【コラボ配信】魔法少女コンビで横浜中華街ダンジョンを攻略します【ヒバナちゃんと】
「みなさんこんにちは、新人ダンジョン配信者の雪姫です」
〔始まった!〕
〔姫は今日も可愛いな〕
〔雪姫ちゃん天使! 雪姫ちゃん天使!〕
〔コラボ配信……? 一体何バナちゃんなんだ……?〕
〔こん……こんば……〕
「天使だの可愛いだのとまた皆さんは……まあ今日は私一人の配信じゃないので見逃しますけど、そろそろNGワード設定も視野に入ってますからね。気をつけてくださいね。――というのは置いておきまして、コメントにもありますけど今日はコラボ配信です。それでは自己紹介をお願いします」
俺が配信用ドローンを操作してカメラを横に向かせ、隣に立つ少女が正面に映るようにする。
「……」
そこにいるのは一人の少女。
目を閉じその場に静かにたたずむ少女は、顔を下に向けたまま片手を上に向けていく。
それが真上に到達したのと同時、少女はカッ! と目を見開き。
「みなさんっっ、こん爆破――――!!!!」
ドォン!
少女が大きな声で挨拶すると同時に背後で爆発が起こった。
うおお爆風が吹き付けてくる!
俺が転びそうになる横で当人は平気そうにしている。
「ダンジョン配信者のヒバナです! 今日は雪姫ちゃんに誘ってもらってコラボすることになりました! よろしくお願いしますっ!」
〔ばなちゃんだあああああああ!〕
〔こん爆破!〕
〔こん爆破ァ!〕
〔こん爆破ああああああああああ!〕
〔爆発いるんか?(困惑)〕
〔いるに決まってるだろいい加減にしろ!〕
〔丁度こん爆破切らしてたから助かる〕
〔挨拶からクライマックスじゃねーか!〕
〔雪姫ちゃんびくってしてて草〕
加速するコメント欄。ヒバナの派手な挨拶に大盛り上がりだ。
というか俺は断じてびくっとしてない。爆風のせいで転びかけただけだ。決してそんな小動物みたいな行動はしてないとだけ主張したい。
「というわけで、今日はヒバナさんと二人でこの横浜中華街ダンジョンを攻略していきたいと思います。前回の配信を見てくださった方は知ってるかもしれませんが、ダッシュイーターに襲われて危なかったところをヒバナさんに助けてもらいまして。その後少しお話して、私のほうからコラボに誘わせていただきました」
〔魔法少女コラボは胸熱すぎる〕
〔かわいいとかわいいが合わさり究極にかわいい〕
〔視聴者が求めていたもの〕
〔同時接続者がトーコ姐さんとのコラボ配信の時超えてるからな……〕
〔初コラボで同接七万は草〕
〔夏休みとはいえ午前中に出ていい数字じゃねえ!〕
「本当に大変な視聴者数になってますね。いいですか皆さん、今日はヒバナさんもヒバナさんのファンの方もいるんですから、私一人の時みたいなセクハラ発言は慎んでくださいね」
俺に対してのセクハラはもはや諦めているがヒバナに対しては見過ごせない。月音いわくヒバナはまだ中学一年生。変質者たちの好きにさせたらトラウマになってしまうだろう。
〔※雪姫ちゃんへ さっきの爆風で太ももが見えて最高でした〕
〔※雪姫ちゃんへ ヒバナちゃんと愛してるゲームをやってみてください〕
〔※雪姫ちゃんへ 進行頑張っててかわいいねぺろぺろ〕
「違いますからね!? 私宛てなら何を言ってもいいという許可を出したわけではありませんからね!?」
Мチューブに任意の視聴者のもとに警察を差し向ける新機能を実装してほしい。それができれば今すぐこんな連中拘置所にぶち込めるのに。
視聴者たちとのやり取りを横で見ていたヒバナが目を輝かせて言ってくる。
「すごい! 雪姫ちゃんってリスナーさんとすっごい仲いいんだね!」
「これがそんなに褒められた関係だとは思えないんですが……」
今のやり取りを見てこの感想なあたり、きっとヒバナの心はとても清らかなんだろう。ますますうちの視聴者の好きにさせるわけにはいかない。
って、進行進行。
俺からコラボに誘ったからということで、今回の配信では俺が仕切ることになっているのだ。
「本題に戻りますが、私のほうから誘ったということで、今回は私の枠での配信となります。本当はヒバナさんの枠でも同時にできればいいんですが、ダンジョン内でのコラボ配信だとドローン同士がぶつかってしまう可能性がありますので……ご理解いただければと」
〔あーね〕
〔配慮たすかる〕
〔まあ人数によっては複数視点ないと見にくいとかあるかもしれんが、二人ならドローン一つのほうが絶対見やすいからな〕
「もちろん一回ごとに枠は交代していきますので、ヒバナさんの視聴者さんもご安心してください。……さて、今回の目標ですが、キーボス討伐を目指して進めていこうと思います」
初コラボだしヒバナとまともに連携できるかは未知数だが、目標としてはそんなところだろう。
〔いよいよか!〕
〔コンビ結成初回でキーボスいけたらすごいな〕
〔いうてダッシュイーター倒してるからな〕
〔うおおおおお楽しみ!〕
「それでは攻略を始めていきます! 準備はいいですか、ヒバナさん」
「……」
「ヒバナさん?」
「……こっちを見てる人はいない……よね。大丈夫だよね……?」
「あの、ヒバナさん」
「あ、ご、ごめん! どうかした?」
周囲をチラチラと気にしていたヒバナが慌てて返事をしてくる。
「説明も終わったので、そろそろ出発しようかと。……何か気になることでもありますか?」
まさか近くにモンスターがいたりするんだろうか。そんな気配はしないけどなあ。
「な、何でもないよ! それじゃあ頑張ろうね!」
「あ、はい」
まあ、本人がそう言うなら気にしないでおくか。
そんな感じで今日の配信はスタートした。
▽
密林の中を移動していく。
目指すはキー部屋だ。同じ密林の中にあるが、入口からだとかなり距離がある。
今のうちに相談しておこう。
「ヒバナさん。今更ですが、連携とかどうしましょうか」
コラボ配信ではお互いが力を合わせる必要がある――というかお互いの足を引っ張らないようにしないとコメント欄が荒れるらしい。
初回から上手くいくかはともかく、二人で戦う場合の合図やら決まった動き方やらは必要になる気がする。
「うーん……どうしようね? あたしあんまり誰かとパーティ組んだことないからよくわかんないんだよね」
「そうなんですか?」
ヒバナは社交的な印象なので意外だ。ずっとソロでやってる俺が言えたことじゃないが。
「うん。だからさ、まずはあたしたちお互いのことをもっと知ろうよ!」
「お互いのことを知る……」
「今から交互に一人でモンスターと戦って、それをもう片方に見せるの。そうすれば何か見えてくるんじゃない?」
「なるほど」
一応動画くらいは見てきたが、実際見るのとはまた違うだろう。
ガサガサッ……
『『『シャアアアアアアアッ!』』』
茂みを突き破って小型恐竜型モンスター、リトルラプトルが現れた。
って数が多いな! 十体もいるぞ!?
リトルラプトルは俺たちを取り囲んでじりじりと迫ってくる。
〔囲まれたか……〕
〔こいつら足音消すのうまいんだよなぁ。気付いたら近くに寄られてるとかあるある〕
〔しかも単独じゃなくて群れとか最悪の引きじゃねーか!〕
『『『グルアアアア!』』』
一斉に襲い掛かってくるリトルラプトル。俺は咄嗟に<初心の杖>を構えたが、俺が何かするより早くヒバナにひょいっと抱えられた。
「ちょっとごめんね雪姫ちゃん」
「え? えっ?」
「炎神フラムよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは形なき爆ぜる具足、【ボムグリーブ】!」
ドウッ!
浮いた!?
詠唱を終えると同時にヒバナの足元が爆ぜた。足に例の爆発付与を施したのだ。一気に二メートル近く浮き上がり、リトルラプトルたちの包囲から上に抜け出す。
「もう一回!」
ドンッ!
ヒバナの両足に宿っていた炎のうち、残った左足のほうが空中で爆ぜる。その衝撃で俺たちは新たな推進力を得て近くの木の枝に着地した。
『ギャウ、ギャウッ!』
リトルラプトルたちは木の根元まで寄ってくるが、俺たちのところまではジャンプしても届かないようだ。
「雪姫ちゃん、急にごめんね。大丈夫?」
抱きかかえた状態から俺を下ろしてヒバナが心配そうに言ってくる。
「は、はい。大丈夫です……」
「そっか。それならよかった」
にっこり笑うヒバナ。
「……!」
「どうかした? もしかしてやっぱり怪我とか……」
「だ、大丈夫です! 何でもありませんから!」
心配そうに顔を覗き込んでくるヒバナから慌てて視線を逸らす。
ピンチを助けられた後にこの笑顔は危険だ。
仮に俺が本物の十二歳女子だったら初恋を奪われていた可能性がある。
本当に危険だ……!
〔お姫様抱っこ……だと……!?〕
〔モンスターに囲まれた雪姫ちゃんを咄嗟にお姫様抱っこして脱出とか王子様かな?〕
〔雪姫ちゃん固まっててかわいい〕
〔この二人もしかして相性が……〕
〔いいですねぇ……ふふ……〕
視聴者がだんだん気持ち悪くなってきた。ヒバナのところの視聴者がうちの視聴者に汚染されないことを祈るばかりだ。
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