続・新宿ダンジョン攻略配信2
〔笛の音ってことは〕
〔あー、あれか……〕
〔雪姫ちゃん、音のしたほうに向かったほうがいい! 時間かけると面倒なことになるかも!〕
「え? 何かまずいんですか、この笛?」
何だ何だ。まだ新宿ダンジョンのモンスターを覚えきれてないんだよ。出現頻度の高いモンスターはさすがに覚えているから、トレジャーゴブリンみたいなレアモンスターのたぐいだろうか?
『『シャアアアアア!』』
「ツリースネークが二体っ!?」
さっき倒したツリースネークが二体寄ってきた。しかも上から。慌てて走って距離を取り、【フロスト】で動きを遅くしてから一体ずつ無詠唱の【アイスショット】で仕留める。
『『『シャアアアアアア!』』』
「さ、三体……?」
おかしい。探索者協会の情報によれば、ツリースネークは単体で行動するはずなのに!
……いや、待てよ。
確かサイトの注意書きみたいな部分に何か載っていたような……
〔あかん、負けパターン入ったか〕
〔こうなる前に倒さないといけないんだよなあ、あれ……〕
リーテルシア〔蛇使いが近くにいるようですね。笛の持ち主を探して倒せば、蛇の群れは散り散りになるはずですよ。頑張ってください、ユキヒメ〕
それだ! 蛇使い――“スネークアジテーター”という、下半身が蛇で上半身が人型っぽいモンスターがここには出現する。
そいつが特殊な笛を吹いてツリースネークを操ることがあると協会の資料に――ってちょっと待て!
「りっ……」
リーテルシア様ァ!? コメント欄で何してんのこの人!
コメントの口調を見る限り名前がたまたま一致している他人ではないだろう。確かにスマホがあれば動画視聴もコメントもできるけど、それにしたって使いこなしすぎじゃないか!?
『『『シャアアアアアアアア!』』』
「わあああああ」
と、とりあえず今はツリースネークの排除が優先だ。操られている時は能力が下がるのか、ツリースネークたちは動きがそこまで速くない。走って距離を取る→【フロスト】→【アイスショット】の各個撃破で目の前の三体を処理する。
しかしその頃には追加のツリースネークが。き、キリがない……!
〔蛇使いはソロと相性悪いからなあ……〕
〔本体は弱いけど、遠くからタゲられるとなぶり殺しにされる〕
〔雪姫ちゃん、囲まれる前に一旦逃げたほうがいいかも!〕
コメントの言う通り、蛇使いはソロ探索者にとって天敵ともいえるタイプの敵だ。多数に襲われるのが一番キツいんだよな。
逃げたほうがいいのはわかるんだが……昨日リーテルシア様とは電話で戦闘面の不安について話し合ったばかりだ。今リーテルシア様の前であんまり情けないところを見せるのはちょっと気が引ける。
「何とかしてみます!」
やるだけやってみよう。ツリースネークの群れをかいくぐって蛇使いのもとまでたどり着くのは不可能だろうから、この場所から倒すしかない。
笛の音が聞こえるのは右斜め前方。笛の音の大きさからして、距離は二十~三十メートル程度だろう。ただ、木々に阻まれて姿は見えない。
この状況なら……
『『『シャアアアア!』』』
「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは冷ややかなる霜の吐息、【フロスト】!」
位置取りを調整し、俺と蛇使いのいるであろう大雑把な場所の直線上にツリースネークたちが来る直前で【フロスト】を発動。本命の魔術を詠唱する時間を稼ぐ。
……と、先に確認しておこう。
「そっちの方角に誰かいますか――――っ!?」
ポーチから<邪操りの拡声器>を使って蛇使いがいそうな方向に叫ぶ。このダンジョンにインプは出現しないので、ただのメガホンとして使って問題ない。かなり大きな声で叫んだが応答なし。……よし、誰もいないな。なら作戦続行だ。
「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは疾く駆ける氷の矢!」
『『『シャアア――ァア――……』』』
ゆっくり動くツリースネークたちが理想の位置に着いた瞬間、俺は氷の矢を放った。
「【アイスアロー】っ!」
ズドン! ――バキバキバキッ!
〔ファッ!?〕
〔木がへし折れてませんか……? あの……〕
〔威力高すぎィ!〕
スキル【加虐趣味】は対象の耐性を下げるのではなく、俺の攻撃力(俺の場合は魔術師なので魔力)そのものを増やすものだ。前回の配信中に一撃で倒したツリースネークは【加虐趣味】の対象。その恩恵を受けるため、わざわざツリースネークが俺と蛇使いがいそうな場所を結んだ直線上に来るよう調整したのである。
威力が上がった氷の矢はツリースネークもろとも数十メートルにわたって木々を貫通し、幹に穴の空いた木々は自重で倒れていく。
よし、よく見えるようになった。以前神保町ダンジョンでは壁を壊したが、やはりダンジョンの地形はある程度の威力で叩けば破壊できるようだ。
同じ要領で残り二体のツリースネークにも【アイスアロー】を強化する踏み台になってもらう。邪魔な遮蔽物を削っていく。
もちろんこんなあてずっぽうの攻撃では蛇使いを倒すことはできないが、木々が倒れれば蛇使いを探し出せる。
『――――!?』
木々が倒れたことによる砂煙が晴れた先。森だった場所の奥にそれはいた。下半身は蛇、上半身はゴブリンのような外見のモンスターだ。手には木製の縦笛を持っている。
更地と化した第一森林エリアの中で、俺は安堵の笑みを浮かべた。
「――見つけた」
〔ヒェッ〕
〔パワープレイの極み〕
リーテルシア〔なるほど、魔術師ならばわざわざ直接蛇使いのもとに向かう必要はありませんね。木々を倒して見晴らしをよくすれば、あとは魔術で狙えばことは済みます〕
〔この惨状を見て冷静なリスナーいて草〕
「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは疾く駆ける氷の矢――【アイスアロー】!」
二十メートルほど先にいた蛇使い……スネークアジテーターは氷の矢で討伐することができた。
<レベルが上昇しました>
<新しいスキルを獲得しました>
「何とかなりましたね!」
配信用ドローンに向かって笑みを浮かべる。これでリーテルシア様も安心してくれたことだろう。
〔やってることヤバすぎィ!〕
〔蛇使い君かわいそう〕
〔逃げろとか言ってすみませんでした〕
〔ユニーク装備ってすごいなあ……(震え声)〕
〔雪姫ちゃん、多分ユニーク装備使ってないゾ〕
「そうですね。まだユニーク装備は使っていません。今のはただ魔術で木々を折っただけです。ダンジョンの壁や木は一定時間が経つと修復されますから。……それより、一応確認しましたが誰も巻き込んでませんよね……?」
〔モンスターとの戦闘で他の人巻き込むのは事故だからしゃーない。悪びれないのはよくないけど〕
〔気を付けてても巻き込み事故は起こるからな〕
〔わざとじゃないなら許す、が基本。今回は雪姫ちゃんが自分をタゲってたモンスターを倒しただけだし、事前に人がいないか確認もしたし問題なし!〕
視聴者は温かいコメントをかけてくれるが、人を巻き込んでいないか念のために確認する。木々の間を進み、誰かの装備品なんかがデスペナルティで落ちていないか見ていくが……うん、大丈夫そうだな。
「すみません、一度ステータスを確認します」
蛇使いを倒した時に新しいスキルを手に入れたようなので、見ておきたい。視聴者の同意コメントが多いのを見てから、『ステータス確認中……』表示を出してステータスのスキル欄をチェック。増えていたのが……
【地形破壊】:ダンジョンの地形に対するダメージ増加。
地形に対するダメージ増加、か。おそらく今回のような土木工事がやりやすくなるのだろう。……いらねー! これ、魔術を使った先で壁とか天井とか崩落するリスクが高まったってことじゃないか!?
「ステータスの確認が終わったので、キーボスの部屋に向かおうと思います……」
これからはもっと慎重に魔術を使わないとなあ……なんて考えてつつ、蛇使いがいた周辺までたどり着く。そして俺はふと気付いた。
ドロップアイテムだ!
「笛が落ちてました。蛇使いのものでしょうか?」
〔うおおおおお!〕
〔レアモンスと遭遇したうえに初回でアイテム落とさせるとかすげえな〕
〔やっぱ雪姫ちゃんリアルラック高くね?〕
〔ダンジョン「可愛い、お小遣い(レアモンス&ドロップアイテム)あげちゃう」〕
〔ダンジョンが俺たちで草〕
〔それ、<樹蛇操りの縦笛>だよ! 笛を吹いてる間は近くのツリースネークに命令できるっていうやつ〕
「<樹蛇操りの縦笛>、ですか……<邪精操りの拡声器>みたいなものでしょうか? 効果はかなり限定的みたいですけど」
せっかくだから使ってみようかな。口のあたる部分をドレスの裾で拭ってから、息を吹き込んでみる。
ぴーひょろろ。
『シャアアア!』
おおっ、ツリースネークが寄ってきた。
吹きながら念じると、ツリースネークはその場で体をくねらせて踊りを披露する。本物の蛇使いになった気分。
「ぴいっぴっぴー!(すごくないですかこれ!?)」
笛を吹きっぱなしなのでまともに喋れないが、この感動を共有すべく配信用ドローンに語りかける。ツリースネーク限定、しかも笛を吹いている間のみとはいえ何度でも命令できるのはすごい。<邪精操りの拡声器>は命令一回で終わりだからな。
たとえばツリースネークを操って囮にするのはどうだろう? モンスターの注意を逸らせれば、俺が魔術を放つ時間稼ぎくらいはできるかもしれない。
少なくとも新宿ダンジョン攻略中は何度か使う出番があると――
〔絵面が完全にリコーダーの練習してる女子小学生なのよ〕
〔雪姫ちゃん、縦笛めちゃめちゃ似合うな……〕
〔これはロリコン大歓喜ですわ〕
〔¥30000 雪姫ちゃん、そのリコーダー俺に売ってくれないか?〕
〔¥35000 いいや俺に!〕
〔¥50000 俺が一番払います〕
〔¥50000 先端だけでいいから! 先端だけでいいから!!〕
〔最低のオークション始まってて草〕
「……」
よし。
この笛は封印しよう。
▽
同時刻、配信を行う雪人を木陰からチラチラ見ている存在があった。
長い金髪を頭の両横でくくった妖精だ。
「ふーん……一応お母様が認めただけのことはあるわね。ま、蛇使いくらいあっさり倒してくれないと困るけど!」
正直森を破壊して蛇使いの居場所をあぶりだす力業にはなかなか感心したが、戦い方そのものは危なっかしいものだった。具体的にはツリースネークの群れに襲われた時、他のモンスターに対する警戒を怠っていたこととか。
総じて才能はあるけど戦いの経験が浅い、という印象だ。
とはいえ今のところこのダンジョンのモンスターに後れを取りそうな雰囲気はない。
「もうちょっと様子を見ようかしら。別にピンチになったところを颯爽と助けるのが格好いいとか、そんなこと考えてるわけじゃないけど。ええ、そんなこと考えてないわ」
雪人が移動するのに合わせ、金髪の妖精もこそこそとついていくのだった。
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