#26 一人と一匹、森に隠れる

「ここの森も鬱蒼としてるな」

「ガルゥ」


 俺は今クロエと共に、シュプレナードから見て西の最果て、プルラウラ王国の領土内にいた。

『LOQ』の正当な主人公『ヴァン・オルフェン』は、プルラウラの辺境にあるパオマ村にいる。


 ヴァンは、腕っぷし自慢の木こりの父と心優しい教師の母の間に生まれ、心身共にたくましく成長し、プルラウラ王に勇者としての才覚を認められ、旅立つ。

 これが、要するに『LOQ』の正史となる運命シナリオだ。その旅立ちのタイミングが、おおよそ今から一カ月後だったはず。


 俺ことレオンは、本来はもっと時間が経過してから出会う。

 ヴァンがプルラウラを旅立ち、たくさんの仲間と出会い成長し、いざ魔領域へと旅立たんとする直前、渡航手段を探している最中、アンシ村で飲んだくれていたレオンと邂逅する――そんな流れだ。


 というわけで、今この時点で出会ってしまうのはまずいかもしれないので、こうしてパオマ村近くの森から、バレないように観察しているわけなのだった。


 一人では少し不安だったので、相棒としてクロエも連れてきている。


 ただ、クロエの身体がどんどん大きく育っているため、少し目立つ。頭の赤角もみるみるうちに立派になり、もうすでにそんじょそこらの魔族には負けないほどの大きさになっている。


「クロエ、お前まさか……」


 黒柴を飼いた過ぎてさらっと捕まえた野良犬のクロエではあるが、LOQ本来のシステムで言うならモンスターをテイムした形なわけで、クロエも一応は犬型モンスターの一匹ではあるわけだ。


 と、いうことはもしかすると、クロエも強力な魔物なのではないだろうか?

 そう考えれば、この強そうな見た目にも納得がいくというものだ。


 強力なユニークモンスターであるケルベロスが追いかけてきたという意味でも、かなり強い個体なのかもしれない。

 ユニークモンスターは、同じ強さの個体を狙って狩り合っている、と言われているのだ。


 要するに、クロエもケルベロス級に強くなる可能性があるってことになる。


「でも、クロエはクロエだもんな」


 いや、でも強さとか関係ないな。

 とにかく可愛いんだよ、クロエはものすごく。


 俺みたいなおっさんにもすごく懐いてくれてるし、リバース村のみんなにだって可愛がられている。


 アリアナにあごの下をこしょこしょされると気持ち良さそうにするし、ルルリラとボール遊びするのも大好きだし、シェリとは大はしゃぎで散歩に行くもんな。


 うん、それでいいじゃないか。


「にしても、ヴァンらしき人がいない……」


 俺はもう一度周囲を見回してから、つぶやく。


 森に身を隠しつつ、様々な角度から村を観察したのだが、ヴァンがどこにも見当たらないのだ。

 ヴァンはパオマ村界隈では人気者で、知らない人がいないほどの有名人だ。


 見た目も主人公らしく特徴的で、赤い逆毛と木こりっぽいベストがトレードマークの、作中屈指のイケメンだったはず。


 あれだけ目を引く容姿なのだ、遠目からでもすぐに見つけられるはずなんだけれど……まさか、俺の行動の影響して主人公がいなくなったとか? いや、さすがにいくらなんでもそこまで大きい影響は起きないはず。


 ヴァンの年齢を考えると、俺がレオンとして覚醒する前に生まれているはず。

 すでにこの世界に存在していた人間が、俺の一挙手一投足によって消えてしまうなどということがあるのだとすれば、もっと世界は様変わりしてしまっているはずだ。


 確かに魔族が人間の領土で誕生するという、かなりのイレギュラーが起こる可能性が示唆されてはいるが、まさか主人公であるヴァンがいなくなるなんてことは……。


 が、そこまで考えて、ふと俺はその思考の全部が、あくまで俺個人の憶測でしかないことに気付く。


 もう、この世界では何が起きても不思議じゃないのだ。

 俺がストーリーを知っている『LOQ』だとは、思わない方が身のためかもしれない。


「ちょっとアンタら、そんなとこでなにしてんのさ?」

「わッ!?」


 そこで、突然。

 背後から声をかけられた。


 思考に集中しすぎて、後ろを取られてしまった形だ。


「キミは…………ヴァン、なのか?」


 振り返った背後に立っていたのは。


 男性ではなく――女性だった。


「ああ、いかにも。オレがヴァンだよ」


 はニヤリと得意げに笑い、堂々と宣言した。



:【体力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

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:【運】が上昇しました

:【放蕩者】の職業熟練度が上昇しました

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