続・新宿ダンジョン攻略配信4
ハードホイールバグを倒した後、ドロップしたアイテムがどんなものか、視聴者に教えてもらいつつ把握した。
簡単にまとめるとこんな感じだ。
・鍵(ガーディアンボスの部屋を開けるアイテム)
・ハードホイールバグの甲殻
・黒い石(装備品に【確率防御】のスキルをつけるための素材アイテム)
鍵についてはそのままガーディアンボスの部屋を開けるためのアイテムだ。
甲殻についてだが、視聴者のコメントによると、基本的に鎧やら盾やらを錬金する際に必要なアイテムらしい。魔術師の俺には使い道がなさそうとのことだった。これは協会に売ってDPにしてしまっていいだろう。
一方黒い石――“付与結晶”は俺にとってかなり重要なアイテムになり得る。この黒い石はハードホイールバグのレアドロップらしく、武器や防具に錬金炉でくっつければ俺もさっきのハードホイールバグと似たスキルを使えるようになるんだとか。
まあ完全に同じというわけではなく劣化してしまうらしいが、それでもありがたい。耐久面には不安がありすぎることだし。
とはいえこのままだと使えないので甲殻同様マジックポーチにしまっておく。
また、ハードホイールバグを倒した時にステータス変化も起こっている。
まず、レベルが30に到達した。能力値は最低の力が13であるのに対し、魔力は361。ただでさえ高いのに、魔力は【一撃必殺】と<薄氷のドレス>の効果を合わせればさらに百倍となる。魔力36000って何? 俺は一体どこに向かっているんだろうか。
次に新しい魔術について。レベル30になったことで新しく獲得した魔術は【アイシクル】。氷柱の槍を飛ばすものだが、これは実際に使ってみないと使用感がわからないな。<薄氷のティアラ>によって使えるようになる【アイシクルハザード】と名前が似ているので、そっちの効果を予想するためにも、早めに試しておきたいところだ。
最後にスキル。なんと二つも手に入った。
【鎧砕き】:耐久に秀でる敵と戦う時攻撃力上昇。
【番狂わせ】:敵との能力値差が大きいほど、スキルの発動確率が高くなる。
【鎧砕き】は……まあ、あんまり効果は実感できなさそうだな。今まで敵の防御力に苦しめられた試しがない。【番狂わせ】は、ボス戦では使い勝手がよさそうだ。【一撃必殺】の発生確率が上がるなら短期決戦が狙いやすくなるからな。
こんな感じで、キーボス戦は大収穫だった。
本来今回の配信はキーボス戦までで終えるつもりだったが、せっかくなので【アイシクル】の試し打ちまでやっていくことにする。俺も試してみたいし、ボス戦の戦果を実感できるようなパートは視聴者的にも需要がありそうな気がするし。
キーボス部屋を出て第一森林エリアを移動しながら、配信用ドローンに視線を向ける。
「敵を見つけたら教えてくれると嬉しいです。その敵をさっき手に入れた魔術で倒して、今日の配信は終わろうかなと思います」
〔了解!〕
〔任せて〕
〔いかないで雪姫ちゃん〕
〔新しい魔術……いったい何シクルなんだ……〕
〔というか笛で蛇呼んだほうが早いんじゃない?〕
「絶対嫌ですよ! <樹蛇操りの縦笛>はしばらく封印します。オークションなんて始めたみなさんが悪いんですよ」
〔そんなぁ……〕
〔笛の先端が欲しいなんて言うから雪姫ちゃん怒っちゃった〕
〔真ん中の部分がほしいって言えばよかった……〕
〔↑そういうことじゃなくて草〕
変態たちが活性化するとわかっていて<樹蛇操りの縦笛>を使うわけにはいかない。必要に駆られれば使うかもしれないが、今はそんなに切羽詰まってるわけじゃないし。
『ピキュ!』
あ、モンスターが出た。
リーフスライムか。一つ手前の平原エリアによくいたモンスターだが、第一森林エリアでも現れるんだな。
<初心の杖>をリーフスライムに向ける。
「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは敵を穿ち削る氷槍!」
杖の先に氷の塊が現れる。それは徐々に変形し、やがては先端のとがった極太の円柱へと姿を変える。【アイスショット】が氷の塊だとするなら、これはまさしく氷の槍だ――かなり巨大な。
『…………ピキュ……?』
「……何だかすみません。今は威力の加減ができないんです」
<薄氷のドレス>の効果はダンジョンを出る、俺が死亡するといった過程を経ないとリセットされない。別に俺に加虐趣味はないというのに。いやスキルにはあるけど。
「【アイシクル】!」
ヒュンッ――ドガガガガガッッ!!
『ビギュァアアアアアアアアアアア!?』
巨大な氷の槍はリーフスライムに命中し、地面を盛大に抉りながら突き進んでいった。これは相当な威力だ。
「なんだか使い勝手がよさそうな感じがしますね」
【アイスショット】と【アイスアロー】のいいとこ取りをしたような魔術だ。シンプルだが貫通力が高くスピードもある。ガーディアンボスとの戦いでも出番がありそうだ。
〔リーフスライムさんがすり潰されたぁ!〕
〔なんというオーバーキル……まあ雪姫ちゃんだし普通だな!〕
〔うんうん、普通普通〕
〔キーボスワンパンなんだからリーフスライムなんてこうなりますわな〕
〔視聴者慣れてきてて草〕
〔【アイシクル】は氷魔術の中でも使いやすいから、高レベルになっても愛用してる人多いよな〕
やっぱり【アイシクル】は評価が高い魔術のようだ。ガーディアンボス戦の前に手に入ったのは幸運だったな。
「あれ、ドロップアイテムでしょうか?」
リーフスライムのいたあたりに何か落ちているのが見える。
<樹蛇操りの縦笛>といい、今日はラッキーだな。せっかくなので回収しよう。
「一体どんなものが――」
→ どんぐり
「……」
え? リーフスライムってどんぐり落とすの? 平原エリアで倒した時には普通の葉っぱだったけどな。第一森林エリア仕様、ということなんだろうか。
いや……待てよ。
確かこれ、探索者協会の資料で見たぞ。他のモンスターにがらくたを持たせて探索者に倒させ、ドロップアイテムの回収に来た探索者を罠にかけるというモンスターがいるのだ。
「やばっ……」
ビィン!
俺が慌ててその場から飛びのこうとするがすでに遅かった。足元に何かが巻き付いたかと思うと、俺は一気に空中に持ち上げられた。逆さづりにされたせいで視界が逆転する。高さは地上二メートル近くありそうだ。
そんな状態で、逆さづり――
「あ、だめだめだめだめ!」
俺は手を上に伸ばして落ちてこようとするスカートを押さえた。あっぶねええええ! 下は短めのスパッツを穿いているが、肌色の面積が大きすぎるとМチューブにBANされるのだ。というかスパッツですら別に見せたくないし!
〔うおおおおおおおおおお〕
〔見え……見え……!〕
〔見えない!〕
〔でも恥ずかしそうな雪姫ちゃんの表情が可愛いからヨシ!〕
〔罠猿さんだぁあああああああああああ〕
〔ありがとうございます罠猿さん!!!!〕
「ありがとうございます、じゃないですからね!? 少しくらい私の心配もしてください!」
大盛り上がりのコメント欄。この連中は……!
『キキキッ』
木陰から現れるにやついた表情の猿型モンスター。
「やっぱりいましたか……!」
“トラップモンキー”と呼ばれるモンスターだ。能力値は高くないが手先が器用で、植物のツルを使ってワイヤートラップのような罠を仕掛けてくる。罠は囮にしたモンスターが倒れた瞬間まで実体をもたないうえ、高度な隠蔽が施されており目視できない。実際俺も引っかかるまでまったく罠の存在に気付かなかった。
ビュンッ!
「ひゃあああ!?」
身動きの取れない俺目がけてトラップモンキーが石を投げつけてくる。まずい! 今の俺は<薄氷のドレス>のデメリットで耐久が1しかないっていうのに!
反撃しようにも<初心の杖>は地面に落としてしまったので難しい。石を投げ続けられている状態で詠唱なんてしていられないし……!
あ、そうだ!
「【氷の視線】!」
トラップモンキーに視線を合わせてスキルを発動。これで相手の動きを止めて詠唱する時間を稼げば生還できる可能性も――
『?』
きょとんとした顔で首を傾げるトラップモンキー。こ、【氷の視線】を無効化された!?
……いや、違う。失敗したのだ。もともと【氷の視線】は確実に成功するスキルじゃない。魔術耐性の低いモンスターとばかり戦っていたから気にならなかっただけで、本来このスキルは成功率にムラのあるものなのだ。とはいえこんな時に失敗しなくても!
こうなったら<樹蛇操りの縦笛>でツリースネークを呼ぶしか……いや無理だ! 縦笛なんて吹いたらスカートを押さえられなくなってそれはそれで大変なことになる!
まずい、万策尽きたぞ。どうするんだよこれ。というか配信での初死亡がこれなのは納得がいかないんだが!? キーボスはちゃんと倒したのに!
『キキィ――――ッ!』
トラップモンキーがとどめとばかりに石を投げてくる。
こ、ここまでか……!
ガンッ!
「……ん?」
なんだこれ? 半透明の……壁? ハードホイールバグの“攻撃無効化”に似た不思議な壁が俺を投石から守っていた。驚く俺の上下逆転した視界に何かが映り込んだ。
それは長い金髪を頭の両横でくくり、ツインテールにした小さな人型の存在。
「……妖精?」
この半透明の壁はこの金髪妖精が出してくれたんだろうか? ありがたいが……そもそも妖精ってこういう能力があるんだったっけ?
「ふん、卑怯な戦い方をするじゃない」
そんなことを考える俺の前で、金髪妖精はトラップモンキーを見下ろしながら冷ややかな声を発した。トラップモンキーが困惑したような気配を発する中、さらに金髪妖精は言葉を続ける。
「――でも、残念だったわね! このユキヒメはお母様が見初めた私たち妖精の協力者。可憐で強くて聡明なこのガーベラ様がいる限り、簡単に危害は加えさせないわ!」
ビシィッ! と指を突き付けてそう言い放った。
………………、
……え?
この金髪妖精、今、俺と妖精の関係についてバラした……?
〔妖精!?〕
〔ファッ!?〕
〔待って待って待って待って!?〕
〔妖精が喋ったァアアアアアアアアアアア!?〕
〔何これ? え? ナニコレ!?〕
〔っていうか雪姫ちゃんを守ってないか?〕
〔協力者って何のこと!?〕
〔お母様って誰ええええええええ!?!?〕
〔妖精が探索者のことを守るなんてあり得ないだろ〕
〔スキル? 魔術? みたいなの使ってる? この妖精!?〕
ああああああああああ、コメント欄が今日一番のスピードで流れてる! 爆速で流れるコメントの中で目に留まるのはどれも困惑を示すものばかり。妖精が喋り、探索者を助けるというのがどんなに異常なことかそれだけでわかる。
「助けに来たわよ、ユキヒメ! まったく人間は弱っちくて困るわね! ちなみに別に格好良く登場するシーンを見計らってたわけじゃなくてたまたま通りかかったのよ!」
金髪妖精は、肩越しに振り返りざまバチーン☆と大きな瞳でウインクしてきた。心なしか台詞の最後のほうが言い訳っぽかったような気がしてならない。
『キィッ……』
「ふん、とりあえずあれを倒すのが先ね。――聖神ラスティアよ、我に力を貸し与えたまえ。彼の者に猛き力を【ストレングス】!」
詠唱!?
金髪妖精は何かしらの魔術を使うと高速飛行してトラップモンキーに近付き拳を振りかぶる。
「せえのっ!」
バゴンッ!
金髪妖精はその勢いのままトラップモンキーの顔面を殴り飛ばした。
『ギキャアッ!?』
うお、すごいパワーだ。トラップモンキーは吹き飛び、奥の木に叩きつけられ魔力ガスと化した。小さな体からは想像もできない威力である。
「わぁあああ」
トラップモンキーが倒されたことで俺をぶら下げていた罠も消滅した。頭から落下しそうだったところを、空中で何とか体勢を整えて着地。奇跡的に魔力体は無事で済んだ。
……さて。
「まったく、危ないところだったわね! 私が近くにいたことに感謝するがいいわユキヒメ! さあ、何か言うことがあるんじゃないかしら! 命の恩人であるこのガーベラ様に!」
ドヤ顔でお礼を要求してくるガーベラと名乗った金髪妖精。
滝のように流れ続ける阿鼻叫喚のコメント欄。
月音からの怒涛の連絡だろう、ひたすら振動し続けているダンジョン用スマホ。
俺は遠い目をした。
…………この状況、どうしようかなあ……
――――――
―――
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