そしてクロエの背中に飛び乗り、自分の後ろにヴァンを引っ張り上げる。
すでにクロエは、人二人を背に乗せて駆けることなど造作もない大きさに育っている。いつもなら遠慮するが、今回ばかりはクロエのスピードに頼らざるをえない。
「しっかり捕まってろ!」
「お、おう」
「いくぞ、クロエ!」「ガォォン!」
クロエの背の長い毛を掴み、態勢を低くする。そうしてクロエの全速力に耐えられるよう備える。
上空のエンシャントドラゴンの動向を注視しつつ、行く先々の人々へ避難を促しながら走る。
「なんてデカさだよ……っ。あんなヤツが降りてきたら、村なんてひとたまりもない……!」
後ろから、ヴァンの切羽詰まった独り言が聞こえてくる。
俺の肩を掴むその手も、小さく震えているのがわかった。
「……大丈夫、策がないわけじゃない。それに、諦めたらそこで終わりだ。ヴァン、キミは主人公だろ?」
「オレが、主人公……?」
弱気を払拭する意味も込め、あえて俺はそう口にした。
当然、俺だってビビっている。今回ばかりは正直、相手がヤバすぎる。
いくらゲームでエンシャントドラゴンを倒した経験があるとは言え、それはラストダンジョンを攻略できるレベルにまでキャラが育ち、装備が整い、かつ直前でセーブして万全を期して挑んだ場合だ。
今は、その全てが欠けている。
ここは
それでも、今戦えるのは俺たちだけだ。
逃げるわけにはいかない。
「で、どう戦う……?」
ゲームでのエンシャントドラゴンは、完全に倒すためには最低でも三度はエンカウントする必要があった。そもそもの遭遇率が低いため、この条件を満たすのがまた一苦労だった。
二度エンカウントできたとしても、三度めのエンカウントができずに延々とプレイ時間だけが伸びる、ということが何度もあった。
ヤツと三度も戦わなければならない理由は、極大なHPにある。
これをゼロにするには、一度の戦闘では時間がかかりすぎるため、ある程度までHPを削ると場を離脱し、どこかへ移動するという仕様になっていたのだ。
と、いうことは。
「ある程度HPを削ることができれば、被害は最小限に食い止められるはずだ……!」
あの巨体だ、地上に降りるだけでも甚大な被害が出るのは間違いない。
最小限の被害で食い止めるためにも、空中を飛翔している今の段階で、攻撃を仕掛ける必要がある。
しかし、エンシャントドラゴンの巨躯は遥か上空。
俺たちの攻撃は届かない。
「移動石でヤツの近くに……いや、それは無理か」
移動石はあくまでも場所のイメージに紐づいた移動手段だ。
あらゆるところへ自由に移動できるわけではない。
どうする?
「ガルッ!」
「…………っ!」
そこで、クロエがさらに加速する。
相対的に、強い風が吹く。
……そうだ、風魔法の『エアリフト』なら!
「ヴァン、キミは魔法が使えるよな!?」
「あ、ああ。使えるけど……まさかアンタ、エアリフトをかけろってんじゃ!?」
「ああ、そのまさかだ!」
さすがの勘の良さで、ヴァンが俺の意図を読んでくれる。
風魔法であるエアリフトは、対象に飛行能力を授ける風魔法である。
これをかけてもらい、空中で戦う作戦だ。
「ったく、やるしかないみたいだな……ただ、オレはあんまり魔法が得意じゃない。三回が限界だぞ!」
後ろからヴァンの声。限度は三回……だったら。
「わかった! それなら、クロエにだけかけてくれ!」
「ガウ、ワウ!」
相手は莫大なHPを誇るエンシャントドラゴン。体力を削るだけが目的だとしても、ある程度の持久戦は覚悟しなければならない。
クロエの背に乗りながら戦うことで、エアリフト三回分、空中での戦闘を行えるようにするのが得策だ。
「クロエ、やれるか!?」
「ガウゥ!」
駆けたまま、力強い返事をくれるクロエ。
お前となら、勝てそうな気がしてくるぞ……!
「ヴァン! 絶対振り落とされるなよ!!」
「オレを舐めるんじゃねぇ! やってやるさ!!」
俺の肩を掴むヴァンも、覚悟を決めたように拳を振り上げた。
「よし、いこう! ヴァン、頼む!」
「任せとけ! ……我が身に宿る精霊よ、その御身を司る風を巻き起こし、翼となりて我を羽ばたかせよ――『エアリフト』!」
「ガルルゥ!!」
ヴァンが詠唱を終えた途端、クロエの身体がふわりと浮き上がる。
疾駆するクロエが、一気にドラゴンの喉元へと迫る。
いよいよ、エンシャントドラゴンとバトル開始だ――
「くらえぇぇっ!!」
「ギギャアアアアアアアアアアア!!」
俺はエンシャントドラゴンの首めがけて、ケルベロスウェポンを一閃する。
――頼む、効いてくれ!!
:【体力】が上昇しました
:【魔力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【知力】が上昇しました
:【精神力】が上昇しました
:【運】が上昇しました
:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました
:【猟師】の職業熟練度が上昇しました
:【一般パッシブスキル『勇猛果敢』】を獲得しました
:【猟師のアクションスキル『アニマルアタック』】を獲得しました
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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
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