真・新宿ダンジョン攻略配信

「みなさんこんにちは、新人ダンジョン配信者の雪姫です。今日もダンジョン攻略をやっていきます」


〔きたあああああああああ〕

〔待ってた!〕

〔雪姫ちゃん!〕

〔姫は今日も可愛いな〕

〔綺麗で可愛いお姫様!〕


 配信開始と同時にコメントの勢いが増す。視聴者数は当然のように十万を超えている。夏休み中であることや、妖精の情報目当てで注目を集めていることがあるとはいえ、配信が始まる前からこれだけの人数が待機している事実がもはや怖い。しかもどんどん増えてるし。


 リーテルシア様との雑談配信があった翌々日、俺は新宿ダンジョンで配信を行っていた。良くも悪くも注目度が上がっている状況を利用しない手はないからな。


「先日の雑談配信では色々ありましたね。初見の方も多いと思うので改めてお話しますが、妖精についての質問はリーテルシア様の質問箱にお願いします。この配信中にコメントされても反応できませんので、ご了承ください」


〔りょ!〕

〔リーテルシアママ、めっちゃ親切に質問に答えてくれるらしいな〕

〔今度ダンジョン研究者と対談するってTwisterで投稿してて目玉飛び出た〕

〔本当に世界変わってて草〕


 リーテルシア様は質問ボックスだけでなくTwisterにもアカウントを作っており、寄せられた質問に対する回答を発信している。開設して一日でフォロワーが数千万人に達したあたり、どれほどリーテルシア様の存在が貴重かわかる。有名な学者との対談まで決定したというんだから驚きだ。


 世間のほうもまだリーテルシア様の存在をどう受け取っていいか探っている段階だろうが、リーテルシア様ならうまいこと着地するだろう。


〔っていうか百万人おめでとう!〕

〔おめ!〕

〔もう登録者百万人かww速いなww〕


「ありがとうございます。そうなんですよね、私のチャンネル登録者数が昨日の夜で百万人を超えました。Мチューブ史上最速だそうです。……私、普通に探索者としてはまだ新人なので、正直かなり腰が引けてるんですが……ああ、ゴールドチャットが大変なことに! 本当にみなさん、無理をなさらないでくださいね!?」


 Мチューブの俺のチャンネルは、月音の予想通り昨日あっさり登録者百万人を突破した。おかげでゴールドチャットが山ほど飛んできており、配信が終わる頃には合計いくらになるか想像もつかない。


「ええと、それでは今日の配信について説明を。前回の配信ではキーボス攻略まで進めたので、今日は可能であればガーディアンボスと戦うところまでやっていきたいと思います。前回は色々あって途中で切り上げざるを得ませんでしたから……」


〔まあ確かに前回は……w〕

〔妖精登場の歴史的瞬間だったな〕

〔あれはしゃーない。配信どころじゃなかっただろうし〕

〔ガーディアンボス戦楽しみ!〕


「そうなんですよね。それで、今日の配信ですが、実はゲストがいまして……紹介します」


 俺はちらりと視線を配信用ドローンの奥に向ける。カメラの死角になるそこには、配信開始前からずっとうずうずしていた存在が待機しているのだ。俺からの目配せを受けたそいつは意気揚々とこっちに飛んできた。


「ごきげんよう人間諸君。今日からまだまだ弱っちいユキヒメを守ってあげるべく、このガーベラが、この、“はいしん?”に参加することになったわ! 本当は人間の前で力を披露するなんて冗談じゃないけど、特別に私の力の一端を見せてあげましょう!」


 金髪ツインテールの妖精、ガーベラは尊大な態度でカメラに言ってのけた。


「……えー、というわけで、今日からこの子と一緒に探索していきます。私以上に配信に不慣れな子ではありますが、温かい目で見てもらえると嬉しいです」


〔!?!?!?〕

〔妖精とパーティ組むってこと!?〕

〔間違いなく人類初で草ァ!〕


 加速するコメント欄。まあそうなるよな。ガーベラは「何よこれ、全然読めないじゃない!」と怒っている。


 昨日の夜リーテルシア様から再度連絡があり、ガーベラの同行を提案されたのだ。理由は俺の戦闘面の不安。以前リーテルシア様と話したように、魔術師の俺が一人でダンジョン探索をするのには限界がある。かといって俺が普通にパーティを組むのはTSバレ回避の観点すら難しい。


 しかしガーベラは例外だ。戦うための力を持ち、TSについて知られても致命的な問題にはならない。隠し事が下手そうなガーベラにTSのことがバレたらそれはそれで危険だが、その場合はリーテルシア様に何とかしてもらう手はずになっている。


リーテルシア〔ガーベラ、あまり突っ走らないように。ユキヒメのいうことをよくきくのですよ〕


 そんなことを考えていたせいか、コメント欄にリーテルシア様が登場。


「あっ、お母様! 突っ走らないようにって……心配しすぎよ! 大丈夫、私賢いから!」


 ガーベラは嬉しそうにしているが、浮かれて余計なことを口走りそうでハラハラする。


〔ママァ!〕

〔リーテルシアママだ!〕

〔ばぶう! ばぶばぶ!〕

〔雪姫ちゃんとのキスは何味でしたか!?〕


 前回の配信でリーテルシア様のファンになった人たちも多いようで、コメント欄に幼児と変態が増え始める。もしかして俺はこれからこのカオスな状況をコントロールしていかないといけないのか? 配信歴一か月未満にやらせていい舵取りじゃないだろこれ。


 とりあえず話を本題に戻そう。


「リーテルシア様も見ている以上、気を引き締めないといけませんね。今日の配信ですが、目標は新宿ダンジョンのガーディアンボス攻略です。一緒に頑張りましょうね、ガーベラ!」


「ええ! 大船に乗ったつもりで任せなさい!」


 ……不思議だ。ガーベラは強い力を持っているとリーテルシア様から説明を受けているのに、自信満々なガーベラを見ると不安な気持ちになる。


 とはいえ今更路線変更なんてできるわけもない。


 そんな感じで、多少の不安要素を携えて三度目となる新宿ダンジョンの攻略配信は始まるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る