#12 対ケルベロス
「はっ、はっ、はっ!」
とにかく、走る。
かなりキツイが、今日までの日課のおかげなのか、まだなんとか足は動く。
もし日課をこなしていなかったらと思うと、ゾっとする。
重たい腰痛と肩こりでバキバキな三十五歳の身体のままで、今ごろヤツのエサになっていたことだろう。
「大丈夫、絶対にお前を連れて帰るからな」
「ワン、ワン!」
足を動かしたまま、腕に抱く黒柴に話しかける。両腕の中に小さく丸まって、なんとも可愛らしい。こんな状況じゃなかったら、ずっと頬ずりをしていたいほどだ。
「「「グワオオオオオオオオオ!!」」」
後方から、またも激しい咆哮が響く。
「クゥン……」
「ごめんな、怖がらせて」
怯えてしまい、さらに小さくなった黒柴が鳴く。
くそ、このままじゃ埒があかない。
どうする――戦うか?
「勝機はあるのか……?」
逃げ続けながら、俺はケルベロスの攻略方法を思い出す。
ケルベロスは、魔属国家ジ・アポンに出現する『ユニークモンスター』だ。
魔物が出現する場所ではいつ何時でも遭遇する確率があり、それでいてゲームバランスを無視した滅茶苦茶な強さを持つのがユニーク個体だ。
こいつはまず身体がデカい。三頭の犬だが、その顔の高さは見上げるような位置にある。かなりHPも多く長い戦いを強いられる。
そして極めつけは、1ターンに三回攻撃してくるというゲームバランスガン無視の攻撃性能。
俺は初見プレイの際、こいつに瞬殺されてコントローラーを放り投げた記憶がある。
「だからこそ逆に、戦い方は覚えてる……」
そう、その凶悪さゆえにケルベロスは、ありとあらゆるユーザーによって攻略パターンを丸裸にされ、様々な攻略法を編み出された。
一番楽な討伐方法は、パーティーに『パティシエ』の職業に就いた仲間を加えて、1ターンごとに甘い物を与えて夢中にさせてその隙に殴り続けて倒す方法。ケルベロスはあの狂暴な見た目で、甘い物に弱いのだ。ギャップ萌え。
だが俺はパティシエではないので、この方法は無理だ。
次点では、音楽を聴くと眠ってしまう弱点を突いて、『吟遊詩人』や『演奏家』の仲間に音色を奏で続けてもらい眠らせて倒す方法。
だがこれも、俺には音楽の才能がないので無理だろう。悲しい。
「だったら……」
俺は決意して、振り向く。
巨大な三頭が、牙を光らせて突進してくる。黒柴の愛くるしい顔とは大違いだ。
「攻撃を全部読み切って、粘り勝つしかないな」
職業で弱点を突く方法が実行できないなら、今できることをやるしかない。
黒柴は腰のベルトで、自分の身体に固定する。少し苦しいかもしれないけど、ちょっとだけ我慢してくれ。
俺は覚悟を決め、集中力を高める。
「かかってこい」
「「「グルルワアアァァァァ!」」」
ケルベロスと、正面切って対峙する。
たぶん、今の強さでは本来絶対に勝てない相手だ。
だが――俺にはプレイ記憶というチートがある。
悪いが、全力でそれを使わせてもらうぞ。
ケルベロスの三つ頭は、それぞれが違う特色を持った火炎を吐いてくる。
右側が、ダメージと麻痺を引き起こす。左側が、ダメージと暗闇状態にして命中率を下げてくる。そして中央の頭が、ダメージと毒。
「グゥゥ、ワオォォ!」
こちらから見て右側の頭が、変則な動きをしてから吠えた。
あれは炎攻撃前の予備動作だ。
「グワオオオオ!」
「っ!」
極限の集中力を持って、炎攻撃をかわす。あえてヤツに近づくことで、炎の射線上から逃れる。先ほどまで俺がいた一帯が、瞬時に灰と化す。
「グワウッ!!」
「おわっ」
だが、頭に近づきすぎると今度は噛みつき攻撃が飛んでくる。
俺はなんとか身をひねり、すれ違いざまに剣を振り抜く。
「ギャウ!」
よし、一応ダメージは入っている。
時間はかかるがこれなら、ヤツの攻撃をかわし続けてダメージを入れていけば、必ず勝てるはずだ。
「「「ギィィ……」」」
「っ! まずい!」
三つ頭のすべてを引っ込めたら、要注意。
ケルベロスの中で最恐最悪の攻撃、『トリプルインフェルノ』を繰り出す合図だ。
即死級の威力と、麻痺、毒が同時に発生するチート攻撃。
くらえばほぼ間違いなくリセットボタンだ。
「今だ!」
「「「ビュオオオオオ!!」」」
火を噴いた瞬間、俺はケルベロスの胴体下へ潜り込む。
ヤツが三つ頭で火を噴き続ける時間、ここに潜り込めば無防備な身体へ攻撃し放題。
火を吐き終わって噛みつき、爪攻撃をしかけてきたら、また距離を取る。
そして炎を吐いてきたら、距離を詰めてかわす――この繰り返しで、ダメージを与えていこう。
俺は最大限の集中力を持って、事にあたった。
◇◇◇
「いい加減、倒れろ!」
「「「ギギャアアアア!」」」
もう何度目かもわからない攻撃が、ケルベロスの胴体へヒットする。
ヤツの四肢が大きくよろめいたので、俺は距離を取る。
「「「ギャウァン……ッ!」」」
最後、ケルベロスは弱々しく鳴いて、倒れた。
どしん、と音がして、地面が揺れる。
「はぁ……はぁ……」
なんとか――勝った。
俺自身、そろそろ限界だった。
紙一重での、勝利だった。
「ワン、ワンッ!」
「お前がいなかったら、負けてたよ」
「クゥゥン」
黒柴を締めつけていたベルトを解き、抱き上げる。
ご褒美と言わんばかりに、黒柴は俺の顔をぺろぺろと舐めてくれた。
「おいおい、くすぐったいって」
勝利の余韻に浸りながら、俺は黒柴のフワフワ感を大いに味わった。
ちなみに、ケルベロスからは革、牙、爪、これ以外に『ケルベロスウェポン』という、通常攻撃が三回になるぶっ壊れ性能の武器が手に入るのだ。
これはかなり、今後が有利になるのではないだろうか?
それに、ステータスもかなり上昇するはずだ。
俺、よく頑張った。
「だけどまあ、今回の一番の報酬はお前だな」
「ワン、アゥン!」
抱き上げた黒柴に、俺は心ゆくまで頬ずりした。
:【体力】が大幅に上昇しました
:【魔力】が大幅に上昇しました
:【筋力】が大幅に上昇しました
:【知力】が大幅に上昇しました
:【精神力】が大幅に上昇しました
:【運】が上昇しました
:【猟師のパッシブスキル『大物狩り』】を獲得しました
:【一般パッシブスキル『先読み』】を獲得しました
:【一般パッシブスキル『ジャイアントキリング』】を獲得しました
:【一般パッシブスキル『持久戦』】を獲得しました
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